無職のススメ、元社畜の挑戦日記


**無職52日目(10月22日)**



心太朗は、曇った頭でぼんやりと天井を見上げながら、「今日は雨だって聞いてたんだけどな…」とつぶやいた。そんな彼を見て、横で支度をしていた妻の澄麗が、「天気予報なんて、当たらないことだってあるでしょ?晴れてるんだから、出かけましょうよ!」と笑顔で促した。



運動不足を感じていた二人は、近くの公園では物足りないということで、大阪城公園までドライブに行くことにした。心太朗は運転席に座り、久しぶりのドライブに少し浮かれていたが、内心「大阪城公園なんて観光客ばっかりじゃないか?まあ、澄麗が楽しそうだからいいか」と、自分を納得させながらエンジンをかけた。





到着してまず目に飛び込んできたのは、予想通りの外国人観光客の大群。「やっぱりな…」と心太朗は心の中でため息をつくが、澄麗はそんなことお構いなしに楽しそうに周りを見渡している。二人は公園の森のようなエリアへと進んでいった。



「この森をでたら、映画みたいにタイムスリップするんじゃない?」と、心太朗はふざけて言った。「もし本当に江戸時代にタイムスリップしたらどうする?」

「んー、まずはお侍さんに『すみません、これ江戸時代ですか?』って聞くかな!」と澄麗が笑いながら返した。心の中で「俺も結構ノリノリじゃん」と思いつつも、江戸時代にタイムスリップしてる自分を想像して少しシュールな気分になった。





森を抜けると、大阪城がドーンと姿を現す。それと同時に、逆方向には近代的な高層ビル群が立ち並ぶ風景が広がっていた。「すごいな、この時代のギャップ。お城とビルが同じ場所にあるのって、なんか未来と過去が同居してるみたい」と心太朗は感心して言った。実際には、ただの現代と歴史的建造物が共存しているだけなのに、自分をインテリっぽく見せたいがために、そんな大げさな表現をしてしまった自分を心の中で軽くツッコんだ。



「せっかくだから、お城の中にも入ってみようよ」と澄麗が提案し、二人は城内に向かった。お堀を見ながら、「これ、どうやって攻めるんだろうな?」と心太朗が言うと、「うーん、私は…ここで弁当食べながら観光するくらいかな」と澄麗が笑った。「いや、攻めるとか考えてる俺もどうかしてるな」と、心太朗はまたしても自分にツッコんだ。





城内を一通り見た後、二人はお土産売り場へ。「こんなにお土産って種類があるんだな」と心太朗は驚きつつ、特に買う予定もなくブラブラと見て回った。澄麗が興味津々でお土産を見ているのを見て、心太朗は「これ、子供が生まれたら買ってあげるのかな…?」なんてふと考えた。「でも、俺はまず何を買うべきか分かんないから、結局澄麗に任せるんだろうな…」と、未来の自分の姿を想像して苦笑いした。



「次は子供が生まれたらピクニックしに来ようね!」と澄麗が楽しそうに言うと、心太朗もそれに頷いた。が、内心では「いや、俺、ピクニックってなんか苦手なんだよな…子供できたら頑張るか」と少し気が重くなりつつも、澄麗の笑顔を見ると「まあ、いいか」と結局すべてを受け入れることにした。



帰りの車の中、心太朗は少し疲れた様子で運転を続けながら、「やっぱり今日は晴れててよかったな」とつぶやいた。澄麗が「うん、やっぱり外に出ると気分も変わるね!」と元気に応える。その言葉に心太朗も微笑みつつ、「まあ、俺も結局こうして楽しんでるし、これでよかったのかもな」と思いながら、心の中でまた一つツッコミを入れるのだった。



こうして、平凡だけど心温まる一日は、ゆっくりと暮れていくのであった。

**無職53日目(10月23日)**

心太朗は、澄麗と交際して2年2ヶ月、入籍して1年2ヶ月の記念日を迎えていた。中途半端な記念日だが、二人は毎月、スーパーでケーキを買ったり、外食する程度のお祝いをしている。この日は軽く外食をしようと澄麗にどこに行きたいか聞くと、彼女は嬉しそうに考え始めた。まるで食べ物のことだけを考えるコンピュータが動き出したかのように。

澄麗は、パソコンに向かってお店を探し始める。食べることが本当に好きな彼女にとって、これはまさにハッピーなミッションだ。しばらくの間、心太朗は彼女の背後で、何やらキーボードを叩く音を聞いている。

