「はぁ~……今日も疲れた……っ」
脚が痛くて、倒れるようにベンチにもたれる。部活の放課後練習が終わった智紀は、帰る前に校庭端のベンチで休憩していた。しんどい時もあるけど、今は毎日がすごく楽しい。
けど、何か忘れてる気がした。何かが心に引っ掛かる。
別に悪いことじゃないと思うんだけど、自分だけ楽しんでるかのような変な気持ちが胸の中に渦巻いていた。
何だろう……。

「須賀! おつかれ!」
「あ。おつかれ、不田澤」

ボーッとしていた。部長の不田澤に声を掛けられ、現実に引き戻される。
「部活、だいぶ慣れてきたんじゃない? 練習も問題なくこなせてるし」
「いや、まだ全然だよ。もう少し練習しないと」
少し離れていただけで体力も技術も落ちるものだ。だから正直にそう言ったが、
「なら、俺いつでも付き合うからさ。遠慮しないで言ってよ」
かなり強い感じで言われた。
さすが部長、気合い入ってるなぁ。
その熱意とエネルギーに感心してると、突然違う話題に変わった。
「ところで、須賀は彼女とかいるの?」
「い、いないよ」
「好きな人は?」
「……それも、いないけど」
何だ急に。脈絡もなく恋話か。不思議に思った直後、告げられた言葉。

「男同士ってどう思う?」

動きが止まる。久しぶりに流れる嫌な汗は、ほとんど冷や汗に近い。背筋が凍った。
「男同士……って。え、す、好きになったら、みたいな話?」
「そうそう」
ひえ。ここにきて、まさかそんな話をされるなんて。
「俺は……ちょっと分かんないッスね……」
混乱のあまり、なぜか敬語に。びっくりしたけど……ここは、なるべく当たり障りのない回答を出しとこう。
「悪口は言うつもりないけど。前に言ってる奴いて、怒っちゃったことあるし」
そう言うと、不田澤はニッコリ笑った。
「そうなんだ! ありがとな、教えてくれて」
「……っ!」
背中を叩かれた後、その手が少し下まで降りてきたのが若干不快だった。

「じゃあ、また明日」
「あ、あぁ。おつかれ様……」

帰っていく彼の後ろ姿を見送り、ホッとする傍ら妙な焦燥感を覚えた。
変な感じだ。

……俺自身も。