実はわたし、これでも高額納税者だし、児童養護施設やDV被害者のシェルターなどにも毎月寄付をしている。それが恵まれた境遇に生まれついた人間の務めだと思っているから……と言ったらちょっと高飛車に聞こえるかな?

「――さて、今度は貢のプレゼント買いに行こう。腕時計、どこで買おうか?」

 わたしたちはベンチから立ち上がり、次の目的地へ向かおうとした。
 腕時計は彼が誕生日プレゼントに「これが欲しい」とリクエストしてくれたもので、ファッションウォッチよりもスポーツウォッチのようなものがいいと聞いていた。その方が丈夫で壊れにくいし、防水加工もされているから、と。
 ボスのタイムスケジュールも管理している秘書にとって、腕時計は必需品なので、わたしもそのリクエストを即採用したのだ。

「そうですね……。検索した限りだとこの施設にはなさそうなので、一度出た方が――」

「あっ、絢乃タンだぁ♪」

 彼との会話に気を取られていると、すぐ近くからわたしの名前を呼ぶ女の子の声がした。

「あ、(ゆい)ちゃん! こんなところで会うなんて珍しいね」

 赤い伊達(ダテ)メガネをかけて短めのポニーテールを揺らしながら手を振ってくれた彼女は、三年生で初めて同じクラスになった阿佐間(あさま)唯ちゃんだった。メガネのフレームと同じ赤いチェック柄のシャツワンピースとニーハイソックスでおめかししていて、いかにも「今日はデートです」と言わんばかりだった。

「……あの、絢乃さん。この方、お友だちですか?」

「うん。四月にできたばっかりの親友で、阿佐間唯ちゃんっていうの。阿佐間先生のお嬢さんだよ」

「阿佐間先生って、今年度からウチの顧問になられた弁護士の?」

「そうそう。わたしもね、始業式の日に唯ちゃんから『ウチのお父さんがお世話になります』って言われた時はびっくりしたんだよー」

 わたしが貢に説明していると、彼女も向かいで「うんうん」としきりに頷いていた。

「で、この人は絢乃タンのカレシさんだよね? 唯も里歩タンから聞いてるよー♪」

「そうだよ。わたしの彼、桐島貢さん。会長秘書をしてくれてて、すごく頼りになるんだ」

「初めまして、唯さん。桐島です。絢乃さんとお付き合いさせて頂いてます」

「どうも、初めまして☆ 阿佐間唯で~す♪ ウチの父がお世話になってますっ」

 バカみたいにかしこまって自己紹介をした貢に、唯ちゃんは楽しげにビシッと敬礼なんかしてみせた。