すると、しばらくして澄麗は声を上げた。「お寿司がいい!」彼女の声は、まるで子供がクリスマスプレゼントをもらったときのように輝いていた。記念日に寿司と聞くと高級店をイメージするかもしれないが、澄麗はそうではない。候補は、くら寿司、かっぱ寿司、スシロー、そしてはま寿司の4つ。

「おいおい、これ、回転寿司の四天王じゃん!」と心太朗は思わず笑った。最近、くら寿司とスシローは制覇したが、かっぱ寿司とはま寿司は未踏の地。どうせなら4つ全て行って、ランキングを決めるのも面白いかもと思い、今回ははま寿司に決定。

心太朗の家の近くにははま寿司がなかったため、車で30分かけて隣の市まで向かう。到着すると、なんと9組待ち。これには心太朗も「繁盛してるな、はま寿司」と感心する。初めてのはま寿司体験だ。記念日なのに、待ち時間の長さに不安が募る。

ようやく席に着くと、そこに待っていたのは……流れていない寿司レーン!心太朗は目を丸くした。まさか、はま寿司は流さないスタイルなのか?回転寿司といえば、流れる寿司を見ながら直感で選ぶ醍醐味があるのに、これでは…。

確かに、最近の回転寿司はこの傾向があるのだが、やっぱり心太朗は流れてくるネタを見て選ぶのが好きだ。寿司の流れに身を任せるのが、回転寿司の楽しみだと思っている。

しかし、はま寿司は液晶画面を用意していた。実際の寿司は流れていないが、画面の中で寿司が流れている。「デジタル回転寿司」とでも呼ぶのだろうか?すごい時代になったものだ。

一方、妊娠中の澄麗は生魚を食べることができず、「なんで回転寿司を選んだんだろう?」と思いつつも、揚げ物やラーメン、炙り系を楽しんでいた。彼女の楽しそうな姿を見て、心太朗は微笑んだ。「記念日だって言ってるのに、寿司が食べられないとか…」と内心でツッコミながらも、澄麗の幸せそうな顔を見るのはやはり嬉しい。

ささやかな記念日だが、これもまたいい思い出になるのだろう。心太朗は、こうして二人の笑いと共に少しずつ年を重ねていくことを思い描いた。今後の記念日はどんな形になるのだろうかと考えながら、デジタル寿司の前で二人、笑い合う。

記念日を祝い、寿司を選び続ける心太朗と、食の探求を楽しむ澄麗。この日もまた、二人の特別な瞬間として記憶に残ることだろう。こんな中途半端な記念日でさえ、心太朗の心にはしっかりと刻まれるのだから、まさに「記念日」って素晴らしい。






**無職54日目(10月24日)**

「来た!あの日が来た!」心太朗はベッドの中で叫んだ。そう、今日はメンタルが落ち込む日だ。いつものように、3日間ほど元気な日が続いた後、必ずやってくるこの日。まるで、定期的な天気のように、心の雲が曇り始めるのだ。

身体が重く、眠気が襲い、何もできない。布団の中でゴロゴロしていると、ふと、澄麗の声が耳に入る。「休めばいいじゃん。」彼女の優しい言葉が、心太朗を少しだけ動かそうとする。しかし、心太朗はまるで反抗期の子どもかのように、「でも、起き上がらないと…」と自分に言い聞かせる。

なんとか起き上がり、歯を磨いて朝食を取る。が、食べているうちに、「何もする気がしない」という思考が心に忍び込む。アメリカの海外ドラマをAmazonプライムで観ることにしたが、第一話すら見ることができずにウトウト。さすがにしんどくなって、澄麗に「寝る」と告げる。

ベッドに向かうが、布団に入ってもすぐには寝られない。さっきまでウトウトしながらドラマを観ていたのに、いざ寝ようとすると全く目が冴えてしまう。思考が無限ループに入ってしまった。「無職、ニートの典型的な生活をしているな。こんな状態で社会復帰できるのかな?」「もうすぐ子供が産まれるのに、父親としてやっていけるのか?」など、疑問が次々に浮かんでは消えない。

「生きてても意味がない」「生きてないほうが楽かも」と、どんどんダメな方へと考えが進む。心太朗の脳内では、悲劇のヒーローのような思考が渦巻いている。

その時、ふと澄麗のことを考える。「澄麗はどう思っているのだろう?」彼女は優しく、「大丈夫、休んでいいよ」と言ってくれるが、これから母親になるというのに、こんな父親で不安じゃないのだろうか。「いつもゴロゴロしている姿を見て、本音では働けよと思っているのでは…」心太朗は自己嫌悪に陥る。

