◆
少し緊張しながらアパートに戻ると、親父と朔はローテーブルに向かい合って座りながらお茶を飲んでいた。静かにリビングに入ってきた俺の顔を見た瞬間、無表情で顔を上げた朔の肩から力が抜ける。
「おかえり」
「おかえり」
安堵したような朔の声に、いつもと変わらない様子の親父の声が重なる。
「ただいま」
ぼそりと答えて、俺もなんとなくローテーブルの前に座った。
「これ、食ってみろ。最近うちの近くにケーキ屋ができたんだが、ここのラスクが美味いんだ」
正座した両膝に手のひらを置いて身構える俺に、親父が英字のロゴが入った紙袋を差し出してくる。
「美味いだろ」
勧められるままにラスクを食べると、自分が作ったわけでもないのに親父が自慢気に言った。
「うん、まぁ」
俺が頷くと、ラスクの紙袋を持ったまま親父が黙り込む。
妙な雰囲気の沈黙の中、ラスクを囓る音がやけに響くから、俺は囓りかけのそれをテーブルの上に置いた。
「お兄ちゃんにもお茶淹れてきてあげるね」
俺が親父に視線を向けると、朔が気を遣って立ち上がる。朔がキッチンの方へと歩いていくと、親父がようやく覚悟を決めたように息を吐いた。
「いろいろ聞きたいことはあると思うが、まず俺から話していいか?」
小さく頷くと、親父がひとつひとつ慎重に言葉を選びながらゆっくりと話し始めた。
「おまえたちの母親……由希子に再会したのは、3年ほど前のことだ。場所は奇遇にも、由希子が今入院している病院のロビーだった。3年くらい前に俺が会社の健診で引っかかって、病院に再検査に行ったことがあるのを覚えてるか?」
そういえばそんなこともあったな。胸部レントゲンで肺に影が写ってるって医者に言われて、親父が珍しく気落ちしてたっけ。
再検査を受けに行ったら、結局健診の医者の見間違えだったみたいで何ともなかったんだよな。そんなことを思い出して頷く。
「そのときに、由希子が朔を連れて病院に来てたんだ。3歳の朔の高熱が3日続いて下がらなくて、大きな病院を受診しに来たんだと言っていた」
親父がキッチンにいる朔にちらりと視線を流す。
「検査の結果によっては入院なるかもしれないとかで、由希子はかなり動揺していた。あんまり動揺しているから、父親に電話して来てもらったほうがいいんじゃないかと勧めたんだ」
「父親……?」
親父が初めて俺のところに朔を連れて来たとき「父親は自分だ」って言ってなかったか……? 眉を顰める俺を見て、親父が苦笑いした。
「話をややこしくして悪かった。朔は俺の子じゃない。朔の父親は、俺と別れたあとに由希子が一緒に生活してた男だ。その父親は、朔が2歳になる前に交通事故で亡くなったらしい」
「え……?」
胸に大きな衝撃が走る。表情を失う俺の前に、戻ってきた朔がお茶を置いてくれた。
「どうぞ。おじさんも」
親父の前にもお茶を置くと、朔が姿勢を正してローテーブルの前に座る。両膝に手を置いた朔は、無表情でどこか遠くをじっと見ていた。
「結局その日、朔は入院にはならなかったんだが、ぐったりしたまま苦しそうで。朔を憔悴しきった目で見つめる由希子のことも気になった。それで、由希子に言ったんだ。もし夜中に何かあったときは、遠慮せずに頼ってくれって」
「それから連絡を取り合うようになったってこと?」
「取り合うといっても、ごくたまにだよ。由希子は陽央のことも気にかけていて、ときどきお前の報告もしてた。大学に合格したときは喜んでたよ」
「勝手にそんな報告するなよ。出て行った時点で、俺や親父への興味なんて失せてたんだろ。そんな人と、どうして連絡なんて取り合ってたんだよ。お母さんはそのこと知ってんの?」
俺のいう「お母さん」は、実の母のことではなくて義理の母のことだ。俺たちを捨てて出て行ったあの人は、母親なんかじゃない。
「お母さんは由希子と連絡をとっていたことだけは知ってる」
「さいてーだな」
「ちゃんと理解してくれてるよ」
「どうだか」
怒りを抑えきれない俺を、親父が困ったように見つめる。
