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翌日、俺と奈未は大学の帰りに待ち合わせて一緒に帰った。
買い物に付き合ってほしいと奈未に言われて、大学の最寄り駅から電車に乗ってショッピングモールへと向かう。ショッピングモールに着くと、奈未は迷わずお気に入りのブランドのお店に行って、目星をつけていたというグレーのマキシ丈のワンピースを手に取った。
「試着してみていい?」
「どうぞ」
奈未がうきうきとしながら、試着室を借りにいく。しばらく待っていると、ワンピースに着替えた奈未が試着室のカーテンの隙間から上半身を覗かせた。
「どうかな?」
奈未がそう言って、試着室のカーテンを全開にする。
俺と会うときの奈未は、短めのスカートやショートパンツなど結構露出のある服を着ていることが多い。だから、丈の長いワンピース姿の彼女はちょっと新鮮で可愛かった。
「いいんじゃない?」
「ほんと? じゃあ、これに決める」
奈未は元の服に着替えると、ワンピースを持ってレジに向かった。
ワンピースを買ったあとは、カフェに入って休憩をした。横並びに座れるソファが空いていたから、奈未と一緒にそこに座る。
「ハルヒサ、今日バイトは?」
アイスラテを一口啜ってからテーブルに置くと、奈未が甘えるように俺の肩に寄りかかってくる。奈未の髪からは甘くていい匂いが漂ってきて、それがなんだかなつかしかった。
「今日は休み。メシでも食って帰る?」
「うん、食べたい」
奈未が嬉しそうな声で俺の誘いにのってくる。その反応が可愛いな、と思った。
今日は朔にも、帰りが遅くなるかもしれないと伝えてある。ひさしぶりの奈未とのデートだし、ゆっくりして帰っても大丈夫だろう。
「奈未、何食べたい?」
「んー、そうだな……」
奈未が俺の顔を上目遣いに見てきたそのとき、テーブルに置いていたスマホがメッセージを受信した。メッセージは江麻先生からだ。だからというわけでもないけど、スマホを手に取った俺は、画面が奈未に見えないようになんとなく横に傾けてしまう。
江麻先生が送ってきたのは、食事に行ける候補日だ。もちろん、デートとかそんなつもりではなくて、夏休みに朔や和央の保護者としていろいろと付き合ってもらったことへのお礼。送られてきた候補日を見て、頭の中で自分の予定と照らし合わせていると、奈未が俺のほうに身を乗り出してくる。
「誰から?」
江麻先生とごはんを食べに行くのはただのお礼だから、奈未に対してやましいことは何もない。それなのに俺は、咄嗟にスマホを隠してしまった。
「……友達」
スマホをカバンにいれながら答えると、奈未が何か言いたげにうつむく。明るい笑顔から一変して沈んだ表情になったは、なんだか泣きそうな目をしていた。
「ハルヒサ、夏休み楽しかったでしょ」
奈未が確かめるように訊いてくる。連絡を寄越さなかったのはお互い様なのに、そんな聞き方をしてくる理由がわからない。不思議に思っていると、奈未が小さく首を横に振った。
「ごめん、何でもない。ハルヒサ、あたしパスタ食べたい。パスタ食べに行こう」
奈未がにこりと笑って俺の肘に腕を絡める。それから俺を立ち上がらせると、カフェの外へと連れ出した。
パスタを食べて店を出た俺たちは、駅に向かってぶらぶらと歩いた。改札口が前に見えてきたところでIC定期を取り出すと、奈未が不意に足を止める。
「ハルヒサ、もう帰っちゃう?」
「あー、うん」
朔には帰りが遅くなることを伝えているけれど、そろそろ帰らなければバイトがある日よりも帰宅時間が遅くなる。時間を気にして、つい素っ気なく言葉を返すと、奈未が傷ついたような顔をした。
奈未の瞳が泣きそうに揺れるのを見て、しまったなと思う。ひさしぶりのデートだし、奈未はもうちょっとふたりでいたいとか思ってくれてたのかもしれない。実際に、朔と住む前の俺は、時間なんて気にせず遊んでいた。
「ごめん」
自分の無神経さを反省して謝ると、奈未がさらに傷ついたように表情を歪めた。
「今日はいつもみたいに誘ってくれないんだ?」
傷ついた顔をする奈未の瞳に、薄っすらと涙の膜が張る。
「いつもみたいにって?」
潤んだ奈未の瞳が、キッと俺を睨んだ。
「とぼけないでよ。わかってるくせにっ!」
奈未が俺に八つ当たるように、大きな声を出す。そばにいた人たちが驚いたり、顔を顰めたりしながら通り過ぎて行くから、俺は慌てて奈未を道の端へと引っ張った。
