私がうだうだとしている間にも、夏休みは進行していく。
蝉が最近元気がないのは、夏が更けすぎたせいなのか、それとも暑くてやる気がなくなってしまったのか。
暑いなりにどうにか宿題を終え、私は大樹くんの元に通っていた。
大樹くんは予備校に通いながらも、なんだかんだ言って私と会ってくれていた。それをときどき実家の手伝いをしている海斗くんはものすごく喜んでくれていた。
「よかったなあ、亜美。最近大樹となんだかんだ言って一緒にいられて」
「うん……」
違うよ。私たちの関係がちょっと変わっちゃったから、結果的に一緒にいるだけだよ。大樹くんが私に興味あるかどうかまでは、ちっともわからないよ。
そう思っているものの、海斗くんにそのことは言えないままだった。
ふたりでどうしたら平和に過ごせるかを話していても、互いになにを伏せカードにしているからわかっているから、どうしても会話が詰まってしまっていた。
……ふたりとも、誰かが死ぬ結末を変えたいと言っているけれど、誰が死ぬのかを言っていないんだ。
大樹くんが助けようとした人は、私は薄々考えている。菜々子ちゃんだろうと。
菜々子ちゃんの男嫌いは、ちょっと度が過ぎている。彼女は嫌な目に遭い過ぎたせいで、とうとう大樹くんまで嫌いになってしまった。彼女が男嫌いをこじらせ過ぎた結果、自棄を起こしたのが大樹くんの十年後だったんじゃあと踏んでいる。
一方大樹くんは、私が誰が死んだのかをわかっていないようだった。
ふたりで作戦会議を行うのは、もっぱら図書館だった。勉強用に貸し出されている自習室でしゃべると怒られるため、必然的に図書館の棚と棚の間に、返却用に使っている台にもたれかかって、ひっそりと声を潜めての会話になる。
冷房が効いている上に、夏休みは意外と親子連れでたくさん遊びに来ているから騒がしい。そのおかげで私たちが話をしていても、誰もこちらに気を留めないんだ。
ふたりでそれぞれの記憶の断片をノートに書いては、それを見せ合っていた。
「でも……いろいろと変わっているけれど、変わってないものもあるんだよな」
「変わってないもの?」
「……それが変えられたら、大幅に変わると思うんだけど」
どちらも、十年後街が干涸らびている経験を味わっている。
……高校の廃校だ。子供が育てられない街にはわざわざ越してくる訳もなく、どんどん人口が減って、最終的に引っ越し前提の家族か年寄り、公務員や住民相手に商売をしているサービス業の人々以外、誰もいなくなってしまう。
普通に考えれば、廃校の決定が覆れば私たちが進路バラバラになって、誰かが死ぬ結末は変えられるはずなんだけれど。そこで私たちは躓いてしまう。
「……廃校の決定って、数年単位で決まるものだよね? 今からやめてって言えるものなの? そもそもこれっていつ決まったものなの?」
「多分それは市議会が決定を決めるはずだけれど。問題は発表を僕たちが知っているって事実をどうやって説明すればいいかなんだよね」
「ネットで流すとか」
「……亜美、知っているとは思うけれど、ネットの情報ってちっとも匿名じゃないよ。まだこの時代は情報開示まで時間がかかるだけで、警察が動いたら弁護士が動くよりもよっぽど早いんだから。市議会を説明しないといけないのに、市議会を敵に回してどうするんだよ」
「そ、そうだね、ごめん……でも」
大樹くんが誰を死ぬのかは教えてくれない。私は自分のことを好きじゃなくってもかまわない、大樹くんに死んで欲しくない。市議会をどうにかして説得して廃校を撤回してもらわない限りは……私たちがバラバラになるのは避けられない。
どうしたらいいんだろうと、空調の音を聞きながら考え込んでしまったんだ。
蝉が最近元気がないのは、夏が更けすぎたせいなのか、それとも暑くてやる気がなくなってしまったのか。
暑いなりにどうにか宿題を終え、私は大樹くんの元に通っていた。
大樹くんは予備校に通いながらも、なんだかんだ言って私と会ってくれていた。それをときどき実家の手伝いをしている海斗くんはものすごく喜んでくれていた。
「よかったなあ、亜美。最近大樹となんだかんだ言って一緒にいられて」
「うん……」
違うよ。私たちの関係がちょっと変わっちゃったから、結果的に一緒にいるだけだよ。大樹くんが私に興味あるかどうかまでは、ちっともわからないよ。
そう思っているものの、海斗くんにそのことは言えないままだった。
ふたりでどうしたら平和に過ごせるかを話していても、互いになにを伏せカードにしているからわかっているから、どうしても会話が詰まってしまっていた。
……ふたりとも、誰かが死ぬ結末を変えたいと言っているけれど、誰が死ぬのかを言っていないんだ。
大樹くんが助けようとした人は、私は薄々考えている。菜々子ちゃんだろうと。
菜々子ちゃんの男嫌いは、ちょっと度が過ぎている。彼女は嫌な目に遭い過ぎたせいで、とうとう大樹くんまで嫌いになってしまった。彼女が男嫌いをこじらせ過ぎた結果、自棄を起こしたのが大樹くんの十年後だったんじゃあと踏んでいる。
一方大樹くんは、私が誰が死んだのかをわかっていないようだった。
ふたりで作戦会議を行うのは、もっぱら図書館だった。勉強用に貸し出されている自習室でしゃべると怒られるため、必然的に図書館の棚と棚の間に、返却用に使っている台にもたれかかって、ひっそりと声を潜めての会話になる。
冷房が効いている上に、夏休みは意外と親子連れでたくさん遊びに来ているから騒がしい。そのおかげで私たちが話をしていても、誰もこちらに気を留めないんだ。
ふたりでそれぞれの記憶の断片をノートに書いては、それを見せ合っていた。
「でも……いろいろと変わっているけれど、変わってないものもあるんだよな」
「変わってないもの?」
「……それが変えられたら、大幅に変わると思うんだけど」
どちらも、十年後街が干涸らびている経験を味わっている。
……高校の廃校だ。子供が育てられない街にはわざわざ越してくる訳もなく、どんどん人口が減って、最終的に引っ越し前提の家族か年寄り、公務員や住民相手に商売をしているサービス業の人々以外、誰もいなくなってしまう。
普通に考えれば、廃校の決定が覆れば私たちが進路バラバラになって、誰かが死ぬ結末は変えられるはずなんだけれど。そこで私たちは躓いてしまう。
「……廃校の決定って、数年単位で決まるものだよね? 今からやめてって言えるものなの? そもそもこれっていつ決まったものなの?」
「多分それは市議会が決定を決めるはずだけれど。問題は発表を僕たちが知っているって事実をどうやって説明すればいいかなんだよね」
「ネットで流すとか」
「……亜美、知っているとは思うけれど、ネットの情報ってちっとも匿名じゃないよ。まだこの時代は情報開示まで時間がかかるだけで、警察が動いたら弁護士が動くよりもよっぽど早いんだから。市議会を説明しないといけないのに、市議会を敵に回してどうするんだよ」
「そ、そうだね、ごめん……でも」
大樹くんが誰を死ぬのかは教えてくれない。私は自分のことを好きじゃなくってもかまわない、大樹くんに死んで欲しくない。市議会をどうにかして説得して廃校を撤回してもらわない限りは……私たちがバラバラになるのは避けられない。
どうしたらいいんだろうと、空調の音を聞きながら考え込んでしまったんだ。