乗り物捜し物

「乗り物」
えっと、この言葉を聞いてみんなは何を思い浮かべますか。
どうも、馬坂 力です。
何を思い浮かべましたか?うん、車、電車、ストローキング?…それは空圧飛行箒か。
馬車…は一時間目の歴史でやったやつ。地下ローラーライン…ってなんだっけ?…ちょっとまって、あ、あれだ!ってそれ、七年前に使われなくなったやつだ、何で知ってるの?ああ、お父さんが。
いや、体重計は…!一応乗り物か。
じゃあ、今、この教室に乗り物はいくつあるでしょう。
そう、おれを除いた、このクラスの人数分、二十九台あります。みんな乗り物をに座ってます。まだおれだけ十歳になってないから、椅子のままだけど…。あれ、そっか、先生のをいれると三十台です。
みんなも知っての通り、おれら小学生も一人一台自分の乗り物を持っています。実はこの、十歳から一人一台の乗り物って昔は法律として決められてなかったらしいです。昔は今より乗り物が発達してなくて、移動手段が歩きと車と飛び釣り線と電車と反電船と飛行機ぐらいしかなかったらしいです。今は世界で約二千五百万種類の乗り物があるんです。なのでおれらは昔よりも自分にあった乗り物を見つけやすくなっています。
えっと…おれの番終わりです。それで、あ、いや、これで四班の発表は終わりです。ありがとうございました。

パチパチパチパチ!
「はい、ありがとうございました。では次の五班さん発表をお願いします」
席に戻って隣の席の子に言われた。
「ちからはやっぱ乗り物博士だな。」

当時、おれは、齢九歳。あと何日かで十歳の誕生日だった。十歳の誕生日プレゼントは乗り物って世界共通で決まっている。どの家庭も。乗り物ももらい、ゲームももらっているお金持ちの家庭の子もいるけど、残念ながらおれの家はそうじゃなかった。
おれはこの時、乗り物博士と言われてうれしかった。
乗り物に興味が出たのは九歳になる誕生日。誕生日プレゼントの焼きそばパンダぬいぐるみを落としてしまって泣いているとき、ぼろい水車自転車で探し回ってくれた眼鏡をかけた乗り物博士の男の人がカッコよくみえた。乗り物博士検定一級の証明缶バッチが白衣にきらめいていたのを覚えている。「捜し物」とでかでかと書かれた缶バッチもその隣についていた。
とにかくその人がカッコよくて乗り物の勉強をし始めた。あの人のつけていた一級缶バッチを目指して。
そのおかげかクラスで乗り物博士というあだ名がついた。とてもうれしかった。
勉強をしていくうちに乗り物が好きになっていった。知れば知るほど奥が深い。何度見ても乗り物たちはかっこいい。おれはその大好きな乗り物たちに乗ってみたかった。乗ってカッコよく走ってみたかった。だからおれは十歳の誕生日を楽しみにしてたんだ!
ただ、おれは…十歳の誕生日、乗り物ではなくゲームをもらった。
おれが前から欲しいと語っていた「水車自転車 ウォーターサイクル社の手動水走式モデルc旧型」ではなくなぜ、「あんパンダⅡ」というゲームにしたのか。
それは…おれが試乗をした際、吐いたからだ。
なんとおれは圧倒的乗り物酔い体質だったのだ。
その晩おれはひどく泣いた。仕方がなかった。乗り物酔いが夜まで続いたことが別に泣いた原因ではなかった。
 今じゃ乗り物差別という言葉があるくらいどんな乗り物に乗っているかは自分自身を表す指標となっている。身長や年齢と同じようなものだ。おれが「徒歩」というたび相手はなにか言いたげな何とも言えない表情になる。それは仕方ない。
その事実を知ってかれこれ六年。今はもう慣れた。…だから大丈夫なはずなんだ!

入学式!
そう、今は高校一年生春!乗り物に乗れない乗り物博士を目指して入学したこの私立 裏山C高校、入学式当日!緊張するけど大丈夫!空は快晴!少しの薄い雲と青空と舞う桜。とっても入学式な色たちだ。
だんだんと乗り物に乗ってやってきた生徒たちがちらほら見える。
「ここが…裏山C校…!」
見上げるような白い大きい柱が二本。その柱の上にまたがるように立ててある堂々とした「裏山C」の文字。綺麗に装飾されたその門をくぐる。
「わ…あ…」
 湖、花畑、森に、大きな木。そして辺り一面に広がる緑の芝生。広い!
