クリスマスプレゼントを用意。
そうは言っても放っておくと地元にあるショッピングモールで私たちは全員鉢合うため、さすがにそんなに気まずいことはしたくなかった。
考えあぐねた結果、一時間かけて電車に乗ってもう少し大きな街のショッピングモールに出かけることにした。
二時間かけて学校に行くよりも近いんだから、そこは得だ。親にはお土産でプリンを買うとして、ショッピングモールでなにを買うかを歩き回って考えることにした。
菜々子ちゃんや海斗くんに当たってもよくって、大樹くんにあげられたら嬉しいもの。
マフラーは有名ブランドのものがあるから、わざわざ高校生のお小遣いで買えるものを買ってもなあと思って取りやめ、くるくる回って物を考える。
本当なら。私は目の端にちらちらと映っているものを気にしていたけれど、三学期が終わったら上京してしまう菜々子ちゃんのことを思ったら、荷物になるだろうからと選ぶことが躊躇われた。
スノードーム。ただただ雪だるまの上に雪が降ったら綺麗だねと言われる季節限定のオブジェで、これを買うくらいだったらインスタントラーメンや紅茶を淹れる時間が計れる砂時計を買ったほうがいいんじゃというものだった。
でもなあ……。
私は砂時計を手にしながらも、どうしてもずっとスノードームを見てしまっていた。
十年前の私は、高校三年生時の受験勉強やら最後まで慣れなかった通学時間やらに忙殺され、二年生のときのクリスマスのことを思い出そうとしても全く思い出せない。ただ、大人になった私よりもよっぽど、役に立つもの使えるものよりも、そのときそのときを大事にしていたように思える。スノードームは集めるには少々嵩張るし、特になんの役にも立たない。でも私にとって、疲れ切った心を雪がちらちら降る様を見て慰めていたのだ。
誰に当たっても、誰かの心がひび割れそうなときの癒しになりますように。私はそう祈りを込めて、結局これを買って店員さんに声をかけた。
「すみません、これをプレゼント包装してください」
プレゼント包装紙はクラフト紙に雪の結晶模様が入ったシックなデザイン。リボンの色は考えあぐねた結果ワインレッドにした。
誰に当たってもいいように。私はそれを持って帰ることにした。
****
クリスマスソングが流れてくる。
ベッドタウンの街も、その日だけは浮かれ騒ぎのようにあちこちにクリスマスリースが飾られる。さすがにクリスマスツリーは片づける際に嵩張るし、イルミネーションは金がかかるから、すぐにしめ縄と差し替えやすいクリスマスリースが人気なようだった。
やる気のなかった学校も、もうすぐ冬休みとなったらやっとのことで浮かれ騒ぎになって、校内の空気もちょっとだけ軽やかになる。
でも。クリスマス近いその日は大雪だった。この辺りはあんまり雪が積もる場所ではなく、道路も封鎖されているのは珍しい。
学校に行こうとする中、お父さんはずっと会社と電話をしていた。
「行ってきます……お父さん大丈夫?」
「電車が出ないんですって。会社に行けないから問い合わせてるけど……昼にはさすがに雪溶けるんじゃないかしらね」
雪が溶けても、これだけ冷え込んでたらアイスバーンになって危ないと思うんだけど。
そう思いながら私は「行ってきます」と声をかけてから、学校へと向かった。
しゃく、しゃく、と足音が鳴る。
学校に向かう生徒は皆、靴が半分ほど雪にのめり込んでしまうのに「これ学校本当に行けるの!?」と悲鳴を上げていた。
自転車はまず漕げないだろうし、雪が中途半端に溶けてアイスバーンになったら怪我人が出るだろうな。そうぼんやりと思っていたら。
足がツルンと滑った。
「あっ」
見えない先にはマンホール。マンホールの上に積もった雪が意外と固まっている上につるつると滑る。私はそのまま大きく尻餅を突きそうになる……ここで尻餅突いたら無茶苦茶痛いだろうな。
頭を打ち受けないよう、とっさに鞄を頭に向けたとき。私は腕を取られて引っ張り上げられた。
「あ……」
「大丈夫? あー……マンホールが雪に埋もれて見えなかったんだ。濡れたマンホールって滑りやすいよね」
アスファルトでなんとか踏ん張れた私を助けてくれたのは、大樹くんだった。
「ありがとう……」
「……うん。今日は帰り危なそうだし、早く帰れるといいよね。クリスマスプレゼント買った?」
「あっ、うん! 大樹くんは?」
「一応は。行こうか」
「……うん」
大樹くんは私から手を離すと、私に合わせてゆっくりと雪の上を歩きはじめた。私はそれに合わせて一緒に歩く。
そこで気が付いた。
あと何回。あと何回こうして一緒に歩けるんだろう。そう考えると胸の奥がキューンと痛んで、鼻の奥がツンとする。それに気付かないふりをして、私たちは一緒に学校へ向かったのだ。
