お菓子を食べ、皆で人生ゲームをしている間に、カーテンの向こうが白くなってきた。

「ああ……今日は雪って天気予報で出てなかったのにな。このままだと道悪くなるから、今のうちに帰ったほうがいいかも」

 海斗くんは「あちゃー」と言うのに、私たちは上着を着て、帰り支度をした。

「それじゃあ、よいお年をー」
「早いじゃない。まだ一週間あるよ」
「俺は明日から家の手伝いでかかりっきり。スーパーで会いましょう」

 おどけて言う海斗くんに笑いながら、私たちはそれぞれのプレゼントを濡れないように鞄に入れながら、雪の降る道に出た。
 普段はころころ転がる粉雪しか降らないのに、今はベタッと貼り付く綿雪ばかりが降る。このスピードで降られたら、明日も積もっているかもしれない。

「亜美、あんまり早歩きしない。また滑るよ」
「う、うん……わかってる」
「はあ……これだけ寒かったら普通はブーツ履くのに、しばらくは長靴で我慢しないとなあ」

 菜々子ちゃんは溜息をついた。
 私たちはそれぞれの帰路につく。

「それじゃあ、よいお年をー」
「菜々子ちゃん。海斗くんにまだ早いって言ってたじゃない」
「言った言った。でもたしかに、あと一週間だったら、もう年越しまで会わないかもしれないしさあ。海斗くんにはスーパーに行ったら会うかもしれないけど」

 その言葉に噴き出しながら、私たちは別れた。途中までは大樹くんと一緒で、ふたりで黙って歩く。

「あの、大樹くんは来年。私立に行くんだよね?」
「うん……今回は僕たちの知らないことがたくさん起こった」

 その言葉にドキリとする。
 普段だったらこんなふたりっきりでもない場所ではしない話だけれど。今は雪のせいなのか、寒過ぎるせいなのか、道には誰もいないし、耳をそばだてる余裕もないから、平気で会話ができる。
 大樹くんは続けた。

「……もう、誰も死なないで欲しいな」
「ねえ、大樹くんは」
「なに?」

 私はどう答えるべきかと考えるものの、寒さのせいで上手く言葉がまとまらず、出てきてくれない。
 とうとう私は「クチュンッ」とくしゃみをしたのに、大樹くんは噴き出した。

「……早く帰ろうか」
「うん」
「あと亜美、これあげる」

 唐突に鞄からなにかを取り出されて、私は困惑した。その包みはクラフト紙のプレゼント包装に、モノクロのリボンが留めてあるもので、今日のプレゼント交換では見なかったものだった。
 ひと回り小さいものを、私の鞄の中にひょいと押し込まれる。

「な、なに……?」
「プレゼント。家に帰ったら開けて」
「うん……」
「メリークリスマス。よいお年を」

 言いたいことを言って、さっさと大樹くんは帰ってしまった。
 残された私は、ポカンとしていた。

「……ええ?」

 大樹くんがわからない。
 菜々子ちゃんのことが好きみたいな素振りをしてきたかと思ったら、私になにやら秘密の共有をしてきて。その上、私用にプレゼントまでくれて。
 生きててくれたらそれでいい。それで治めようと思っていた気持ちが、どんどんと勝手に膨らんでいく。
 期待しちゃいけない。期待だけはしちゃいけないよ。
 そう自戒するものの、家に帰る足取りは軽やかで、雪を払って自室に戻ったときには、失礼ながらも海斗くんへのプレゼントよりも先に、大樹くんのものを開いてしまっていた。

「……これ」

 私はくれたものを見て、息を飲んでいた。
 それはスノードームだった。私が皆のプレゼントに買ったものの、本当だったら自分が一番欲しかったもの……。
 役に立たない。ただのオブジェ。砂時計のほうがまだ役に立つ。
 何個も言い訳があったけれど、それ以上に私は「それでも好き」と強く思ったものだった。

「……私、別に大樹くんに好きなもの言ってなかったと思うのに」

 私たちは同じグループにいても、互いの好きなもの嫌いなもの苦手なもの得意なものについては案外しゃべっておらず、話し合いがちっとも足りてなかった。
 なのに、大樹くんは私の好きなものを正確に当てて、それを私にくれた。
 私の買ったものよりも少しだけセンスのいいそれは、雪の中に結晶が混ざっていて、雪を降らせるたびにキラキラと瞬いて綺麗だ。それを見ながら、私はそっとスノードームを抱き締めた。
 私が聞きそびれてしまった言葉。
 大樹くんは、いったい何回やり直しているんだろうと。繰り返し繰り返しやり直した中で、彼はなおも納得できなかったんだろうか。

「まだ……取り返しがつくのかな」

 全部私の妄想だ。彼がどこからどこまで知っているのかなんて、聞いてないんだから、わかりようがない。
 それでも。どうか私も大樹くんも、次の周回がありませんようにと、そう思わずにはいられなかった。