「ああー、もうすぐクリスマスかぁ。嫌だなぁ……」
HRが終わって生徒会室に入るや否や、そんな不満が聞こえてきた。
もちろんその声の主は武田先輩だった。
「矢野くん早かったね」
俺に気がついた会長は作業の手を止める。
「あ、はい。いつもHRはすぐ終わるので……それより俺も何か手伝いますよ」
会長や夏樹先輩が何やら作業をしているのが見えて声をかけると、「じゃあこっちお願いしようかな」と会長が手招きするので、そばに駆け寄る。
「おいっ、みんなして無視すんなよな! 俺の声ちゃんと聞こえてるんだろ」
武田先輩が声を張り上げるから、夏樹先輩が「うるさい」と切り捨てる。
俺の前だけだと夏樹先輩は優しいけれど、同級生に接するときは少しだけ雑に見える。
「もー、なに。武田、クリスマス嫌いなの?」
と、会長が渋々尋ねると、
「ちげーよ。クリスマスは好きだけど、彼女がいねーからってこと!」
武田先輩がそう言うと、会長は「ああ、そっちね」とクスッと笑う。
「矢野くん、これ、四枚セットでホチキスするんだけど、とりあえずそれを百部作ってもらえるかな」
「あ、はい。分かりました」
机の上に四つに分けられた束が置かれている。それの取る順番を教えられる。
忙しそうな会長に向かって「山崎、聞いてる?」と武田先輩は、パイプ椅子の背に腕を置いて駄々をこねているようだ。
「聞いてる聞いてる。それで彼女がいないから何なの?」
会長は呆れたように苦笑いを浮かべる。
作業もあるのに武田先輩の話し相手もするって大変そうだ、と思いながら俺は頼まれたことをやり始める。
「だーかーらー、もうすぐクリスマスじゃん! 俺、まだ彼女いねーけど。どーすんの?!」
「どうするって。それは自分の責任でしょ?」
「ひっでー…! 生徒会が忙しくて彼女作る暇もないっつーの!」
「え、じゃあ生徒会がなければ彼女できると思ってる?」
「……? そーだけど」
「ふーん、そっかぁ。へえ……」
ニコニコとした会長は、机に溜まっている作業を再開させる。
「ちょ、なんだよ。言いたいことあるなら言えよ」
「ううん、べつになにも」
会長の含み笑いにわずかに動揺する武田先輩を見ていると、「矢野くん、それ俺も手伝うよ」と夏樹先輩の声が聞こえてきた。