その真ん中にそびえたつ、まるで異国の土地にたっているかのような大きな建物。数多の幾何学模様が細かく描かれているカラフルな壁に、屋根はクーポルと呼ばれる生クリームを絞ったかのようなツンと先端が立っている玉ねぎ型で、建物の上にたくさん取り付けられている。ど真ん中の一番大きなクーポルはいろんな色のステンドグラスでできていてとても豪華だ。
これが裏山C校の校舎…。その迫力に圧倒されてしまう。
そして何よりも感動するのは建物から出ているたくさんの交通網だ!電車の線路がはしご状のままたくさん出ているし、モノレール、飛び釣り線、ウェーブスター、扇風飛行機、ケーブルロケット、引っ張り小判にあの超高額の、ガラス管カプセル配送 人間用まで!様々な種類の乗り物の「道」が校舎のいたるところから空に、湖の中に、地面の中に、学校の外に、のびている。
おれの横をギュウンと黄色くて細長い何かが通り抜けていった。
「バナナバイクだ!しかもフルイエロー!珍しい!」
 地上では、バナナバイクは走り抜け、大玉風船~転~は転がり、1.5輪車に乗った生徒と、自動走行蛇蛇に乗った生徒は競争をして、クイックベイは回りながら、みんなそれぞれが校舎を目指す。
校舎につながる川には水車自転車タイプⅮが車輪をぐるぐる回していたり、シラス7号、トビウオライダーがすいすいと泳いで跳ねたり、ジェットバカンサー新型ココナッツが優雅に浮かんでいる。
空には、ガラスの土管の中ですごいスピードで登っていく、生徒が乗ったカプセル。飛び釣り線の張り巡らされた大きなケーブルをつたって進む吊革に捕まった、慣性で後ろになびく生徒。線路の梯子に空SL。煙の道しるべに、小さな飛行機ねじれスカイ。大きな音と炎をあげてゆらゆらと空を泳ぐ、反電ロケット千鳥足。他にもたくさん!実に様々な乗り物たちがカラフルな校舎に向かって進んでいる。
乗り物マニアとしてはもうワクワクしっぱなし!なんて素晴らしいところなんだここは!
校舎の中に入るとこれまた豪華。最初に通されたのは大広間。魔法陣のような幾何学模様が床に大きく描かれている。壁の何語やらわからない文字で作られたたくさんの動物の絵が天井のクーポルの丸みのあるステンドガラスを通った日光を反射してきらきらと動き出す。白に黒の線が描かれた床だが天井を通った光が当たり、ステンドガラスの色に染まっている。この空間には、オレンジの温かみと清い空気が流れている。なぜか心が落ち着く神聖な場所だなぁ…。
そして、その大広間のど真ん中に、ガラスで囲まれた全てが黄金に輝くバイクがある。このバイクが超すごい。バイク設計の神と呼ばれた、二輪 造先生の世紀の大傑作。なんでもこのバイク、車や水上スキー、ジェット機や戦車など八種類もの変形が可能!その名をマジカルチェンジバイク!世界に数台しかないと言われ、その価値数億円。運転するのもとっても難しく、乗り物検定一級の人がようやく扱えるぐらい。今、おれはその勉強を必死にやっている。
入学式は第二体育館でやるらしい。もう少しのマジカルチェンジバイクを見たかったけど…仕方ない。行くか。
友達たくさん出来るといいなぁ…。優しい友達が出来てほしい。
この学校での新生活が楽しみだ!





「部活動体験期間は一週間!その間に部活を決めておきましょう。まあでもうちの学校はそんなのなくても決まってるか、だいたい」
 って担任が言っていたけど、おれはまだ決まっていない。
あと三日で入学式から二週間。学校生活にもだいぶ慣れてきた。
「じゃーねー」
「また明日―」
そういって新しい友達に手を振る。
「小学校、中学校に続き、クラスのみんな優しそうでよかった。乗り物差別がないって素晴らしい学校だな…」
 放課後、芝生の帰り道につぶやく。とっても長い帰り道。ただでさえ家と学校が遠いのに校舎から校門までが長い。
学校内で一番大きくて高い木の影が自分の影を覆い太陽から身を隠す。影の中にいると涼しい。
だが、木の影の中で涼んでいる人は見当たらない。いつもなら木の周りには誰かいるのに。   
あ!そっか。今日から部活動体験期間だからか。
ここらへんで部活動はしている部はないのかな…?
それにしても何の部活に入るかとても迷う。
「うーん…」
と悩みながら歩いていると、木の影の中にポップコーンが何個か散らばっているのを見つけた。
「?」
見ていると時々、木の上から何個かまばらに落っこちてくる。何だろうと思い上を見上げた。すると急にあめのようにたくさんポップコーンが降ってきた。
「わ!なんだこれ?」
シュタ!
「見ての通り、ポップコーンだよ。塩味。あと…助けて!」
と後ろの木の幹の方から不思議なかわいい声がした。振り返ってみると、何かから逃げるように女の子がおれのほうに走ってくる。あれ?さっきまで誰もいなかったのに。
大きなねじり鉢巻きを頭に巻いていて、灰色に白の水玉模様の甚平を着た、ショートカットの女の子。からのポップコーン入れを持っている。
そして、乗り物に乗っていない…?