「お母さんとのことはまた話すとして……。今は由希子と朔の話をさせてくれ」
親父はそう言うと、過去のことを話してくれた。
親父と俺の実の母親は、大学時代のテニスサークルの仲間だったらしい。親父は、出会った頃から母親のことが気になっていたが、残念ながら母親が付き合っていたのは親父の友人。その男が、朔のほんとうの父親らしい。
「朔の父親は絵が得意で、大学卒業後はイラスト関係の仕事に就くことを決めていた。由希子も就職が決まっていて、ふたりの付き合いや卒業後の生活は順調そうだった。きっと結婚するだろうと思ってたんだが、卒業して2年後の同窓会で由希子に会ったとき、彼女は朔の父親と別れてたんだ」
親父が一旦言葉を切って、お茶を飲む。
「朔の父親の実家は老舗の呉服屋らしい。『イラストの仕事に就きたいから家は継がない。将来的に結婚を考えている人がいる』と話したら、両親揃って大反対だったそうだ。そのあと、どうやって調べたのか、朔の父親の母が由希子に会いに来た。朔の父の母親は、「息子と別れてくれ」と由希子に頭を下げたそうだ。さらには金を積んで、息子の代わりの男を紹介するとか、そんな感じのことを言ったらしい」
激しく泣きすがられて、俺の実の母は朔の父親と別れるしかなかったそうだ。同窓会でそのことを知った親父は、時間をかけて母を口説いて、なんとか結婚までこぎつけたらしい。
「でも、俺は由希子にとっての運命の相手じゃなかったんだろうな。陽央が小学生になってから、由希子は偶然に朔の父親と再会した。無理やり引き離されたからか、再会したときに相手に感じた想いも強かったらしい。朔の父親は実家とは縁を切って自分の夢を追いかけようとしていて、由希子はそれを支えたいと願った。陽央のことは最後まで気にかけて、連れて行きたがってたけど俺が許さなかった。由希子が新しく始めようとする生活を、陽央が受け入れないんじゃないかと思ったから……」
そこまで話したあと、親父がジッと俺を見てきた。
「お母さんに、着いて行きたかったか?」
苦しそうに絞り出された親父の声に胸が詰まる。
今まで一度もそんなこと聞かれたことはなかったが、親父の中ではずっと引っかかっていたのかもしれない。俺がほんとうは、母親と一緒に行きたかったんじゃないかと。
本音を言うと、母に一緒に着いて行けていれば……、と思う気持ちが全くなかったわけじゃない。
だけど俺は、今のお母さんと再婚するまでの数年間、親父が仕事をしながらひとりで頑張ってた姿を知っている。だから、大きく横に頭を振った。
「俺は今も昔も、あのひとに着いていきたいと思ったことはないよ」
断言すると、親父は複雑そうに表情を歪めて、それから少しほっとしたように笑った。
「今のお母さんは、大学の2つ下の後輩なんだよ。由希子と別れた経緯も知ってるし、3年前に偶然再会したことも知ってる。ただ……」
親父が言いにくそうに朔に視線を向ける。
「今由希子が入院していて、陽央の家で朔を預かっていることは言えてない」
そうだろうなとは思っていた。いくら事情を知っていたとしても、今のお母さんだって、夫が別れた妻と連絡取り合っていたら、あまりいい気はしないだろう。ましてや、その娘を預かるなんて。もし快く受け入れられるとしたら、かなり心が広いと思う。
「お母さんに言えなくて、朔をお前のところでみてもらえるように『俺の子だ』と嘘をついた。悪い……」
眉を下げた親父が、情けない表情を浮かべる。俺は苦笑いを返すと、小さく首を横に振った。
「朔のことは、言えないなら言わなくていいよ。このままここにいればいいんだし」
だって朔は俺の……。
それから少し話したあと、親父は帰って行った。朔とふたりだけになると部屋に静寂が訪れる。
外が暗くなって、カーテンを閉めるために立ち上がると、窓の向こうの空に新月に変わる前の細い三日月が見えた。ぼんやりとそれを見つめていると、朔がつぶやく。
「お兄ちゃんに初めて会ったときね、ちょっとだけ似てるなぁって思ったんだ」
振り返ると、朔が微笑んでいた。
似てるって、誰に……?
