──翌日の放課後。

「……と、いうわけで。私の勉強のため、そして雷華の呪いを解くために、この四人で座橋(ざきょう)市に行きたいと思います」

 海斗と翠に経緯を説明し終えた未空が、そう締め括った。
 もちろん海斗と翠は全て知っている話だが、雷華の手前、やはり初めて聞いたかのようなリアクションを取る。

「雷華ちゃん、行く決心がついたんだね。未空ちゃんの勉強にもなるなら重畳」
「まさか呪いを解く方法が見つかるとは……よかったな、鮫島」
「良くないわよ。なんであんたまで同行することになってるわけ?」
「だって、男の子がいなきゃ雷華の呪いが解けたのか検証できないでしょ?」

 未空に嗜められ、「むぅ」と口を窄める雷華。
 そのまま、海斗の顔をじっと睨み付け、

「……当たり前だけど、部屋は別々だからね。女の子とお泊まりできるからって浮かれないでよ? おまじないと称してヘンなことしたら、抹殺するから」

 どれだけ信用がないんだ、俺は。
 という言葉を飲み込み、海斗は大人しく「わかりました」と答えた。

「……それじゃあ、あらためて。翠、儀式のやり方について詳しく教えてくれる?」

 雷華は、居住まいを正して尋ねる。
 当然、雷華以外の三人は、儀式の内容についてシナリオを共有済みである。あとは、翠に説明を任せるだけだ。

 海斗と未空が固唾を飲んで見守る中、翠は、落ち着いた声音で語り始めた。

「……この儀式に必要なものは、ぜんぶで三つ。塩と、水と、清らかな身体」
「塩と、水と……清らかな身体?」
「そう。塩は、儀式で捧げるお供え物に加える。お供え物として一番いいのは御神酒らしいけど、わたしたちの年齢じゃお酒は買えないから、お菓子でも可。とにかく、神さまに捧げるものに、なるべくその地域から近い海で取れた塩を混ぜて捧げる」
「菓子といえば、座橋市は酒饅頭が有名だよな。手作り体験ができる施設もあるって聞いたことがある」
「海に面した県だから、きっと塩も買えるよ。自分で作ったお饅頭に塩を入れれば、良いお供え物になるんじゃない?」

 海斗と未空のフォローに、雷華は「ふむふむ」と納得する。

「次に、水。これは、石像の頭からかけるために用意する。その土地を流れる綺麗な水を汲んでいかなければならない」
「座橋市には、綺麗な川や滝が多くある。これも問題なく用意できそうだな」

 再び海斗がフォローする。
 翠は頷いてから続けて、

「最後に、清らかな身体というのは、文字通り身を清めて儀式に臨むということ。これは、普通にお風呂に入っていけば大丈夫」
「泊まる予定のお宿には温泉があるから、これもクリアだね。儀式っていうから特別なものが必要なのかと思ったけど、用意できそうなものばかりでよかったよ。ね、雷華」
「うんっ。あたしはてっきり、人柱が必要なんじゃないかと……」
「……って言いながら何故俺を見る?」
「別に、深い意味はないわよ」

 いや、危険な儀式だったら明らかに俺を人身御供にするつもりだっただろう。

 というツッコミは、不毛なやり取りの元となるため、胸にしまっておいた。

「塩の入った供物を捧げ、綺麗な水をかけ、清浄な身体で祈る……シンプルだけど、古来より祈祷とはそういうものらしい。わたしはこれで、目が治った」
「翠が言うなら間違いないわね。よし、あとは日取りを決めるだけだわ。未空、そのお宿にはいつ泊まれそうなの?」
「まだ返答待ちだけど、六月中には行けると思うよ。決まったら報告する」
「よーしっ。それまでに発表の準備を終わらせれば、心置きなく行けるわね。そうと決まれば、今日も作業を進めるわよ!」

 おー! と拳を掲げる雷華。
 その晴れ晴れとした表情に、海斗たちは作戦の第一段階の成功を確信し、ほっと胸を撫で下ろした。