「はちみつ!」
「?」
意味の分からない言葉を叫んでこっちにくる。
女の子はおれの後ろに回り込んでしゃがんだ。
「はちみつもらいます」
そう言っておれの多機能ポケットから乗り物用の油さしを取って、ふたを開けた。
「それ…はちみつじゃないよ」
「…ほんとだ。でもいいや。見た目、はちみつっぽいし…いけるっしょ!」
そういって油さしを遠くにぶん投げた。遠くで飛び散る油。その油の中をかいくぐり迫ってくる蜂。え…?
「…蜂⁈」
「うむ…しっぱい!にげる!」
女の子が走り出す。おれも一緒に逃げる。
「あー蜂って怖い。ってあれ、君…そっか!やった!どうも!私はコードネーム ハルカゼ。夏でもハルカゼ。秋でもハルカゼ。冬の終わりだけハルイチバンになるの。よろしく。その、君は…コードネーム…何?」
走りながら女の子が握手の手を出してくる。
「まって!ツッコミどころ満載だけどまずあの蜂どうにかしよう!って、はぁはぁ…走るのはやい!」
しゃべりながらこのスピードってすごいな。
「わかった。君が助けてくれるんだね!」
「いや…はぁはぁ…そんなこと言ってな…」
「うーん、じゃあ私が助けるよ」
そういってカクンと急に曲がる。
「こっち!ついてきて」
…噴水のほう?
「そのまま噴水の真ん中つっこんで!」
「え?」
その子はすごいスピードで噴水の水が出てる柱に飛び乗り、逆さになってセミみたいにへばりついた。そして、柱の横にある蓋をカポッとはずしポイとすてる。いじってはいけなさそうなボタンがたくさん並んだ何かの基盤が見える。
「噴水の中入って!」
「え、あ、うん」
バシャ!冷た!
「落ちるけど、この水飲んでもいいやつだよ。おいしくはないけどね」
と言ってボタンを押す。
「え、どういうこと?」
ガ、ガコン 
水の中にあるおれの真下のマンホールがパカッと開く。
「?」
シュン!と一瞬で景色が暗くなる。
「うわああああああ‼」
落ちた!
これはウォータースライダー…?
「ひゅう!ふうううう!」
と、後ろからあの子が飛び込んでくる。
ガガガコン!
光が見えなくなった。あのマンホールがしまったのか。このウォータースライダー、そんなにスピードは出ないやつみたい。よかっ…
「わあああああ!」
急降下!思わず鞄をギュッと握る。髪の毛が風で後ろになびく。なんだこれ、ほぼ自由落下…
「わああ…うええ…」
その勢いですごい速さのまま右に左に振り回される。やばい、酔う。早くて暗くてくらくら。
 光だ!出口が見えた!
スポン!
「ぁぁぁぁ…わあああああああ!」
 ウォータースライダーの中で反響した、くもった、おれの悲鳴が外に出て、とても大きく聞こえる。
下には水。
バシャアアン!と大きな音をたてておれの体が勢いよく水の中に飛び込んだ。
「おえええ…気持ち悪い…」
そして、おれとは違う楽しんだ悲鳴がおれが今飛び出た穴から聞こえてきた。
「ふううううう!最高っっっっ!」
バシャアアン!後からあの子が飛び込んでくる。水面に上がって顔の水をぬぐうと
「あっはっはー楽しいいー!」
と言って楽しそうに両手をふって水をバチャバチャする。
「蜂もさすがにここまでは追いかけてこない。さっすが私」
「あの…ここは?…プール?」
「ここは、飛びこみ用のプール。今日は飛びこみ部オフだね。よかった。早くずらかろう」



「それで、役職は何がいい?今なら副部長が空いてるよ」
「…ごめん、最初から説明してほしい」
おれは服も鞄もびしょびしょのまま、あの子に案内されて、このこじんまりした部屋に来た。びしょ濡れの二人が歩いてる姿を廊下ですれ違った人はチラチラ見てきたが先生に見られなかっただけよかった。廊下に水が滴っていたけれど、それは校舎の中に千七百台いる巡回掃除ロボットMARIMOが拭いてくれた。
おれは服も乾かせる超強力ドライヤー モーニングスーパードライを貸してもらい、乾かしながら質問する。
「おれは一年十一組 馬坂力。ちからって呼んで。それで…あなたは…?」
 女の子も自分のモーニングスーパードライヤーで乾かしながら答える。
「ちから!ちからね。私は八車 輪。やぐるまりん。つなげて読むと、はちしゃりん。でもコードネームは車輪じゃなくてハルカゼ。車輪ちゃんはあだ名だね」
車輪ちゃん…珍しいあだ名。
おれは身長が小さい方だけど八車さんはおれとおんなじくらいかそれ以上に小さい。だから久しぶりに同じ高さの目線でしゃべれる。
「八車さん…何て呼べばいい?」
「リン部長」
「いや、まだこの部活に入るって決めたわけじゃない…。というか、ここは何の部室?何部?」
部室を見渡しても何の部活だか見当がつかない。大きなホワイトボードに「依頼一 梅のストラップ 依頼二 富士山ペンケース 依頼三 とほのこ」と書いてある。壁には東京や大阪の三角ペナントがたくさん飾られていて、金魚鉢にはドバイの三角ペナントが貼られている。トロフィーが雑に床に転がっていて、その横にトランポリンがあり、かなりのスペースを取っている。
「ここはジャングラン部だよ!」
車輪ちゃんが笑顔をキラキラさせながら言う。
「ジャングラン?」
「ジャングルジムを突っ走る競技。あと一人入ってくれればいいの…お願い入部して!」
知らない競技だ…
「待てい!違う!ここは捜し物部だっ!そして金魚を部員に数えるなっ!」
とびらをピシャ!と開けて男の人が入ってきた。
「あ、川山」
「おい八車!呼び捨てにするな!川山先輩と呼べ!」
そう言って丁寧に扉を閉める。
大柄で日に焼けた顔に眼鏡をかけた目つきが鋭い人。赤色のピンバッチを制服につけているので二年生だろう。
背中に大きな浮き輪みたいなものがくっついている。ってことは!