「ちょっとだけ似てる。ママとお兄ちゃん」
朔が俺の心を読み取ったみたいにそう答える。
似てる、のか。俺はあのひとに。複雑な思いに支配され、胸の中に苦い感情が広がる。
「ほんと言うとね、お兄ちゃんのこと、最初はちょっと怖かった。だけど、これもらってね……」
朔がそろそろと動いて、家の鍵をつけて渡したウサギのキーホルダーを俺に見せる。
「それから、ママの病院に行くのに迷った朔を迎えに来てくれて。病院にも連れて行ってくれて。だんだん、優しい顔したときのお兄ちゃんの顔がもっとママに似てるなぁって思うようになって。お兄ちゃんがほんとのお兄ちゃんだったらいいなぁって思うようになって」
窓から差し込む細い三日月の仄かな光に照らされて、キーホルダーのウサギがゆらりと揺れる。
「だから朔は嬉しいよ。お兄ちゃんがほんとの家族で」
俺を見上げて、朔がにこりと笑う。朔の言葉に、胸の奥が熱くなった。
「ありがとう」
そう答えるのが精一杯で、低くつぶやく声が震えた。
朔も。朔のほうこそ、あのひとによく似ている。だって朔は俺の、血の繋がった妹だから。
少し緊張しながらアパートに戻ると、親父と朔はローテーブルに向かい合って座りながらお茶を飲んでいた。静かにリビングに入ってきた俺の顔を見た瞬間、無表情で顔を上げた朔の肩から力が抜ける。
「おかえり」
「おかえり」
安堵したような朔の声に、いつもと変わらない様子の親父の声が重なる。
「ただいま」
ぼそりと答えて、俺もなんとなくローテーブルの前に座った。
「これ、食ってみろ。最近うちの近くにケーキ屋ができたんだが、ここのラスクが美味いんだ」
正座した両膝に手のひらを置いて身構える俺に、親父が英字のロゴが入った紙袋を差し出してくる。
「美味いだろ」
勧められるままにラスクを食べると、自分が作ったわけでもないのに親父が自慢気に言った。
「うん、まぁ」
俺が頷くと、ラスクの紙袋を持ったまま親父が黙り込む。
妙な雰囲気の沈黙の中、ラスクを囓る音がやけに響くから、俺は囓りかけのそれをテーブルの上に置いた。
「お兄ちゃんにもお茶淹れてきてあげるね」
俺が親父に視線を向けると、朔が気を遣って立ち上がる。朔がキッチンの方へと歩いていくと、親父がようやく覚悟を決めたように息を吐いた。
「いろいろ聞きたいことはあると思うが、まず俺から話していいか?」
小さく頷くと、親父がひとつひとつ慎重に言葉を選びながらゆっくりと話し始めた。
「おまえたちの母親……由希子に再会したのは、3年ほど前のことだ。場所は奇遇にも、由希子が今入院している病院のロビーだった。3年くらい前に俺が会社の健診で引っかかって、病院に再検査に行ったことがあるのを覚えてるか?」
そういえばそんなこともあったな。胸部レントゲンで肺に影が写ってるって医者に言われて、親父が珍しく気落ちしてたっけ。
再検査を受けに行ったら、結局健診の医者の見間違えだったみたいで何ともなかったんだよな。そんなことを思い出して頷く。
「そのときに、由希子が朔を連れて病院に来てたんだ。3歳の朔の高熱が3日続いて下がらなくて、大きな病院を受診しに来たんだと言っていた」
親父がキッチンにいる朔にちらりと視線を流す。
「検査の結果によっては入院なるかもしれないとかで、由希子はかなり動揺していた。あんまり動揺しているから、父親に電話して来てもらったほうがいいんじゃないかと勧めたんだ」
「父親……?」