「いきなり声でけぇよ」
しっ、と口に人差し指をあてると、奈未が不満そうに唇を引き結ぶ。
「今までは、夜まで遊んで何もせずに帰すなんてなかったじゃん。ハルヒサはもう、あたしのことなんてどうでもいいんでしょ?」
「そんなことないよ」
「じゃあ、どうして誘ってくれないの? 他に気になる人できたから?」
奈未が感情的に声を荒げる。その声は周囲に大きく響き渡っていて、道の端に寄った意味なんて全然なかった。
「奈未、お前何言ってんの?」
涙を目に溜めながら俺を睨む奈未を、困惑気味に見下ろす。奈未はそんな俺に迫り寄ってくると、俺のシャツの胸元を力の加減なく両手でぎゅっとつかんだ。
「あたしのこと好きだったら、今ここでキスして」
「は? 人、いっぱいいるけど」
「いいから」
奈未の様子は明らかにおかしい。だけど、必死な目で迫ってくる彼女を拒絶することもできなくて。俺は仕方なく、彼女の唇に触れるだけのキスをした。
「で? 今からホテル行こっかって誘ったら、奈未はそれで満足すんの?」
奈未の頬に手をあてながら、ため息交じりに訊ねる。どうせ、こんな雰囲気で行ったとしても興ざめだろうけど。
それに、以前はどれだけ帰りが遅くなったってよかったけど、今はそういうわけにもいかない。そんな俺の心の内が伝わったのか、奈未が口を閉ざして俯いた。
「奈未、なんかお前変だよ。約束すっぽかした分は、これからいっぱい埋め合わせる。それに夏休みの分も。だから、今日は帰って気持ち落ち着かせな」
奈未の頭を撫でながら諭すように話していると、バッグの中で彼女のスマホが鳴った。メッセージが届いていたらしい。俺に背を向けて内容を確かめた奈未は、何かメッセージを打ち返すとバッグにスマホを入れた。
「ごめん。久々にハルヒサとデートして、変に感情昂ぶったのかも。今日は帰る」
冷静さを取り戻した奈未にほっとする。
「うん、そうしよう」
俺の言葉に、奈未はうっすらと唇の端を引き上げて頷いた。
「ハルヒサ、またあたしとデートしてくれる?」
駅での別れ際、奈未が不安そうな声で訊ねてくる。
「あたりまえだろ。またな」
俺が笑って手を振ると、奈未もほっとしたように笑って手を振った。
翌日、俺と奈未は大学の帰りに待ち合わせて一緒に帰った。
買い物に付き合ってほしいと奈未に言われて、大学の最寄り駅から電車に乗ってショッピングモールへと向かう。ショッピングモールに着くと、奈未は迷わずお気に入りのブランドのお店に行って、目星をつけていたというグレーのマキシ丈のワンピースを手に取った。
「試着してみていい?」
「どうぞ」
奈未がうきうきとしながら、試着室を借りにいく。しばらく待っていると、ワンピースに着替えた奈未が試着室のカーテンの隙間から上半身を覗かせた。
「どうかな?」
奈未がそう言って、試着室のカーテンを全開にする。
俺と会うときの奈未は、短めのスカートやショートパンツなど結構露出のある服を着ていることが多い。だから、丈の長いワンピース姿の彼女はちょっと新鮮で可愛かった。
「いいんじゃない?」
「ほんと? じゃあ、これに決める」
奈未は元の服に着替えると、ワンピースを持ってレジに向かった。
ワンピースを買ったあとは、カフェに入って休憩をした。横並びに座れるソファが空いていたから、奈未と一緒にそこに座る。
「ハルヒサ、今日バイトは?」
アイスラテを一口啜ってからテーブルに置くと、奈未が甘えるように俺の肩に寄りかかってくる。奈未の髪からは甘くていい匂いが漂ってきて、それがなんだかなつかしかった。
「今日は休み。メシでも食って帰る?」
「うん、食べたい」
奈未が嬉しそうな声で俺の誘いにのってくる。その反応が可愛いな、と思った。
今日は朔にも、帰りが遅くなるかもしれないと伝えてある。ひさしぶりの奈未とのデートだし、ゆっくりして帰っても大丈夫だろう。
「奈未、何食べたい?」
「んー、そうだな……」
奈未が俺の顔を上目遣いに見てきたそのとき、テーブルに置いていたスマホがメッセージを受信した。メッセージは江麻先生からだ。だからというわけでもないけど、スマホを手に取った俺は、画面が奈未に見えないようになんとなく横に傾けてしまう。