「サイクロンドーナツだ!かっこいい!黒のストライプは…ミセストーナッズコーポレーションのやつ!触ってもいいですか?」
「おお、この子が新入部員か。いいけども」
「おおおお!フルメタルタイプ。かっこいいけど、ポンデリングタイプの方が軽量化されてそうだな。ここの浮かぶ構造はウェーブスターの水上スキーモデルと似ている…。わ、こんなところに緊急用リフトパラシュート!海原サイダー社とは違う所に収納しているのか。…は!…すみません。えっと馬坂力です」
「また大変そうなのが…おれは二年三組の川山 大地。生徒会 部活動取締役 副役員だ」
「副役員?副会長じゃなくて?」
「一年生で立候補して副会長になれなかったかわいそうな人よ」
「ごっほん!えーそれで、部員三人は。あと一人足りないぞ八車」
川山先輩が大きな咳をする。
車輪ちゃんが無言のしかめっ面で金魚を指さす。
「だめだ!」
「あの、先輩。捜し物部ってどういうことですか」
「ああ、この部は正式には捜し物部といって、卒業してしまった先輩が立ち上げたものなんだ」
「私の兄ちゃんね」
と、写真を指さす。そこには見たことのある顔。…誰だっけ?
「捜し物部はその名の通り、依頼された捜し物を探す部活だな。うちの学校では珍しい非運動部だ。今は先輩が卒業して八車一人なんだが、八車が急にこの部室にジャングラン部の看板をたててしまって…部活動報告書に捜し物ではなくジャングランについてしか書かないから、おれが毎日注意する羽目に…」
「ごめんあそばせ」
「んだと!」
「今朝見た映画でこれ言えば絶対に許されるって言っていたのに…」
「なんの映画?」
「マカロニ探検隊 THE MOVIE」
「美味しそうな映画」
「はぁ…それでいて部員も足りない。会長があと一週間で廃部だって言ってたぞ」
「会長何円で買収できるかしら」
「堂々とした賄賂宣言。やめなよ、生徒会の人がいる前で」
「ま、部員は三人以上いればいいからあと一人だな。あとは、捜し物部の報告書だ」
「うーん、お金が四十円しかない。…バカウケで釣るか」
「釣れないと思うよ」
「話を聞け!」
ぽ~めらにあんがき~みをよんでいるうよ~♪
「すまない電話だ。もしもし?」
…なんの歌だろう。
「何?ピンクの鍵がなくなった?…いや、開かないならその鍵は違うだろ!それ何の鍵だよ。ピンクの鍵ってあれか、MARIMOの…?やばいな。もう、会長何やってくれたんだ…わかったすぐ行く」
「電話の着信音ってその人のセンスが問われるよね。今のは八車センステストだとマイナス7点ぐらい」
先輩が電話で話している間、車輪ちゃんがひそひそと話してきた。
「車輪ちゃんの着信音は?」
「笑点の主題歌」
「車輪ちゃんも大概じゃ…ってかあれ、主題歌っていうの?」
「おい!こそこそ何しゃべっているか聞こえているぞ!とりあえず今週中に捜し物五個以上の解決を報告書に書くこと。そしてもう一人新入部員を連れてくること!そしたら多分存続はするだろ。まあ入学してからずっと制服を着てこない生徒に言っても守らないと思うが」
「あ、やっぱり車輪ちゃんの甚平、校則違反なんだ。っておれ、まだこの部活入るなんて一言も…むぐっ」
車輪ちゃんがおれの口をふさぐ。
「受けてたとう!一週間なんて言わず五秒でクリアしたるわ!…言いすぎた。明日までにクリアしたるわ!」
車輪ちゃんがビシッと先輩を指さして言う。
「ああ、ああ。何でもいいから活動してくれ。捜し物部として。あ、そうだ。ついでに依頼だ。捜し物捜索中に見つけたらでいいが赤い鍵があったら連絡くれ。では行かないと。じゃ」
川山先輩はそうまくしたてて部室のとびらをピシャと開けて出て行った。閉めるときは相変わらず丁寧に閉めた。
車輪ちゃんがおれの口から手を放す。
「ぷはっ!ちょっと!まだ入るなんて言ってないよ」
「でも…他に入る部活あるの?」
「んん…」
この学校は裏山財団が三番目に設立した学校だ。裏山A高は学力が高く、日本トップの偏差値を誇る。裏山B高は乗り物の設計や乗り物を実際に作ったりする乗り物作成専門校。そしてこのC校はスポーツの学校だ。
この学校に来る生徒はほぼ全員が中学の時の何らかの成績があり半分以上が推薦入学。スポーツをするための設備がしっかりしているので、遠くの地域から通っている生徒もいるらしい。
