「合格祝いにって、兄貴に個人的に渡してたハンカチも、兄貴が好きなブランドのやつだったよな」

「……なんでハンカチのこと知って」

「兄貴に自慢されたから」


当時まだ中学生だった旭が手を出すには、中々勇気のいる値段のハンカチ。それをプレゼントすることの意味を、蒼真はわかっていたけれど、プレゼントされる意味を、兄の方はきっとわかっていなかった。
ただ嬉しそうに笑って、「ほんといい子だよな!」と自慢げに蒼真に見せびらかしていた。

でもきっと旭は、それでいいと、気付かれなくてもいいと思っていたに違いない。事実旭は、「合格おめでとうございます」と告げただけで、あとは何も言わなかったそうだから。


「旭は、まだ兄貴のこと好きなの?」


二度目の問いは、振り返らない背中に向けて。答える声もないけれど、赤みの引かない耳を見れば、答えなんて手に取るようにわかる。


「……その話、やめろって言ってるだろ」


やめろとは言うが否定はしない、それもまた一つの答えだ。