「ごめんよ、今は動けんよ」と、心の中で呟く。

次に心太朗はYouTubeを開き、漫才を流す。金属バットの漫才が始まるが、笑うことはなくても、なんとなく忘れることができた。漫才のリズムに乗っているうちに、ようやく気を失って眠りに入った。

この日は起きて食べて寝て、また起きて食べて寝る。心太朗は何もできなかった。あぁ、心の雲は晴れず、気だるい日常は続くのだった。どこかで光が差し込むことを期待しながら、彼は再び布団の中へと戻った。






**無職55日目(10月25日)**

心太朗は、自身のX(旧Twitter)アカウントを眺めていた。フォロワーからのコメントが目に留まる。「イラスト上手ですね。自作ですか?」いやいや、自分のイラストはすべてAIで作ったもので、真実を知ったらこのフォロワーさん、ガックリしないだろうかと不安がよぎる。

「AIですよ」と正直に答える心太朗。すると、しばらくしてからそのフォロワーさんが「AIイラスト作成は何のアプリを使っていますか?」と聞いてきた。彼もおそらく、自分もAIイラストを作りたいと思っているのだろうか。心太朗は、少しでも役に立ちたいと感じ、「なんとか教えてあげなきゃ!」と心の中で決意する。

だが、Xの限られた文字数では、心太朗の思いをしっかりと伝えることはできなかった。結果、フォロワーさんからは「むずかしそうですね」との反応が返ってきた。心太朗は自分の力不足に悔しさと申し訳なさでいっぱいになった。彼は、どうやって役立つ情報を提供できるか頭を抱える。

しばらく考えた末、ひらめいた。いつも書いている日記の中で、やり方を詳しく書けばいいのだと。「ああ、やっぱり俺って天才だな!」と内心思う心太朗。しかし、実際は凡人以下で、その説明をするのは難しい。そこで、心太朗は自分で画像を作りながら、日記を書くことにした。

「よし、まずはこのサイトを立ち上げて…」と心太朗は、手順を進めていく。






AI画像生成の簡単ステップガイド(チャットGTPとイメージFX使用)


準備

今回心太朗が説明するAI画像生成にはチャットGPTと イメージfxを準備する必要がある。まずはこの2つを使えるようにする。

チャットGTPの準備に関しては、以下に詳しく書いている。
https://note.com/kotaroyasukawa/n/n66e2106a4016

イメージfxの準備に関しては、以下に詳しく書いている。
https://note.com/kotaroyasukawa/n/ndf3f61e72ebd



AI画像生成の簡単ステップ

1. チャットGPTにリクエストする
心太朗はパソコンの前に座り、キーボードを叩いた。「AI画像を作ります。英語のプロンプトを教えて」とチャットGTPに入力する。プロンプトのリクエストは全てチャットGTPで入力する。
「英語のプロンプトを教えて」というフレーズは毎回入力している。そうしないと、たまにチャットGPT内で画像が生成されてしまい、面倒なことになるからだ。

ちなみに、プロンプトとは、AIに「こんなことをしてほしい」とお願いするための言葉だ。イメージFXでは英語の方が正確にプロンプトを読み取るため、チャットGPTで英語のプロンプトを作成してもらう。

すぐに画面に返ってきたのは、チャットGPTからのメッセージだった。

「どんな画像を作りたいか教えてもらえれば、そのための詳細なプロンプトを作成しますよ!テーマやスタイル、色合い、登場人物などについて教えてください。」



2. 簡単なプロンプトを作る
次に心太朗は、サンプル画像のイメージを形にするため、簡単なプロンプトを作ることにした。
今回は普段日記で使う画像に近いもので説明しようとする。

まずは「日本人30代男性 メガネをかけて小太り。英語のプロンプト教えて」と入力すると、チャットGTP画面にプロンプトが生成される。

さらに、彼は「彼は日本人の妻と一緒にいる。英語のプロンプト教えて」と続ける。すると、また新しいプロンプトが表示される。

最後に、「女性は妊婦。英語のプロンプト教えて」と追加すると、またもや彼の要求に応じたプロンプトができあがる。





3. プロンプトをコピーしてイメージFXに貼り付ける
ここまでのチャットGTPでできたプロンプトを一旦コピーして、心太朗はイメージFXに貼り付けた。実際には数枚の画像が生成されるが、今回はその中の一枚だけを紹介することにした。



