そして、この学校の全ての運動部は全国に名を響かせる強豪校だ。当然、おれなんかが入れるような部活はほぼない。中学生の時はテニス部だったがC校の練習を見て、ああダメだとすぐわかった。運動部に入ったら淘汰される。だからと言って全員強制部活なので部活自体入らないわけにもいかない。仕方ない。
「わかった。リン部長」
「いや、車輪でいいよ。ハルカゼもかっこいいけど、ちからが車輪って言うの気に入ったの。今からコードネーム改名だ!ちなみにちからのコードネームは?」
「え、えっと、ち…から…」
「ちーから?うん!いいね。ちーから。チーズ唐揚げの略みたいでうまそう」
「確かにうまそうだけども…まあいいや。おれはコードネームちーからね。…探し物五つ、明日までって言ってたけど平気なの?」
「まあね。今日二つもそこに書いてあるものを見つけたから余裕だよ。ほら」
そう言ってホワイトボードを指さす。
「梅ストラップ。さっきの木の上で見つけたんだ。たまたまだけど。ジャングランの練習は木登りが最適じゃん?」
「知らないけど、そうなんだ」
「あとは、君」
ピッとおれが指をさされた。
「おれ?」
「入学式で一目惚れ」
「え、ええ?」
そんな急に言われても…えへへ照れるなぁ…
「あいや、一耳惚れか。入学式の新入生乗り物読み上げで最後らへんに『…ワッフルフル絨毯一人、ワンズグライダー一人、徒歩二人。以上395名』って言ってたから」
車輪ちゃんが校長先生のマネをして言う。一耳惚れって言葉あるのか?
「おお!私以外にも乗り物が嫌いで乗ってない人いるのか…!って感動したの。
ほら、ホワイトボードの『とほのこ』ってちからのことね。ちから、乗り物乗ってないでしょ。探してたの。私も徒歩だから」
そうか、別に一目惚れっておれのことカッコよくてとかじゃなく、徒歩だからってことね…。いや、一耳惚れか。照れちゃった自分が恥ずかしい。
「おれは乗り物が嫌いじゃない。むしろ大好きだ。だけどおれ、すごく乗り物酔いしやすいから、悔しいけど乗り物乗ってないだけなんだ」
「なんだ、そうだったの…なら、二耳惚れぐらいかな。とにかく君を探し出したから、梅ストラップを依頼人に返して、残り三つだね」
二耳惚れ…どんどん存在しない言葉になっていってる。おれを見つけたことは報告書に書いていいのかな?
ガラガラ
「こんにちは。八車さん。梅ストラップあった?」
扉が開いて、立っていたのは二人の女子。ツインテールの人は変幻スケートを履いていて、長い髪の人は何も乗っていない。校舎乗り入れ禁止の乗り物かな?二人とも青のピンバッチ。三年生だ。
「ちょうどその話を」
車輪ちゃんがツインテールの人に梅ストラップを渡す。
「よかったー!やっぱり木の上だった?友達のドラゴンカイトに乗ってるときに落としたから、ドラゴンカイトの空の道の下のどこかだなって探したけど、結局見つからなくて。あの木に登れるのは八車さんだけよ!ありがとう」
おお、かっこいいな車輪ちゃん。ああやって、人が困っているのを助けられるっていい部活だな。
「それで今日は友達が鍵をなくしたらしくて、連れてきたの」
「ええ。はじめまして。私は豊臣です。私、水車自転車の鍵をなくしてしまって…」
髪の長い人が答える。
「水車自転車!それは何の会社のですか?」
「うふふ、新入りの子?」
「ええ、まったく。とんだ乗り物野郎ですよ」
「ええ?車輪ちゃん?事実だけども」
「ええとたしか、ウォーターサイクル社のモデルAだったかしら」
「となると、鍵は桃色ですか」
「なくしたのに気づいたのは昨日の夜9時ぐらい。水泳部の練習が終わって帰ろうとしたとき。第五体育館の乗り物置き場で気づいたの。昨日は水泳部の友達が家まで送ってくれたけど…毎日そうするわけにもいかないわ」
「第五体育館ってさっきのびしょ濡れになったとこ?」
「うん」
車輪ちゃんは悪びれもなくこくりとうなずく。
「最後にその鍵を見たのはいつですか」
「えっと…昨日の朝の登校の時、いつもどおり川から上がって乗り物置き場に止めて…鍵をぬいて鞄にいれたわ」
「その時何か異変は?」
「うーん…特にはなかったはず。そのあと、教室にゴーグルを忘れていたので取りに行ったの。そしたら、大広間でMARIMOが掃除していたところでつまずいちゃって。その時に落としたのかもって今日の朝探したのだけどなくて…一応それ以外の朝通った道を探してみたものの見つからなかったわ」
そのあとも細かな日時や覚えていることを話してもらった。車輪ちゃんは途中で聞き飽きて、金魚の餌をやってたけど。
