梅雨明けが感じられる、晴天が続く。今日も智紀は部活へ顔を出そうとしていたが、その直前に“彼”から呼び出しが掛かった。
「何かお前と話すの久しぶりだな、七瀬」
人気のない階段の踊り場で、智紀は笑顔を浮かべる。教室でもすれ違うことが多かったせいか、二人きりになるのは本当に久しぶりだと思う。相も変わらず仏頂面の少年、七瀬と相対するのは。
「話があるんだろ。何?」
「あぁ、めんどくさいから単刀直入に言う」
彼はそう言いつつもなにかを躊躇っていたが、咳ばらいして告げた。
「お前、サッカー部辞めろ」
「はぁ!? 何で!」
唐突だし、普通に耳を疑う言葉だった。
今一番頑張ってんのに、辞めろとか……!
「今日中に退部届け出せ」
「待て待て、何で! 理由を言えよ!」
「俺が辞めろっつってんだから四の五の言わず従え」
何だそりゃ。
彼の問答無用さは、さすがにカチンときた。
「やだね。お前に従う筋合いはないし」
「あぁ? 何様のつもり……てっ!」
怒る七瀬を、強引に壁に押し付けた。
「だからこっちのセリフ。部活入れって言ったり辞めろって言ったり……勝手過ぎね?」
「知るか。そう思うのはアンタの勝手だろ」
答えにならない答えを吐いて、彼は抵抗する。
「俺は俺なりに考えて言ってんだよ。アンタみたく考えなしの馬鹿には難しいかもしれないけど」
「この……っ!」
本当に、人を怒らせる才能はずば抜けてると思う。
故意じゃないとしても、許せるレベルじゃなくなってきてるけど。
「前から気付いてはいたけどさ……お前、そうやって自分勝手に振る舞ってるから独りなんじゃないのかよ!?」
「だったら何だよ!」
何かだんだん話とズレた取っ組み合いに変わってきてる。それでも今は無我夢中で、考える余裕はない。
今さら引っ込みもつかず焦ってきていた。すると七瀬は苦しげに顔を歪め、悲痛な声で叫んだ。
「…………俺が自分勝手になったのは独りになってからだ! だから良いんだよ!」
「いてっ!」
かなり強い力で押し返され、驚いた智紀は彼から手を離してしまった。
「おい、七瀬!」
止めようとしたけど相当ぶちギレてるらしく、返事もせずに彼は階段を降りて行った。アレは生徒会じゃない、ただのヤンキーだ。
「何なんだよ……っ!」
思い通りにいかないと怒る駄々っ子みたいだ。
あと、“独りになってから”……ってどういう意味だったんだろう。