「誰やねん!!」と心太朗は驚愕した。生成されたのは写真で、リアルすぎて実際に存在するのではないかという完成度だった。
(※この写真は心太朗と澄麗ではありません。AIで作られた架空の人物です。)





4. 画像のスタイルを調整する
しかし、彼はイラストにしたかったので、すぐに指示を出した。「イラストにした英語のプロンプトを教えて」と。

再びプロンプトをコピーして、イメージFXに貼り付ける。ここからは、毎回プロンプトをコピーしてイメージFXに貼り付けるという作業が続くことになる。











これで普段、心太朗が日記で使用している画像のスタイルにかなり近づいた。





5. 設定をリクエストする
今回は画像作りの説明のため、設定はなんでも良かった。遊び心を込めて、二人で宇宙旅行に行っている設定にしようと心太朗は考えた。「二人で宇宙旅行 。英語のプロンプト教えて」とリクエストする。
















宇宙感が少し物足りなかったので、彼は無重力感を出すために、「宇宙服で無重力。英語のプロンプト教えて」と指示を出した。














なかなかいい感じになってきた。
さらに今回は自由な発想ということで、どうせなら産まれてくる子供も追加しようと考えた。「赤ちゃんも追加して 英語のプロンプト教えて」と再び指示を出す。














まだ見ぬ我が子がイラストの中に登場した。心太朗は少し感動した。
ふと心太朗は考える。「よくよく考えたら、子供が産まれたら妊婦じゃないよな…」そこで、「妊婦じゃない。英語のプロンプト教えて」と修正を加えた。












ついに家族3人での宇宙旅行のイラストが完成した。画面には宇宙服を身にまとった心太朗と澄麗、そしてその間で楽しげに浮かんでいる赤ちゃんが描かれていた。星々が輝く背景が、家族の冒険心と愛情を包み込むように広がっている。

心太朗はそのイラストをじっと見つめ、胸に込み上げる感情を噛みしめた。「これが、AIの力で作られた自分たち家族の姿なんだな…」未来への期待や家族との夢が少しずつ形になっていくような気がして、自然と微笑んでしまう。










「この手順で、読者にもAI画像生成の方法をわかりやすく伝えられただろうか?」心太朗は画面に表示された日記の文章を読み返しながら、少しだけ不安を覚えた。自分が試行錯誤して生み出したステップが、読者にも伝わる形になっているのか。イラストを作り上げる楽しさや工夫の面白さが、しっかりと伝わるだろうか。

「大丈夫、これでいいはずだ」自分にそう言い聞かせると、心太朗は微笑んだ。画面の向こうにいる誰かが、このガイドを読んで、同じようにAI画像生成の楽しさを感じてくれたら。それが彼にとって、何よりも嬉しいことだ。





最後に、心太朗は満を持して、もっとリアルに心太朗と澄麗と我が子の姿を描きたくて
「これを写真にして、英語のプロンプトを教えて」と指示を出す。彼の目の前には、完成した画像がどのように生成されるのか、期待でいっぱいだった。
























「誰やねん!!」











まとめ

1. チャットGPTにリクエストする
「AI画像を作ります。英語のプロンプトを教えて」と入力する。
2. 簡単なプロンプトを作る
どんな画像にしたいか簡単な説明。
例:「日本人30代男性」「妊婦」などをリクエストして簡単なプロンプトを作成。
3. プロンプトをコピーしてイメージfxに貼り付ける
作成したプロンプトをイメージfxに貼り付けて、画像を生成。
4. 画像のスタイルを調整する
イラストにしたければ「イラストにして」
写真にしたければ「写真にして」など調整リクエストを送る。
5. 細かい設定を調整する
チャットGTPで「二人で宇宙旅行」「無重力」「赤ちゃんを追加」など細かい設定を調整する。

以上の手順で、AI画像生成を楽しんでみてください!