「明後日、大会があるの。もちろん見つからないことも覚悟しているけど、できればその日までに見つかってほしいわ。お願いできるかしら」
「任せてください!このジャングラン部総出で見つけます!」
急におれの頭の上に乗っかって車輪ちゃんが答える。
「捜し物部じゃない?」
「じゃあ、私たちは部活があるからこれで」
「お願いします」
ぺこりと頭を下げて部室から出ていく二人。
「願ったり叶ったりだね」
「さっさと見つけてやったろうじゃない」
バッと立ち上がる車輪ちゃん。けれどしばらく考えて、すぐにドアの前でうろうろする。
「…。まずは乗り物置き場に行ってみよ」
「うん。ちからナイスアイディア」
そうしてぼくらは部室をあとにした。


「そういえば、なんで蜂に追いかけられてたの?」
「それは…朝からずっと木の上でポップコーンを食べながら映画見ていたの」
「ポップコーン…本格的。授業は?」
「木の上から、ちらっと教室を見たから参加はしているんだけど…」
「それをサボりというんだよ」
「クライマックスのとこで興奮しちゃって、ワーワー騒いじゃって木の上でぴょんぴょこ走り回って応援してたらハチの巣に見事にヘディングしたの…ちからが持っていた油?あれ、はちみつに似てるから蜂が騙されて油の方行くかなーって思った。ほら、蜂ってはちみつ好きでしょ多分」
「…」
この人を放っておいたらまずい気がするな…。この部活に入ってよかったのかもしれない。
そんなこんなしゃべりながら自転車置き場に着いた。
「さて、まずはここらへんを捜そう」
「了解コードネームちーから。捜索開始!」



空が赤くなってきた。
「広い!自転車置き場だけでなんでこんなに広いの?」
「やっぱり捜してもないものはないよー!」
遠くから車輪ちゃんの声が聞こえる。
あれから三時間。捜し続けたが多分ここにはない。
「連絡!こちら車輪。コードネームちーから今すぐ来て!どうぞ」
そんな遠くから大きな声で言ったらじゃないけどね。
「わかったすぐ行く。どうぞ」
おれが向かうと一人の身長の高い女の人がいた。車輪ちゃんと並んでいるからか、すごく大きな印象だ。制服をビシッと綺麗に着ている。車輪ちゃんと並んでいるから綺麗に着ていると思うだけかな?赤のピンバッチは二年生だ。
「こんにちは。私は…………生徒会長だ!」
すごいためたな。って…
「え!生徒会長⁉」
たしかに見たことのある整った顔だ。とは思ったが、まさか!あの…。入学式ではすごい厳しそうに生徒たちを睨み、規則に忠実!絶対的権力!高根の花の美しき女性!とおれの友達を浮つかせたあの生徒会長!
たしかに生徒会長の貫禄はあるな…。
「捜し物部に一人増えたのか。私は生徒の代表であり最高責任者、生徒会長の車だ。よろしく」
言葉一つ一つがピシッとしていて切れがあり重たい。
「あ、はい。馬坂力です」
おれは車会長に頭を下げる。
「ご無沙汰です。花子ちゃん会長」
と車輪ちゃんが頭を下げる。
「え、知り合い?」
「二時間目映画仲間の花子ちゃん会長」
すると、会長が急に取り乱し始めた。
「うわ!待て!誰にも言うなって言ったろ。いや、まて、それは…違う。わたしは生徒会長だから授業をサボるなんてしないのだ!別に!絶対に!」
え…!車生徒会長って、こんな…取り乱したり、人間味あるのか。そうか…車生徒会長も授業サボったりするんだ…意外。
「いや、別に責めていませんよ…えっと…何用ですか?」
「うゔん!ちょうど帰るところだったが少し…その…依頼があってな。たまたま君らを見つけたから…うーん」
と言いながらきょろきょろと周りを見る。
だんだん暗くなってきたので自主練が終わった、部活がない人が帰り始める時間帯だ。だんだんと乗り物置き場に人が集まってきた。
「ここじゃなんだから生徒会室で話そう。ついてこい」
そう言ってくるりと後ろに向き、何もないところでつまずく。しかし、何も言わずまたスクッと立ち、歩き始めた。おれらもついていく。
「何の映画見るんですか?」
「映画は見ない!話があるんだ」






「さあ、依頼だ」
豪華な生徒会長の椅子に座り、車会長が言う。教室一つ分ぐらいある生徒会室。壁には達筆に書かれた『絶対規則』の文字が。
生徒会室の窓から見える景色はすっかり闇。もう夜か。
「探してほしいのは他でもない。鍵だ」
「ちから、また鍵だ」
「また鍵だね」
車輪ちゃんがささやいてくる。