親父が初めて俺のところに朔を連れて来たとき「父親は自分だ」って言ってなかったか……? 眉を顰める俺を見て、親父が苦笑いした。
「話をややこしくして悪かった。朔は俺の子じゃない。朔の父親は、俺と別れたあとに由希子が一緒に生活してた男だ。その父親は、朔が2歳になる前に交通事故で亡くなったらしい」
「え……?」
胸に大きな衝撃が走る。表情を失う俺の前に、戻ってきた朔がお茶を置いてくれた。
「どうぞ。おじさんも」
親父の前にもお茶を置くと、朔が姿勢を正してローテーブルの前に座る。両膝に手を置いた朔は、無表情でどこか遠くをじっと見ていた。
「結局その日、朔は入院にはならなかったんだが、ぐったりしたまま苦しそうで。朔を憔悴しきった目で見つめる由希子のことも気になった。それで、由希子に言ったんだ。もし夜中に何かあったときは、遠慮せずに頼ってくれって」
「それから連絡を取り合うようになったってこと?」
「取り合うといっても、ごくたまにだよ。由希子は陽央のことも気にかけていて、ときどきお前の報告もしてた。大学に合格したときは喜んでたよ」
「勝手にそんな報告するなよ。出て行った時点で、俺や親父への興味なんて失せてたんだろ。そんな人と、どうして連絡なんて取り合ってたんだよ。お母さんはそのこと知ってんの?」
俺のいう「お母さん」は、実の母のことではなくて義理の母のことだ。俺たちを捨てて出て行ったあの人は、母親なんかじゃない。
「お母さんは由希子と連絡をとっていたことだけは知ってる」
「さいてーだな」
「ちゃんと理解してくれてるよ」
「どうだか」
怒りを抑えきれない俺を、親父が困ったように見つめる。
「お母さんとのことはまた話すとして……。今は由希子と朔の話をさせてくれ」
親父はそう言うと、過去のことを話してくれた。
親父と俺の実の母親は、大学時代のテニスサークルの仲間だったらしい。親父は、出会った頃から母親のことが気になっていたが、残念ながら母親が付き合っていたのは親父の友人。その男が、朔のほんとうの父親らしい。
「朔の父親は絵が得意で、大学卒業後はイラスト関係の仕事に就くことを決めていた。由希子も就職が決まっていて、ふたりの付き合いや卒業後の生活は順調そうだった。きっと結婚するだろうと思ってたんだが、卒業して2年後の同窓会で由希子に会ったとき、彼女は朔の父親と別れてたんだ」
親父が一旦言葉を切って、お茶を飲む。
「朔の父親の実家は老舗の呉服屋らしい。『イラストの仕事に就きたいから家は継がない。将来的に結婚を考えている人がいる』と話したら、両親揃って大反対だったそうだ。そのあと、どうやって調べたのか、朔の父親の母が由希子に会いに来た。朔の父の母親は、「息子と別れてくれ」と由希子に頭を下げたそうだ。さらには金を積んで、息子の代わりの男を紹介するとか、そんな感じのことを言ったらしい」
激しく泣きすがられて、俺の実の母は朔の父親と別れるしかなかったそうだ。同窓会でそのことを知った親父は、時間をかけて母を口説いて、なんとか結婚までこぎつけたらしい。
「でも、俺は由希子にとっての運命の相手じゃなかったんだろうな。陽央が小学生になってから、由希子は偶然に朔の父親と再会した。無理やり引き離されたからか、再会したときに相手に感じた想いも強かったらしい。朔の父親は実家とは縁を切って自分の夢を追いかけようとしていて、由希子はそれを支えたいと願った。陽央のことは最後まで気にかけて、連れて行きたがってたけど俺が許さなかった。由希子が新しく始めようとする生活を、陽央が受け入れないんじゃないかと思ったから……」