**無職56日目(10月26日)**

心太朗は朝7時に起きていた。普段なら絶対にありえない早起きだ。澄麗とお腹の子供の検診のために病院へ行く日である。澄麗は「私一人で行けるから、あなたは休んでていいわよ」と言ってくれたが、心太朗はここは“父親らしく”参加するべきだと決意し、眠気を引きずりながら車で病院に向かうことにした。

だが、いざ出発すると車内は静寂が支配する。もしかして、妻が本当に一人で行きたかったのか? …そんな一抹の不安を感じつつも、心太朗は眠気を振り払い、片道2時間かけて運転する。だんだん目が覚めてきて、ようやく病院に到着。まぁ、これで父親ポイントも稼げただろうと、ひそかに自分を褒めた。

病院に着いた澄麗は、さっそく尿検査や血液検査、そして定期検診へと向かう。その間、心太朗は病院の待合室で3日分溜め込んでいた日記を書くことに。そもそも溜め込むなという話だが、「夏休みの宿題も学校が始まってから仕上げる」のが心太朗スタイル。病院での手続きにトラブルがあり、日記は予定通り書き終えた。…彼としては“順調”である。

ほどなくして、澄麗が診察を終えて戻ってきた。健康状態も良好、そしてお腹の赤ちゃんも元気に育っているとのこと。エコー写真を見せてもらったが、心太朗には何のこっちゃさっぱりわからない。「2400gから2600gだって」と澄麗に言われ、ふむふむと頷きつつも、「もういつ産まれても大丈夫らしいよ」と聞かされると、ようやくリアリティが湧いてきた。

そんなわけで、今日の目玉は“助産師さんとのお話”。普段なら待合室で本を読んだり日記を書いて過ごすのが通例の心太朗だが、今日は「旦那様も一緒にどうぞ」と半ば強引に参加させられた。助産師さんは心太朗に「今日はお休みですか?」と聞いてくる。曖昧に「えぇ、まぁ…」と返すが、助産師さんは食い下がらない。「出産の日はお仕事お休みにできそうですか?」と重ねて尋ねられた。

心太朗は、心の中で「無職なんですけど?」とツッコミを入れつつ、さすがに嘘もつけず、やや気まずそうに「今、仕事辞めたんで、いつでも来れます」と答えた。すると助産師さん、驚きの表情で「素晴らしいですね!奥様とお子様のためにお時間作って、頼もしいですね」と絶賛。澄麗も笑顔で「はい!」と乗っかる。いやいや、こっちは別に“育児のため”に辞めたわけではないのだが、そんなに評価してくれるなら、それも悪くはないかと思えてくるから不思議だ。

助産師さんは、さらに出産に向けての運動を推奨してくれる。特に下半身とインナーマッスルの強化が大事らしい。心太朗もなぜか澄麗と一緒にスクワットをやらされ、呼吸法も実践するハメに。無職な上、まさかの妊婦体操デビューである。助産師さんの前であれこれやらされながら、「これ、人生の予定にあったっけ?」と心の中で問いかける心太朗。まぁ、無職だから暇といえば暇だが…。

その後、会計を済ませ、また車で2時間かけて帰路に就く。車内では今日のことを振り返りつつ、澄麗と「出産に向けて一緒にトレーニングしよう」と約束を交わした。無職ではあるが、こうして出産に向けて二人で過ごせる時間を持てることが幸せなのかもしれないと、心太朗はなんとなくしみじみとした気持ちになるのだった。



**無職57日目(10月27日)**

今日は選挙の日。この心太朗、恥ずかしながらこれが人生初の選挙だった。年齢的にはもう何度も行けるタイミングはあったのに、なぜか今まで行ったことがない。

思い返せば、選挙権を得た頃、心太朗はバンド活動に明け暮れていた。あの頃のバンドマンたちの間では「選挙に行こう!」ムーブメントが盛り上がっていて、SNSなんかで「俺たちの声を届けようぜ!」とか呼びかける投稿が飛び交っていたものだ。しかし、心太朗はというと、なぜかこの「選挙に行こう」ブームに反発心を抱いていた。何故か「そういう活動する暇があるなら、曲を一曲でも多く作れよ」と思い込んでいたのだ。いや、今思えばそんな変な尖り方は必要なかったし、普通に選挙行っておけばよかっただけの話だ。それがどれだけ無意味だったかは、今の自分を見れば分かる。バンドも解散、無職生活だ。

そんな心太朗だが、実は政治には興味があった。バンド時代、ロックと政治は一心同体みたいなものだと思っていた。ボブ・ディランとか、セックス・ピストルズとか、音楽で社会にモノ申してた先人たちに憧れていたのだ。「俺もいつか、そういう熱いメッセージを…」と夢見ていたものの、実際には何も言わないどころか、選挙にすら行っていないというヘタレっぷり。

その後、バンド活動もひと段落し、心太朗は社会人として新しい生活をスタートさせた。だが、今度は仕事が忙しすぎて選挙どころではなかった。連日、朝から晩まで働いて、帰る頃にはクタクタ。休みがあっても疲れを取るだけで精一杯で、「選挙に行く元気なんてない」と思ってしまっていた。結局、「選挙に行かなかった理由」にバンドと激務の二つが追加されて、年を重ねてきたわけだ。

