私が悶々としている間に、期末テストがはじまった。
ジリジリと窓からの日差しに焼かれ、蒸し焼きにされる中、上手く試験に集中できず、どうにかこうにか時間ギリギリに答案を埋めることができた。
私が疲れてぐんにゃりとしている中、菜々子ちゃんが「テストどうだったぁ?」と声をかけてきた。私は首を振った。
「全然駄目。暑過ぎて集中できない」
「わかるー。年々暑くなるよねえ。これだったら十年後は干涸らびて死ぬんじゃない?」
その軽口に私は曖昧に笑った。
年々温暖化現象が進んで、十年後はどこもかしこも暑過ぎてこのまんまだと死人が出ると、学校に冷房付ける付けないで議論が巻き起こっているはずだ。
うちの学校が廃校になる理由のひとつだって、これ以上経費が嵩むのは無理って判断だったはずだし。
私たちがしゃべっていると、「テストお疲れー」と海斗くんが声をかけてきた。それに菜々子ちゃんはツーンと無視した。海斗くんは大樹くんと仲がいいせいで、自分がなにかを言ったら海斗くん越しに大樹くんに伝わってしまうのが嫌なんだろう。
私は曖昧に笑った。
「お疲れ。私は全然できなかったけど」
「嘘つけ。マラソン大会のときの『一緒に走ろう』とテスト中の『全然勉強してない』は信用したら駄目なんだよ」
それはそうだ。どちらも裏切りの代名詞だ。
海斗くんの言葉に納得していたら、菜々子ちゃんはチクリと嫌味を言う。
「誰にでもいい顔するのは、信用していい訳?」
「ちょっと、菜々子ちゃん?」
私が慌てている中、海斗くんは「そうか?」と首を捻った。
「菜々子のことを友達と思っているのと、大樹のことを友達って思っているのに、なんの矛盾もないだろう?」
「それええかっこしいじゃない」
「友達の友達が友達とは限らないけど、俺が菜々子を弾いて友達つくっててもかまわないだろう?」
「海斗のそういうこと私嫌い」
ふたりがまたしてもギャーギャー噛み付き合い出したのを、私がオロオロしている中、ふと後ろのほうの席に座っていた大樹くんと目が合った。
大樹くんはかなり冷たい目で海斗くんを見ていたんだ。私がそれに気付いてしまったのに気付いたのか、彼は目を細めて笑ってから、ふっと視線を逸らしてしまった。
それに私は小さくなる。
海斗くんは何度も私に「大丈夫」と押してくれたけれど、やっぱり無理だよと勇気が縮こまる。大樹くんは明確に海斗くんに嫉妬していたんだから。
****
まだ蝉の声が聞こえない。
それでも入道雲はもくもくと沸き立ち、もうすぐ夏だと教えてくれる。
「夏休みどこかに行く?」
私は何気なく菜々子ちゃんに尋ねた。私としてみれば、菜々子ちゃんと大樹くんがくっついてくれたらよかったのに、大樹くんのことが完全に嫌いに裏返ってしまった菜々子ちゃんをせっついていいものか迷って、もう口にはしていない。
菜々子ちゃんは「そうだねえ」と言った。
「私、夏休みはボイストレーニングで東京に呼ばれてるんだ」
「……それはすごいねえ」
私はそれに内心「あれ?」と思っていた。前のときは、菜々子ちゃんはボイストレーニングには通っていても、そのためにわざわざ東京になんて行ってなかった。
まさかと思うけど、大樹くんから離れるために、出かける口実をつくって大樹くんを避けている?