江麻先生が送ってきたのは、食事に行ける候補日だ。もちろん、デートとかそんなつもりではなくて、夏休みに朔や和央の保護者としていろいろと付き合ってもらったことへのお礼。送られてきた候補日を見て、頭の中で自分の予定と照らし合わせていると、奈未が俺のほうに身を乗り出してくる。
「誰から?」
江麻先生とごはんを食べに行くのはただのお礼だから、奈未に対してやましいことは何もない。それなのに俺は、咄嗟にスマホを隠してしまった。
「……友達」
スマホをカバンにいれながら答えると、奈未が何か言いたげにうつむく。明るい笑顔から一変して沈んだ表情になったは、なんだか泣きそうな目をしていた。
「ハルヒサ、夏休み楽しかったでしょ」
奈未が確かめるように訊いてくる。連絡を寄越さなかったのはお互い様なのに、そんな聞き方をしてくる理由がわからない。不思議に思っていると、奈未が小さく首を横に振った。
「ごめん、何でもない。ハルヒサ、あたしパスタ食べたい。パスタ食べに行こう」
奈未がにこりと笑って俺の肘に腕を絡める。それから俺を立ち上がらせると、カフェの外へと連れ出した。
パスタを食べて店を出た俺たちは、駅に向かってぶらぶらと歩いた。改札口が前に見えてきたところでIC定期を取り出すと、奈未が不意に足を止める。
「ハルヒサ、もう帰っちゃう?」
「あー、うん」
朔には帰りが遅くなることを伝えているけれど、そろそろ帰らなければバイトがある日よりも帰宅時間が遅くなる。時間を気にして、つい素っ気なく言葉を返すと、奈未が傷ついたような顔をした。
奈未の瞳が泣きそうに揺れるのを見て、しまったなと思う。ひさしぶりのデートだし、奈未はもうちょっとふたりでいたいとか思ってくれてたのかもしれない。実際に、朔と住む前の俺は、時間なんて気にせず遊んでいた。
「ごめん」
自分の無神経さを反省して謝ると、奈未がさらに傷ついたように表情を歪めた。
「今日はいつもみたいに誘ってくれないんだ?」
傷ついた顔をする奈未の瞳に、薄っすらと涙の膜が張る。
「いつもみたいにって?」
潤んだ奈未の瞳が、キッと俺を睨んだ。
「とぼけないでよ。わかってるくせにっ!」
奈未が俺に八つ当たるように、大きな声を出す。そばにいた人たちが驚いたり、顔を顰めたりしながら通り過ぎて行くから、俺は慌てて奈未を道の端へと引っ張った。
「いきなり声でけぇよ」
しっ、と口に人差し指をあてると、奈未が不満そうに唇を引き結ぶ。
「今までは、夜まで遊んで何もせずに帰すなんてなかったじゃん。ハルヒサはもう、あたしのことなんてどうでもいいんでしょ?」
「そんなことないよ」
「じゃあ、どうして誘ってくれないの? 他に気になる人できたから?」
奈未が感情的に声を荒げる。その声は周囲に大きく響き渡っていて、道の端に寄った意味なんて全然なかった。
「奈未、お前何言ってんの?」
涙を目に溜めながら俺を睨む奈未を、困惑気味に見下ろす。奈未はそんな俺に迫り寄ってくると、俺のシャツの胸元を力の加減なく両手でぎゅっとつかんだ。
「あたしのこと好きだったら、今ここでキスして」
「は? 人、いっぱいいるけど」
「いいから」
奈未の様子は明らかにおかしい。だけど、必死な目で迫ってくる彼女を拒絶することもできなくて。俺は仕方なく、彼女の唇に触れるだけのキスをした。
「で? 今からホテル行こっかって誘ったら、奈未はそれで満足すんの?」
奈未の頬に手をあてながら、ため息交じりに訊ねる。どうせ、こんな雰囲気で行ったとしても興ざめだろうけど。
それに、以前はどれだけ帰りが遅くなったってよかったけど、今はそういうわけにもいかない。そんな俺の心の内が伝わったのか、奈未が口を閉ざして俯いた。
「奈未、なんかお前変だよ。約束すっぽかした分は、これからいっぱい埋め合わせる。それに夏休みの分も。だから、今日は帰って気持ち落ち着かせな」
奈未の頭を撫でながら諭すように話していると、バッグの中で彼女のスマホが鳴った。メッセージが届いていたらしい。俺に背を向けて内容を確かめた奈未は、何かメッセージを打ち返すとバッグにスマホを入れた。
「ごめん。久々にハルヒサとデートして、変に感情昂ぶったのかも。今日は帰る」
冷静さを取り戻した奈未にほっとする。
「うん、そうしよう」
俺の言葉に、奈未はうっすらと唇の端を引き上げて頷いた。
「ハルヒサ、またあたしとデートしてくれる?」
駅での別れ際、奈未が不安そうな声で訊ねてくる。
「あたりまえだろ。またな」
俺が笑って手を振ると、奈未もほっとしたように笑って手を振った。