「さっき乗り物置き場で私の無人リムジングレートグレーの鍵をなくしたことに気が付いたんだ。赤色の鍵だ。そしてこれが重要なんだが…私は…そう。周りには隠しているが…その…けっこうドジなんだ!」
「ええ⁉そうだったの⁉ちから気づいてた?」
「ん…まあ、さっき初めて会った時に片鱗は見えてた」
「だからよく鍵を落としてしまうんだ!だから、いつもは…MARIMO!」
「オヨビデショウカ」
という音声を流して現れたこのMARIMOと呼ばれるロボット。校舎内に1700台存在する。大きさは50cmから100cmまで様々。円柱型にエプロンを着ていて、伸び縮みするロボットアームが二本腕のように生えている。基本的に昼は掃除、夜は警備をしている。と入学式の時に説明された。
「いつもは、MARIMOに探してもらうんだ。これは生徒会室用限定カラーリングだが、赤色ではない校舎内の1699台の青色MARIMOが赤い鍵を見つけるとエプロンのポケットに入れて、生徒会室のこの机に持ってきてくれる。そうするようにプログラムしたんだ」
「プログラム?」
「ああ。私はMARIMOコントロール室の鍵を会長権限で持っている。それで、コントロール室の大きなパソコンの箱に私のパソコンをつなげていじれるんだ」
職権乱用じゃ…
「だから、赤い鍵の方はMARIMOが見つけてくれるから平気だ。しかーし!どうやら私はコントロール室の鍵もなくしたらしい。そのため、今、バグなど何かが起きて、コントロール室に入らなくてはならないといった状況になったら…入れない」
「えええええ⁉や、やばいじゃん!」
「このコントロール室の鍵を君たちに捜してほしい。すでに生徒会のメンバーが捜しているが見つかっていない。このようになった経緯はこうだ。まず、昨日、ピンク色の鍵、あーコントロール室の鍵はピンクなんだが、を机から取り、コントロール室に行く。ドアが開かない。違う鍵だ!とこういう経緯だ」
「経緯短っ!もう少し詳しくお願いします」
「うむ。私は昨日の放課後すぐに、体育祭用のMARIMO乗り物パレードプログラムの最終確認を行うため、コントロール室に行こうとした」
「パレード?」
「MARIMOが様々な乗り物に乗ってパレードするんだ。普段MARIMOは乗り物になんて乗らないからな。プログラムする必要があるのさ」
「なるほど。ロボットも乗り物に乗れるのか」
「そのときは…たしか『MARIMO、引き出しからコントロール室の鍵とって。ん?なんだ、もう机の上に出てるじゃないか』とか言って机の上のピンクの鍵を取り、コントロール室に行ったんだが、なぜかその鍵でドアが開かなかった」
MARIMOを執事のように使ってるなこの会長。
「副会長に確認したところ、その鍵はどうも偽物だったらしい。引き出しを開けてみてみても本物の鍵は見つからなかった。その後、生徒会室の中を全て捜してみたがピンクの鍵はどこにもなかった」
「その偽物の鍵はどうしたんですか?」
おれはもしかしたらその鍵が豊臣さんの水車自転車の鍵ではないかと疑った。どういう経緯で生徒会室にあったのか知らないが、ピンクの鍵なのだから。
「今、青MARIMOが何の鍵だか鑑定中だ。第三実験室にいる」
「最後に本物のコントロール室の鍵を見たのは?」
「最後にピンクの鍵を見たのは一週間前ぐらいだ。あまり覚えてないが」
「…うーん」
「質問は以上か?」
「はい」
「ではそういうことでお願いするぞ」
ゴーンゴーン
下校時刻のチャイムだ。部活をしている人以外は帰らなければならない。
「さて、これにて帰ろう。また何かあったら来てくれ」




次の日。昼休み。
「うーん…」
今までの話に出てきた鍵を順に考えよう。ピンクの鍵が今までで三つ出てきている。豊臣さんの鍵。コントロール室の鍵。偽コントロール室の鍵。そして捜さなくていいよとは言っていたが赤の無人リムジンの鍵…。そして落ちている赤の鍵を拾い生徒会室に持っていく青MARIMO。会長の言うことを聞く赤MARIMO…うーんもう少しで何かつながりそうなんだよなぁ。あとで第三実験室に行って偽コントロール室の鍵見てみるか…。
下のフロアからワーワーと叫んでる声が聞こえる。少し静かにしてほしいなぁ…。
「どうした、なに悩んでんだ?」
友達の島津が話しかけてくる。
「え、ああ、ちょっと捜し物部で…」
「え!捜し物部ってあの⁉一組の八車のいる部活か?」
「知ってるの?」