私の知らない歴史がはじまろうとしていることに気付き、私は内心ギョッとした。
私の内心を知ってか知らずか、菜々子ちゃんは元気に続ける。
「声優になるための準備、進んでるんだ」
「そうなんだ……でも、それ大丈夫な奴?」
私は念のため聞いておいた。
どの時代においても、芸能人に憧れる女の子を食い物にする詐欺は存在するから。それに菜々子ちゃんは「心配し過ぎ1」と笑い飛ばした。
「声優事務所の経営している養成施設だから。そこでみっちり練習してくるよ」
「そう……頑張ってね」
なにか胸騒ぎがするけれど、私はなんとかそれを悟られないようにしながら、頷いた。
どうか、なにごともありませんように。どうか、菜々子ちゃんが無事でありますように。
でもそのとき、私はもっと考えないといけなかった。
私たち四人は何故か離ればなれになる。それをどうしたら一緒にいられるか、もっとじっくりと考えないといけなかったんだ。後悔しても、遅過ぎるんだけれど。
ジリジリと窓からの日差しに焼かれ、蒸し焼きにされる中、上手く試験に集中できず、どうにかこうにか時間ギリギリに答案を埋めることができた。
私が疲れてぐんにゃりとしている中、菜々子ちゃんが「テストどうだったぁ?」と声をかけてきた。私は首を振った。
「全然駄目。暑過ぎて集中できない」
「わかるー。年々暑くなるよねえ。これだったら十年後は干涸らびて死ぬんじゃない?」
その軽口に私は曖昧に笑った。
年々温暖化現象が進んで、十年後はどこもかしこも暑過ぎてこのまんまだと死人が出ると、学校に冷房付ける付けないで議論が巻き起こっているはずだ。
うちの学校が廃校になる理由のひとつだって、これ以上経費が嵩むのは無理って判断だったはずだし。
私たちがしゃべっていると、「テストお疲れー」と海斗くんが声をかけてきた。それに菜々子ちゃんはツーンと無視した。海斗くんは大樹くんと仲がいいせいで、自分がなにかを言ったら海斗くん越しに大樹くんに伝わってしまうのが嫌なんだろう。
私は曖昧に笑った。
「お疲れ。私は全然できなかったけど」
「嘘つけ。マラソン大会のときの『一緒に走ろう』とテスト中の『全然勉強してない』は信用したら駄目なんだよ」
それはそうだ。どちらも裏切りの代名詞だ。
海斗くんの言葉に納得していたら、菜々子ちゃんはチクリと嫌味を言う。
「誰にでもいい顔するのは、信用していい訳?」
「ちょっと、菜々子ちゃん?」
私が慌てている中、海斗くんは「そうか?」と首を捻った。
「菜々子のことを友達と思っているのと、大樹のことを友達って思っているのに、なんの矛盾もないだろう?」
「それええかっこしいじゃない」
「友達の友達が友達とは限らないけど、俺が菜々子を弾いて友達つくっててもかまわないだろう?」
「海斗のそういうこと私嫌い」
ふたりがまたしてもギャーギャー噛み付き合い出したのを、私がオロオロしている中、ふと後ろのほうの席に座っていた大樹くんと目が合った。
大樹くんはかなり冷たい目で海斗くんを見ていたんだ。私がそれに気付いてしまったのに気付いたのか、彼は目を細めて笑ってから、ふっと視線を逸らしてしまった。
それに私は小さくなる。
海斗くんは何度も私に「大丈夫」と押してくれたけれど、やっぱり無理だよと勇気が縮こまる。大樹くんは明確に海斗くんに嫉妬していたんだから。
****
まだ蝉の声が聞こえない。
それでも入道雲はもくもくと沸き立ち、もうすぐ夏だと教えてくれる。
「夏休みどこかに行く?」
私は何気なく菜々子ちゃんに尋ねた。私としてみれば、菜々子ちゃんと大樹くんがくっついてくれたらよかったのに、大樹くんのことが完全に嫌いに裏返ってしまった菜々子ちゃんをせっついていいものか迷って、もう口にはしていない。
菜々子ちゃんは「そうだねえ」と言った。
「私、夏休みはボイストレーニングで東京に呼ばれてるんだ」
「……それはすごいねえ」
私はそれに内心「あれ?」と思っていた。前のときは、菜々子ちゃんはボイストレーニングには通っていても、そのためにわざわざ東京になんて行ってなかった。
まさかと思うけど、大樹くんから離れるために、出かける口実をつくって大樹くんを避けている?
私の知らない歴史がはじまろうとしていることに気付き、私は内心ギョッとした。
私の内心を知ってか知らずか、菜々子ちゃんは元気に続ける。
「声優になるための準備、進んでるんだ」
「そうなんだ……でも、それ大丈夫な奴?」
私は念のため聞いておいた。
どの時代においても、芸能人に憧れる女の子を食い物にする詐欺は存在するから。それに菜々子ちゃんは「心配し過ぎ1」と笑い飛ばした。
「声優事務所の経営している養成施設だから。そこでみっちり練習してくるよ」
「そう……頑張ってね」
なにか胸騒ぎがするけれど、私はなんとかそれを悟られないようにしながら、頷いた。
どうか、なにごともありませんように。どうか、菜々子ちゃんが無事でありますように。
でもそのとき、私はもっと考えないといけなかった。
私たち四人は何故か離ればなれになる。それをどうしたら一緒にいられるか、もっとじっくりと考えないといけなかったんだ。後悔しても、遅過ぎるんだけれど。