今回、ようやくその殻を破ることに。生まれてくる子どものためにも、ちゃんと一票を投じようと決意した。

朝からドキドキしながら、入場整理券を握りしめ、地元の小学校へ向かう。妻の澄麗は、「子どもが通うかもしれない学校を見れるなんて!」と妙にテンションが上がっている。「さすが母親…俺も見習わなきゃな」とぼんやり思う心太朗。

母校ではないが、久しぶりに小学校に足を踏み入れると、すべてが小さく見えた。27年ぶりに見る小学校は、まるで自分が巨大化したかのような錯覚を覚えるほどだ。「俺、こんなちっちゃい机で勉強してたのか…」なんて妙にしみじみしていると、気づけば投票場に到着していた。

受付に行き、自分の町の名前を告げると、無表情で投票用紙を渡される。受付の人たちは、まるで犯人を監視するかのような厳しい目つきでこちらを見ている。もちろん、不正なんて考えてもいないが、そういう目線を感じると、なぜか体が勝手に緊張してしまうのだ。「あぁ、何もしてないのにドキドキする…なんか悪いことしてたかな?」と考える心太朗。いや、してない。してないけど、変な汗が出る。

一通りの投票を終え、校門の前で澄麗と合流。選挙が終わってスッキリしたのか澄麗は上機嫌だが、「確か誰に投票したかは言っちゃダメだったはず」と思い、選挙の話題には触れずにそのまま別行動。心太朗はチョコザップ、澄麗はケーキ屋へ向かうことになった。どうやら、お互いにご褒美タイムが必要だったらしい。

家に帰ると、選挙特番が流れていた。これまでは正直スルーしていたが、自分で投票したあとに見ると、妙に面白い。「この地区ではこの候補が強いのか…」と地元の選挙情勢にも興味が湧いてきた。まるで「俺も選挙の一部」みたいな気分になっている自分が、少し笑えてくる。

今は無職の心太朗だが、産まれてくる我が子のために、一国民としてしっかり一票を投じた。少しは大人になれたかなと思いながら、心太朗は新たな一歩を踏み出した気分になっていた。

**無職58日目(10月28日)**

心太朗は、久しぶりに姉の家族が帰ってくるという知らせを聞いて、内心で小さな喜びを抱いていた。姉は15年以上前に遠くへ嫁いで以来、年に一度か二度しか会わない。お盆や年末年始の慌ただしい時期に合わせて帰ってくるが、仕事に追われていた時代には、帰宅後の夜遅くにほんの数分しか会えなかった。だが、今は無職。日々の時間は無限に広がっていて、姉の帰省を心待ちにする気持ちは、少し懐かしいものでもあった。

澄麗と一緒に実家に向かうと、久しぶりに見た姉は相変わらずの元気な笑顔で、澄麗のお腹を見て「うふふ」と嬉しそうにしている。心太朗はその様子を見て、思わず微笑んだ。「こりゃまた色々と聞かれるな…」と、少々覚悟を決めたのは言うまでもない。

中学三年生の甥は、昼間に都心で食べ歩きを満喫していたらしく、今はぐっすり眠っているという。心太朗が甥を幼いころ、遊園地や動物園に連れて行ったことを思い出すと、ちょっとした懐かしさがこみ上げてくる。しかし、甥の身長は185センチに達しており、心太朗の180センチを軽く越えてしまった。甥が登場した瞬間、心太朗は「こいつ、マジでデカくなったな」と驚きの声を上げそうになったが、結局言葉にはしなかった。

甥は声変わりしていて、挨拶も軽く済ませると、スマホを手に持ってソファに直行。昔は「コタローおじちゃん!」と懐いていたあどけない少年は、今やただの「無口の青年」と化している。心太朗は、「ああ、俺も15歳の時はこんな感じだったな」と少し寂しい気持ちになる一方で、甥が成長するのを見守るのは嬉しいことでもある。ちょっとした寂しさを抱きながら、甥を無言で見守る心太朗だった。

夕食の席では、案の定、姉が「子供の名前はもう決めてるの?」と質問攻めを開始。実は心太朗と澄麗はすでに名前を決めていたが、その名はここでは秘密にすることにしていた。なぜなら、父が「産まれるまで楽しみにしておきたい」と言っていたからだ。「ロマンチストな親父だな」と心太朗は思いながらも、「後で言うからさ」と流しておくことにした。

