もちろんそれは、旭が失恋すればいいと願っていたわけではない。
旭が幸せであれば、例え隣にいるのが自分でなくてもいいと思った。でも願わくば、自分が隣にいたいと思った。

そう思い続けて、見つめ続けて、――そうしてチャンスが、巡ってきた。


「旭が兄貴のことを想い続けてた間、俺は旭のことを想ってた。旭が兄貴のことを諦めても、俺は旭を諦めなかった」


旭が失恋したタイミングでこんなことを言う自分は、卑怯なのかもしれない。
けれど、今しかなかったのだ。兄しか見ていなかった旭の目に映るチャンスは、自分を見てもらえる瞬間は。

戸惑うように揺れる旭の瞳には、今確かに蒼真の姿が映っている。


「これからは俺のことをちゃんと見て、旭。兄貴じゃなくて、俺を」


何か言おうと開いた口から、「お、おまっ」とか「だっ、その、あ……」とか、意味をなさない言葉ばかりが零れ落ちる。
しどろもどろで、ほんのり顔を赤く染める旭。
蒼真の兄の話題が出た時は、もっとわかりやすく顔が赤くなるから、それにはまだ及ばない。
けれど、ほんの少しでも赤く染まっているのは、意識し始めた証拠に違いない。

それだけでも、蒼真にとっては大きな進歩だった。