雪の中、皆は次々こけるせいなのか、あれだけ白けきった空気だったのが、どこかレクリエーション中の空気になってしまい、終業式は牧歌的な空気で終わることができた。

「ほんとーうに! あと一学期で学校廃校なのに! 雪! ホワイトクリスマス!」

 菜々子ちゃんは気のせいかものすっごくはしゃいでいた。海斗くんはかなり苦笑いしている。

「こりゃうち、予定してたもんがなかなか売り捌けないだろうなあ。こんなに雪降ってたら年寄りとか買い物に来ないし、若い人だって閉店セールに出てこられない」
「滑るからねえ。でも、クリスマスパーティどうする?」
「まあ、それは心配ないかな。まあうちで待ってるから」

 そう海斗くんはからから笑っていた。
 私たちは家に戻って私服に着替えると、セーターの下にカイロを貼り、雪に負けないように長靴を履いて、プレゼントを持ってから「行ってきます」と出かけることにした。
 昼になったら、冬休みがはじまったばかりだというのに、誰も外に出ておらず、空も白いまんまだ。雪は昼間には溶けてしまうのが通説だったから、これだけ積もったまま、誰も外に出ないなんて想像もしてなかった。
 海斗くん家は、スーパーの近所だ。昔ながらの住宅街は昔からの和風建築が未だに建ち並んでいる。その和風建築の一角が海斗くん家だ。塀からぴょこんと出ている植木は山茶花で、雪の中も赤い花を咲かせていた。むしろ白い雪を従えているようだから、山茶花は偉大だ。

「こんにちはー」
「ああ、亜美! いらっしゃい! うちもクリスマスって言ってもちっともクリスマスらしくないけど、ピザはあるし、ケーキは買ったから!」
「ピザ……今日なんて配達は無理なんじゃ?」
「親が最近ビールでつくるピザ生地に凝っててさあ、オーブンで焼いた奴あるよ」

 それはすごい。
 素直に感心していたら、菜々子ちゃんと大樹くんも到着した。ふたりともあれだけよそよそしかったのに、廃校まで三ヶ月とちょっとしかないせいか、もう離れて歩くこともなかった。

「こんにちはー……ああ、いい匂い!」
「入れ入れ。ああ、コートはそこにかけておいて。そんで食事はこっち」
「お邪魔します」

 通された家の中は、本当にびっくりするほど生活感が溢れている上に、ちっともクリスマスの雰囲気がない。クリスマスツリーを出してないのはもちろんのこと、リースすら飾ってないとは思わなかった。

「クリスマスパーティの割には、クリスマス感ないね?」
「スーパーなんて、本当だったらクリスマスは稼ぎ時だろ。親父もお袋もこの時期なんか残業で夜中まで帰ってこられないから。だからこそ、今日が大雪で売れないのは気の毒だよなあ」

 それはそうだ。普段から雪が降っている地方だったらいざ知らず、大雪が物珍しい中途半端なここだったら、交通網が死んでしまって、皆家に引きこもることしかできない。
 その中でも、皆でピザを食べ、なんだったら唐揚げも食べる。唐揚げをつくったのは海斗くんだった。生姜が利いてておいしい。

「唐揚げまで揚げたの」
「チキン焼きたかったけど、ピザ焼いてたらチキンまで焼いてられないし、だから唐揚げ揚げてた」
「油料理ってうちだったら嫌がられるのに」
「ICコンロだったら油ものってあんまりできないよなあ。うちは昔っからガス火だからできるけどさ」

 私たちはピザを食べながら唐揚げは三つくらいでギブアップしたけれど、海斗くんにしろ大樹くんにしろ、意外ともりもり食べる。

「大樹くんそんなに食べるの?」
「最近ずっと勉強し通しで、ほとんど一日四食食べてる状態だから。朝昼晩と夜食。今日はさすがに勉強しないけど、夜食抜きになったら腹が減る」
「それ絶対に体に悪いよ」

 菜々子ちゃんにツッコまれると、少しだけ大樹くんの頬が緩んだ。
 そこで私は勝手に傷付く。
 ……菜々子ちゃんはもうすぐ上京するから、ここにはずっといない。だから大樹くんとこの先なにがあっても一緒にはいられないんだから、そこでチクチク勝手に嫉妬するのはどうかしている。
 わかっていても、心はちっともままならない。
 私がうじうじしている中、ピザと唐揚げを流せるようにと、海斗くんがほうじ茶を淹れてくれた。

「それじゃあ、お茶飲んだらプレゼント交換しよっか! 皆それぞれ段ボールの中にプレゼント入れて!」

 海斗くんに言われ、私たちはそれぞれ段ボールの中にプレゼントを入れた。段ボールを閉じる海斗くんはそれをくるくると回した。

「それじゃあ、段ボールの上の部分に手を突っ込める部分があるから、じゃんけんで順番を決めて、ひとりずつ手を突っ込む! ふたつは取るなよ」
「小学生じゃあるまいししないよ、そんなこと」
「大樹、いつだって少年ハートを持ってないと人生やっていけないことってあるんだよな」

 そう嘯く海斗くんに噴き出しながら、皆でじゃんけんをはじめた。
 順番としては、大樹くん、海斗くん、菜々子ちゃん、私になった。私は皆のプレゼントを見守ってればいいんだなあ。そう思って待っていたら。大樹くんが取ったのは、ひと際可愛い包みで、どう見たってそれは菜々子ちゃんのものだった。

「これは……菜々子の?」
「うん、私の! じゃあ私は!」

 そう言って菜々子ちゃんが取ったのは、私の包みだった。

「シックなデザインは……亜美か!」
「うん……」

 菜々子ちゃんはそれを心底大事そうに抱き締める。それに私は少しだけほっとした。
 海斗くんが手にしたのは大樹くんのもので、私の手元にやってきたのは、海斗くんのものだった。