が、母と姉は勝手に憶測を飛ばし始め、「キラキラネームは嫌だ」「読みやすい名前がいいよ」「やっぱり『ケンジ』とか『ケイイチ』みたいな素朴な名前がいいね」と口々に言う。心太朗と澄麗は、目を合わせて吹き出しそうになり、思わず笑ってしまった。「こうして名前の話題が続くと、なんだかオーディションみたいだな」と心太朗は思う。

食事が終わり、実家に帰りつくと、父がキッチンでひとり酒を傾けていた。姉が静かに「で、名前は?」と再び問いかけると、心太朗はついに口を開いた。「健一…だよ」と。

驚く姉と母。「今どきそんな古風な名前?」「今時あんまりいないんじゃない?」と意外そうな表情を浮かべるが、心太朗と澄麗にとっては、他にないぴったりの名前なのだ。この名前は澄麗が提案したもので、「健康第一」という、これ以上ないくらいシンプルな理由がある。いくつか候補はあったが、彼女がこの理由で自信満々に笑っていたのを見て、心太朗は自然と「これだな」と思った。

秘密の名前を知った姉は、「次に会う時は健一くんもいるのね」と微笑む。甥には受験頑張れよと軽く励まし、家族の別れを告げる心太朗。「次は健一と一緒に遊んでくれよな」と甥と約束し、実家を後にした。

その帰り道、心太朗はふと、愛おしい未来の一コマを思い描いていた。心太朗の心の中には、次の出会いへの期待と、少しの緊張感が渦巻いていた。次回会う時、甥は健一をどう思うのだろうか。それを考えると、心太朗の心はちょっと温かくなった。

こうして、心太朗の家族との夕食は、懐かしさと新たな期待が交錯する、心温まる一夜となったのだった。次は健一も一緒に、きっと楽しい時間を過ごすことができるだろう。心太朗は、「いい名前を付けたな」とニヤリと笑い、明るい未来を思い描きながら帰路についた。

**無職59日目(10月29日)**

心太朗は、仕事を辞めてもうすぐ2か月が経とうとしていた。振り返ってみれば、辞めた当初は何だか人間らしい心を取り戻した気分になっていた。あの時は、「ああ、仕事ってやっぱり無理してやるもんじゃないな」と自分に言い聞かせていた。澄麗に優しくなれたのも、日々の忙しさから解放されたからだ。食事も美味しく感じられ、久しぶりに草木や動物、虫たちに目を向ける余裕ができた。空を見上げるなんて、数年振りに感じる瞬間もあった。

しかし、次第に慣れが生じてくると、人間とは贅沢な生き物であることを心太朗は実感する。何もない日々が続くと、退屈を感じるようになり、社会から外れることにも慣れてしまうのだ。気がつけば、日記小説を書いている自分も、ネタが尽きてきてしまった。「これではいけない、何か面白い出来事を書かなきゃ」と焦る心太朗。しかし、彼の日常には特別な出来事などなかった。

「暇かと言われればそうでもない」と心太朗は思う。朝はゆっくり起き、コーヒーを飲みながらボーッと過ごす。そして、神社へ散歩し、チョコザップで運動をし、帰宅して日記小説を書く。書き終わると、X(旧Twitter)でフォロワーたちとやりとりを楽しむ。澄麗と買い物や図書館に出かければ、気づけばもう夕方。「あれ、まだ昼だと思っていたのに、なんでこんなに日が暮れてるの?」と地球にツッコミを入れる。

夕食を準備して、食べて、本を読んだり、ギターを弾く。その後、寝る支度をすれば、あっという間に一日は過ぎて行く。心太朗は思った。「忙しくはないが、暇でもないって、なんか矛盾してないか?」と、頭をかしげる。仕事を辞めたらもっと時間があると思っていたのに、意外と1日は短い。どこかで聞いた「自由ができると、逆に面倒くさくなる」という言葉を思い出す。

日記を書くネタが尽きるのは恐ろしい。心太朗は、書くネタがないことに嘆いていた。「これでは、読者もつまらないだろうな。『心太朗の毎日は退屈だな、こいつ何やってんの?』と思われるのが目に見えている」と、内心焦っていた。とはいえ、これから子供が生まれる予定だし、大きな転機が待っている。そんな未来を楽しみにしている自分もいた。

「何か大きな変化を起こさなければいけないのかもしれない」と心太朗は思った。「でも、どうしたらいいんだろう?何か行動を起こさなければ」と。しかし、今は日記小説を書くくらいしか社会とは繋がりがない自分がいた。

