**無職48日目(10月18日)**

心太朗は、朝の光がカーテンの隙間から漏れ込むのを感じながら、なんとか目を覚ました。寝れている、いや、寝れてはいるが身体は重く、頭はボーッとしている。「あれ、まだ二日酔いじゃないよね?」心太朗は自分に問いかけたが、酒は一切飲んでいないことに気づく。

「天気も良くないし、これって絶対天気のせいだ」と心太朗は自分に言い聞かせた。気分がすぐれないのは、決して自分のせいではない。彼の心の中に潜む「怠け者の自分」が、さも当然のように囁く。「そうだそうだ、俺は悪くない!むしろ、天気が悪いせいでアスファルトも心も湿気ているんだ」と、勝手に天気を責めてみる。

「何かをやろうとしても動けない」と、彼は自らの怠惰をさらに強調する。そんな心太朗を見て、妻の澄麗は優しい声で「ゆっくり休めばいいよ」と言った。彼は思わず、「ここで責められたら心が折れるから、もっと甘やかしてくれ!」と内心叫んだ。澄麗のその言葉が、時には彼にとっての最大の救いだった。

しかし「前日休んだから、これ以上休むのは申し訳ない」と心太朗は悩む。「でも、休むのも仕事だし、自己管理だし、何より自分を大切にすることが社会貢献だし…」と、いつの間にか複雑な理屈をこねている。無理やり体を起こそうとするが、何もやる気がしない。

そんな時、彼は「シャワーを浴びる」という名の強制的な自己洗浄を思いつく。動きたくない体を無理やりシャワー室へと導く。「何もやりたくないのに、どうしてシャワーなんか浴びるんだろう?」心太朗は自分に問いかけるが、たどり着いてしまうと全身を洗える快感にしばしうっとりする。シャンプー、トリートメント、洗顔、体を洗う……気分が晴れない日は敢えて30分以上かけて、まるでリゾート地のスパにいるかのような贅沢な時間を楽しんでいる。

「寝ている時間が一番リラックスしているが、寝れない時はシャワーを浴びているときが一番リラックスできるかもしれない」と心太朗は考えながら、シャワーの水に打たれる。何かしら哲学的な気分に浸りつつ、シャワーから出る水が落ちてくる音に合わせて「これが俺の人生のサウンドトラックだ!」と、勝手に自己陶酔する。

そして心太朗は、今日の行動を考え始める。「動くべきか、動かぬべきか。なぜ動かないといけないのか?動かないと未来が変わらないと思っているから?」と、どこかの哲学者のように悩んでみたり。

「本当にそうだろうか?」と自問自答しながら、過去の栄光に浸る。いろいろ考えてうまくいったことはあっただろうか?彼は一般の人と比べて10年以上遅れて就職したが、追いつき追い越すために頑張ってきた。結果、確かにかなりのスピードで昇進し、昇給した。でも、幸せだったか?

「毎日13時間働いて、寝不足でイライラして、家族との時間もなく、澄麗にまで強く当たっていた。自分の頑張りが、まるでジェットコースターのように疲れさせただけだった」と心太朗は自虐的に笑った。

「頑張った結果がそれだなんて、まさにブラックジョークだな」と、彼は自分の人生にツッコミを入れる。「一生懸命頑張っても、結局うまくいってないじゃん。むしろ、そこまで自分を追い詰めていない時の方が幸せだったのかも」と、心太朗は過去を思い出す。

バンド時代、駆け出しの頃はライブにもほとんどお客さんがいなくて赤字が続いた。お金が全然なかったが、周りの人が服をくれる不思議な現象が起きていた。「衣装を買うお金もなくて、全身貰い物で固めていた時期もあった。その時の服装は、逆にファッション雑誌に載ってもおかしくなかったかもしれない」と心太朗は笑う。

「どんなにお金がなくても、裸で過ごすこともなかった。なんとかなっていたのだ」と、過去の自分に少し感謝する。その当時、バンド活動が楽しくて仕方なかった。何も分からなかったから、とにかくライブをしまくっていた。そんな姿を見て、周りが応援してくれたり、会場を無料で貸してくれたり、ついには憧れの銀杏BOYZやサンボマスターが出ていたイベントに出演することまでこぎつけた。

ここまできて、もっとやらなきゃ、もっと皆んなにウケる曲を作らなきゃ、このパターンで作ればうまくいくとか、力が入り始めてしまったと、彼は反省する。そこからバンドはどんどん停滞していき、解散した。これが「力を入れる」という呪いなのかと、心太朗は思い出した。

「もっと力を抜いて、未来はなんとかなるからテキトーに迎えればいい」と、彼は結論づける。「今、とにかくシンプルに生きればいい。寝たい時は寝ればいい、食べたい時に食べればいい、元気な時は動けばいい」と、心太朗は自分に言い聞かせる。それができる今は、心太朗にとってありがたいことであり、彼はそれに感謝する。「テキトーに生きるために、辛い時は「とりあえず」という言葉を使おう」

心太朗は「とりあえず」寝ようと決めた。寝れなかったら起きればいいし、寝たことを後悔したらその後頑張ればいいと、心太朗は気楽に考える。「とにかく今は「とりあえず」休もう。身体と心がそう言っているような気がするから」

シャワーを浴びて、すっきりした心太朗は澄麗に休むことを伝えた。優しい言葉が返ってくる。「今は休むことが一番の仕事だよ。お願い、ゆっくり心と体を労わって!」と彼女は微笑んだ。

そんな心太朗は、ゆっくりとした時間の中で、次なる一歩を踏み出す準備を始めた。人生は時々コメディで、時々ドラマだ。結局、彼は「今はテキトーに生きる。それが、人生の一番の攻略法だ!」と、心の中で大きく決意するのだった。