そうは言っても放っておくと地元にあるショッピングモールで私たちは全員鉢合うため、さすがにそんなに気まずいことはしたくなかった。
考えあぐねた結果、一時間かけて電車に乗ってもう少し大きな街のショッピングモールに出かけることにした。
二時間かけて学校に行くよりも近いんだから、そこは得だ。親にはお土産でプリンを買うとして、ショッピングモールでなにを買うかを歩き回って考えることにした。
菜々子ちゃんや海斗くんに当たってもよくって、大樹くんにあげられたら嬉しいもの。
マフラーは有名ブランドのものがあるから、わざわざ高校生のお小遣いで買えるものを買ってもなあと思って取りやめ、くるくる回って物を考える。
本当なら。私は目の端にちらちらと映っているものを気にしていたけれど、三学期が終わったら上京してしまう菜々子ちゃんのことを思ったら、荷物になるだろうからと選ぶことが躊躇われた。
スノードーム。ただただ雪だるまの上に雪が降ったら綺麗だねと言われる季節限定のオブジェで、これを買うくらいだったらインスタントラーメンや紅茶を淹れる時間が計れる砂時計を買ったほうがいいんじゃというものだった。
でもなあ……。
私は砂時計を手にしながらも、どうしてもずっとスノードームを見てしまっていた。
十年前の私は、高校三年生時の受験勉強やら最後まで慣れなかった通学時間やらに忙殺され、二年生のときのクリスマスのことを思い出そうとしても全く思い出せない。ただ、大人になった私よりもよっぽど、役に立つもの使えるものよりも、そのときそのときを大事にしていたように思える。スノードームは集めるには少々嵩張るし、特になんの役にも立たない。でも私にとって、疲れ切った心を雪がちらちら降る様を見て慰めていたのだ。
誰に当たっても、誰かの心がひび割れそうなときの癒しになりますように。私はそう祈りを込めて、結局これを買って店員さんに声をかけた。
「すみません、これをプレゼント包装してください」
プレゼント包装紙はクラフト紙に雪の結晶模様が入ったシックなデザイン。リボンの色は考えあぐねた結果ワインレッドにした。
誰に当たってもいいように。私はそれを持って帰ることにした。
****
クリスマスソングが流れてくる。
ベッドタウンの街も、その日だけは浮かれ騒ぎのようにあちこちにクリスマスリースが飾られる。さすがにクリスマスツリーは片づける際に嵩張るし、イルミネーションは金がかかるから、すぐにしめ縄と差し替えやすいクリスマスリースが人気なようだった。
やる気のなかった学校も、もうすぐ冬休みとなったらやっとのことで浮かれ騒ぎになって、校内の空気もちょっとだけ軽やかになる。
でも。クリスマス近いその日は大雪だった。この辺りはあんまり雪が積もる場所ではなく、道路も封鎖されているのは珍しい。
学校に行こうとする中、お父さんはずっと会社と電話をしていた。
「行ってきます……お父さん大丈夫?」
「電車が出ないんですって。会社に行けないから問い合わせてるけど……昼にはさすがに雪溶けるんじゃないかしらね」
雪が溶けても、これだけ冷え込んでたらアイスバーンになって危ないと思うんだけど。
そう思いながら私は「行ってきます」と声をかけてから、学校へと向かった。
しゃく、しゃく、と足音が鳴る。
学校に向かう生徒は皆、靴が半分ほど雪にのめり込んでしまうのに「これ学校本当に行けるの!?」と悲鳴を上げていた。
自転車はまず漕げないだろうし、雪が中途半端に溶けてアイスバーンになったら怪我人が出るだろうな。そうぼんやりと思っていたら。
足がツルンと滑った。
「あっ」
見えない先にはマンホール。マンホールの上に積もった雪が意外と固まっている上につるつると滑る。私はそのまま大きく尻餅を突きそうになる……ここで尻餅突いたら無茶苦茶痛いだろうな。
頭を打ち受けないよう、とっさに鞄を頭に向けたとき。私は腕を取られて引っ張り上げられた。
「あ……」
「大丈夫? あー……マンホールが雪に埋もれて見えなかったんだ。濡れたマンホールって滑りやすいよね」
アスファルトでなんとか踏ん張れた私を助けてくれたのは、大樹くんだった。
「ありがとう……」
「……うん。今日は帰り危なそうだし、早く帰れるといいよね。クリスマスプレゼント買った?」
「あっ、うん! 大樹くんは?」
「一応は。行こうか」
「……うん」
大樹くんは私から手を離すと、私に合わせてゆっくりと雪の上を歩きはじめた。私はそれに合わせて一緒に歩く。
そこで気が付いた。
あと何回。あと何回こうして一緒に歩けるんだろう。そう考えると胸の奥がキューンと痛んで、鼻の奥がツンとする。それに気付かないふりをして、私たちは一緒に学校へ向かったのだ。