結局、心太朗は考え込んだ。「どうしたものか?」と。現状には「何をしてもいい自由」があるのに、実際に行動に移すとなると躊躇してしまう。もしかしたら、自分が求めているのは「何かをすること」ではなく「しないこと」なのかもしれない。そんな自分を笑い飛ばしながら、心太朗は自分の日常を見つめ直すことにした。これからの彼の行動がどうなるのか。彼の冒険は、まだ始まったばかりだ。

**無職60日目(10月30日)**

心太朗は、今日は澄麗と一緒にお宮参りの準備をすることにした。赤ちゃんが産まれてからは、心太朗はバタバタする日々が続くことを察していたので、ある程度は決めておかないといけない。いや、正直言うと、どれだけ準備しても、赤ちゃんのペースには勝てないだろうなと思いつつも。

まずはお宮参りの日の食事をどこでするかという話になった。チェーン店での食事という案もあったが、澄麗の両親がわざわざ隣の県から来てくれるのだから、どうせならその土地の美味しいものを味わってもらいたい。心太朗は、ご当地を選ぶことで、「おもてなし」を強調する作戦に出た。「おもてなし」という言葉に内心ニヤニヤしている心太朗だが、実際は「いいとこ連れて行ったら、良い父親と思われるかな」とも思っていた。

そこで近くにある有名な神社を思い出す。澄麗と共に、実際にそのお店で食事をすることにする。お店に着いてメニューを見ていると、よもぎそば、おでん、ちらし寿司がセットになったサービスセットが登場した。心太朗は「うまっ!」と声を上げてしまったが、「庶民的」な味だと感じた。お店は堅苦しい印象もなく、何より生後1か月の赤ちゃんを連れて行くことを考えると、座敷があるのは大変ありがたい。心太朗は、赤ちゃんが泣き出したり、授乳したりとバタバタする姿を想像しながらも、「ここで家族みんなで楽しく食べる姿を思い浮かべるだけで幸せだ」と心の中でニヤニヤしていた。
食事が終わった後、賑わった参道を歩きながら、心太朗は澄麗の両親が楽しんでくれる姿を思い描いていた。もうここに決めた、と心太朗は胸を張った。

次は、お宮参りの写真撮影の下見のため、神社の近くにある写真館へ向かうことにした。心太朗は赤ちゃんの衣装を見て、思わず声を上げた。「これはかっこいいな!」と目を輝かせ、澄麗も「これも可愛いね!」と同調する。二人は、色とりどりの祝着や小物を見ながら、まるで子供のようにはしゃいでいた。

カッコよく可愛らしいデザインが並ぶ中で、心太朗は特に一着の衣装に目を奪われた。それは、鮮やかな朱色の着物で、金色の刺繍が施されていた。澄麗もその姿を見て、「この色は健一に似合いそう!」と嬉しそうに言った。健一の姿はまだわからないが、彼女の中ではイメージができているらしい。
二人は、写真館での撮影の日を想像しながら、楽しいひとときを過ごした。お店のお姉さんも、その楽しそうな姿に微笑んでいた。

その後、恒例の別行動となり、心太朗は「チョコザップ」に行くことに決めた。一方、澄麗はショッピングに行くことに。お互いの趣味や好みを楽しみつつ、約束の時間にまた集合することにした。

「じゃあ、後でね!」と元気に手を振りながら、心太朗はチョコザップへ向かう。一方、澄麗は買い物の楽しさに心を躍らせながら、街の中へと消えていった。

お互いの時間を潰した後、家に帰って澄麗と話す時間がやってきた。赤ちゃんとの対面が楽しみで仕方がない心太朗は、「お宮参りだけでなく、100日祝い、ハーフバースデー、初節句、お七夜なんてのもあるらしいぞ!」と、さも自分が知識人かのように語った。しかし、澄麗はもう既に調べ済みで、恥をかいた。

さらに、七五三や運動会のことを考え、心太朗は「これからが楽しみだ」と笑顔を見せた。働いている時には、こういった行事に参加できなかったであろう激務の日々を振り返りながら、家族を優先して良かったと心底思った。「夢が広がって、いや、広がりすぎて目が回るな!」と思いつつも、心太朗は心の中で「この幸せな日々がずっと続くといいな」と願っていた。

その瞬間、心太朗は赤ちゃんのために奮闘する父親の未来像を描き、笑いながらも心温まる思いで一杯になったのだった。