そこまで話したあと、親父がジッと俺を見てきた。
「お母さんに、着いて行きたかったか?」
苦しそうに絞り出された親父の声に胸が詰まる。
今まで一度もそんなこと聞かれたことはなかったが、親父の中ではずっと引っかかっていたのかもしれない。俺がほんとうは、母親と一緒に行きたかったんじゃないかと。
本音を言うと、母に一緒に着いて行けていれば……、と思う気持ちが全くなかったわけじゃない。
だけど俺は、今のお母さんと再婚するまでの数年間、親父が仕事をしながらひとりで頑張ってた姿を知っている。だから、大きく横に頭を振った。
「俺は今も昔も、あのひとに着いていきたいと思ったことはないよ」
断言すると、親父は複雑そうに表情を歪めて、それから少しほっとしたように笑った。
「今のお母さんは、大学の2つ下の後輩なんだよ。由希子と別れた経緯も知ってるし、3年前に偶然再会したことも知ってる。ただ……」
親父が言いにくそうに朔に視線を向ける。
「今由希子が入院していて、陽央の家で朔を預かっていることは言えてない」
そうだろうなとは思っていた。いくら事情を知っていたとしても、今のお母さんだって、夫が別れた妻と連絡取り合っていたら、あまりいい気はしないだろう。ましてや、その娘を預かるなんて。もし快く受け入れられるとしたら、かなり心が広いと思う。
「お母さんに言えなくて、朔をお前のところでみてもらえるように『俺の子だ』と嘘をついた。悪い……」
眉を下げた親父が、情けない表情を浮かべる。俺は苦笑いを返すと、小さく首を横に振った。
「朔のことは、言えないなら言わなくていいよ。このままここにいればいいんだし」
だって朔は俺の……。
それから少し話したあと、親父は帰って行った。朔とふたりだけになると部屋に静寂が訪れる。
外が暗くなって、カーテンを閉めるために立ち上がると、窓の向こうの空に新月に変わる前の細い三日月が見えた。ぼんやりとそれを見つめていると、朔がつぶやく。
「お兄ちゃんに初めて会ったときね、ちょっとだけ似てるなぁって思ったんだ」
振り返ると、朔が微笑んでいた。
似てるって、誰に……?
「ちょっとだけ似てる。ママとお兄ちゃん」
朔が俺の心を読み取ったみたいにそう答える。
似てる、のか。俺はあのひとに。複雑な思いに支配され、胸の中に苦い感情が広がる。
「ほんと言うとね、お兄ちゃんのこと、最初はちょっと怖かった。だけど、これもらってね……」
朔がそろそろと動いて、家の鍵をつけて渡したウサギのキーホルダーを俺に見せる。
「それから、ママの病院に行くのに迷った朔を迎えに来てくれて。病院にも連れて行ってくれて。だんだん、優しい顔したときのお兄ちゃんの顔がもっとママに似てるなぁって思うようになって。お兄ちゃんがほんとのお兄ちゃんだったらいいなぁって思うようになって」
窓から差し込む細い三日月の仄かな光に照らされて、キーホルダーのウサギがゆらりと揺れる。
「だから朔は嬉しいよ。お兄ちゃんがほんとの家族で」
俺を見上げて、朔がにこりと笑う。朔の言葉に、胸の奥が熱くなった。
「ありがとう」
そう答えるのが精一杯で、低くつぶやく声が震えた。
朔も。朔のほうこそ、あのひとによく似ている。だって朔は俺の、血の繋がった妹だから。