**無職6日目(9月6日)**

心太朗は、ここ最近驚くほど早起きになった。仕事を辞めたばかりの最初の2、3日は、まるでベッドと一体化したように寝てばかりだったのに、昨日から目覚めが妙にいい。…おかしい。**これが「無職の力」ってやつか?**と思わず首を傾げた。

毎朝の朝食は決まっている。納豆ご飯に生卵をかけてぐるぐるとかき混ぜるというシンプルなメニュー。これを15年も続けてきた。結婚してからは、澄麗が味噌汁を追加してくれて、少しだけ豪華になった。

そんなある朝、いつものように食事をかき込んでいた心太朗はふと気づいた。

「あれ?今日、なんか美味しいぞ!」

いや、待て。**15年も同じ朝食を食べ続けてきて、今日やっと気づくのかよ!**と自分でも突っ込みを入れたくなる。それまで「食べる=義務」だったのに、今は違う。朝の空気を感じながら、ゆっくりと食べることができる。そして、その結果、朝ご飯が驚くほど美味しいことに気づいてしまった。
心太朗は感動していた。これが「人間らしさ」ってやつだろうか。

心太朗は、仕事を辞めてから変わった日常を新鮮に感じていた。彼の無職生活は、思った以上に充実しており、少しずつ「人間らしい」生活に戻ってきたことを実感している。以下、彼の変化をいくつかのポイントに分けてまとめてみよう。

① 食事が美味しくなった

朝昼晩の食事が、まるで「グルメツアー」にでも参加しているかのような楽しさを感じられるようになった。米や魚、野菜に至るまで、一つ一つがまるで新発見。今までどれだけ味わうことを忘れていたのか、心太朗は自分の感覚の鈍さに驚いていた。

さらに、毎回「いただきます」と「ご馳走様」をきちんと言うようになったことにも彼は気づいた。これまで当たり前のことさえおろそかにしていた自分に、「どんだけ生き急いでたんだ」と心の中でツッコミを入れずにはいられない。

② 寝たい時に寝れる

かつて不眠症に苦しんでいた心太朗だが、仕事を辞めてからその悩みも徐々に改善してきた。在職中はゾンビのような生活を送り、退職直後も昼間は朦朧としていた。しかし今では、睡眠の質も量も向上している。澄麗が「前は毎晩呪われたみたいにうなされてた」と言ってきた時は、思わず「どんな寝相だよ…」と笑ってしまった。退職後に寝言すらぴたりと止まったことから、仕事がまるで悪霊のように彼に取り憑いていたことを実感する。

③ 肌艶が良くなった

久しぶりに会った知人から「肌が綺麗になったね」と言われた心太朗は、逆に「おれ、どれだけ劣化してたんだ…?」と不安になった。仕事をしていた頃は、疲れ果てて風呂に入ることさえ面倒だったのだ。しかし今では、毎晩風呂に入り、さらにはフェイスパックまで欠かさず行うようになっている。そのおかげか、心太朗の肌はみるみるうちに回復。ストレスフリーな生活が彼を「美肌男子」へと進化させた。美容系YouTuberデビューも夢ではない…かもしれない。

④ 家族との時間が増えた

仕事をしていた頃、心太朗の生活は常にギリギリだった。朝は寝坊、夜は食事を済ませてすぐに寝るだけ。休みの日もベッドから離れられず、澄麗との会話もほとんどなかった。そんな日々が続き、いつもイライラしては彼女に八つ当たりすることもしばしば。**よく離婚されなかったな…**と冷や汗をかく心太朗。

だが、今では一緒に買い物に行ったり、何気ない時間を一緒に過ごすことが増えた。心太朗は、澄麗の体調を気遣う余裕すら持てるようになった。「おれ優しくなったな!」と自信を持ちながらも、心の中で「いや、これがスタート地点だったんだよ」と一人で突っ込む。

⑤ 周りは思った以上に優しかった

退職当初、心太朗は社会に対する罪悪感でいっぱいだった。「これで社会の落伍者か…」と一人で落ち込んでいたが、意外にも周囲は温かかった。澄麗や両親、さらには義両親までもが「無理せず休んで」と優しい言葉をかけてくれたのだ。

彼はもっと非難されるだろうと思っていたが、その反応に驚き、勝手に周りを敵視していたことに気づいた。これを機に本音で話せるようになり、孤独感も少しずつ薄れていった。心太朗は、実は自分がちゃんと社会に受け入れられていたことをようやく実感した。

⑥ よく笑うようになった

澄麗に対して以前はイライラすることが多かったが、今では彼女の明るさや優しさを素直に受け入れ、笑顔が増えた心太朗。笑顔で過ごすことの大切さを知り、彼はようやく澄麗の存在に感謝できるようになった。心の中で「澄麗よ、今まで本当にごめん…」とつぶやく日々が続いている。

⑦ 自分の価値観を見直す

最近、心太朗はジャーナリングを始めた。ノートに思いをひたすら書き殴るだけだが、これが驚くほど効果的。自分自身と向き合う時間を持ち、家族や健康が何より大切だと改めて気づかされるようになった。仕事の選択肢は無限に広がり、やりたいこととやりたくないことがはっきりしてきたが、**やりたくないことが多すぎないか?**と心の中でまた突っ込む。

不安は完全に消えたわけではないが、心太朗は仕事を辞めたことに後悔はない。彼の「人間らしさレベル」は日々更新中だ。