「知ってるも何も、おれは入学式で一目見たときから虜になったね。あれは超がつく美少女だ」
「いや島津、入学式の時は車会長に一目ぼれしたって言ってたけど…」
「いやあ、まあどっちにも一目ぼれしたんだよ。で、八車ってやつ噂の通りやばいやつなのか?」
「うーんまぁ確かに少し変ではあるけど…全然やばくはないと思うよ」
「ちからー!来て!」
「お、噂をすれば、八車だ。うわーやっぱかわいいぜ。いいなー」
「いや、絶対によくはない。行ってくる」
おれは席を立ち、車輪ちゃんのところへ行く。
「昨日、生徒会室で見た『絶対規則』のやつ。かっこいいから作ってみた!」
車輪ちゃんが持っていたのはところどころ、ぐにゃっと文字が曲がった『がんばろう』の文字。
「部室に飾ろう。あ、あとちなみに生徒会長が呼んでたよ。早く来いって。バグが起きて下のフロアからどんどんMARIMOが暴れ出してるって」
「えええ⁉」
バーン!ガラガラガジャン‼
床を突き破ってカニかませ号ハサミンがよじ登ってきた。もちろん乗っているのはMARIMO。
「うわあああ!」
大きさは車二台分くらい。これは…やばい!みんな大パニック。
だから下の階が騒がしかったのか。
ががが!バゴーン!ズドン‼
かにかませ号以外にもいろいろな乗り物が、窓から、階段から、壁から襲い掛かってきた。
「わああああ!逃げろー!」
このフロアのほぼ全員が逃げ惑う。しかし、中には自分の乗り物を操作して戦う勇敢な奴もいた。
ビリビリ!
車輪ちゃんのもっていた『がんばろう』がカニかませ号に引きさかれる。
「うわ!」
「ちょっ…早く逃げよ!」
おれは車輪ちゃんの手を引き、混乱の中走る。
でもすぐに車輪ちゃんがおれの手を引くようになった。やっぱり足速い!
乗り物が暴れまわる中でするりするりとぎりぎりでかわしながら突っ走る。
ガコン!
時々、飛んでくるがれきが頭をかすめる。
「うわああ!」
「はやくしないと置いてっちゃうよー」
「待って…はぁはぁ…」
ようやくのことで生徒会室についた。
「はぁはぁ…やっとついた」
「あれ、おまえら」
「あ、川山」
「だから、呼び捨てにするな!何でここにいるんだ?」
「私が呼んだのだ。入れ」
「そうでしたか、車生徒会長!」
生徒会室に入る。十数人知らない顔ぶれがそろっていた。
ここはまだ被害を受けていないようだ。
「生徒会のメンバー全員集合だな。あと捜し物部も。鍵を見つけた人は?」
全員沈黙。
「…やばいな。このままでは怪我人が出てしまう」
「はい!」
元気よく手を挙げたのは車輪ちゃん。
「お!みつけたのか?」
「いえ、私は、ステンドグラスを通った光が当たると当たったものがステンドグラス色になるよねってことを言いたかったんです」
「は?何を言ってるんだ?」
「そして会長はまだ命令の途中だったんですよ」
「??だから何を言いたいんだ?」
「おい!八車!今、緊迫した状況なんだぞ!ふざけてる場合じゃない!」
川山先輩が激昂する。
「だから…今、コントロール室の鍵は、赤MARIMOのポケットの中だ!」
そして車輪ちゃんはビシッ‼とカメラ目線で指をさす。
「…なぜそんなことがわかるんだ?」
会長は首をひねる。
…いや、待てよ。おれの思考にひっかかっていた何かが…ステンドグラス…会長の命令…?
「そうか‼わかった!おれ、車輪ちゃんの言ってる事わかりました!」
「ほう、説明してみよ」
「えっと、さて…おれらは豊臣さんのピンクの鍵を捜していたんです。豊臣さんは大広間で鍵をなくした気がする。とかなんとか言ってたんですが、捜してもなかったのです。では落としたのは違うとこかと他を捜してみてもどこにも見当たらない。しかし、大広間にピンクの鍵を落としたのは間違いなかったのです。では、なぜ大広間から消えてしまったのか。それは青MARIMOが生徒会室に持って行ってしまったからなんです…!」
「いや、それはおかしい。青MARIMOは私の無人リムジンの鍵、つまり赤色の鍵しか持ってこないはずだ」
「ええ。そうなんですよ。しかしピンクが赤に変わってしまったら…?ちょうど朝焼けのタイミング。オレンジの光が天井の赤いステンドグラスを通りピンクの鍵へ当たる。すると、ピンクが赤に見えてしまう…青MARIMOは赤色に輝く豊臣さんの鍵を生徒会室に持って行ってしまったんです。って、こういうことを言いたいんだよね?車輪ちゃん」
「まぁ、だいたいそう」
「生徒会室でピンクの鍵を机に置き、青MARIMOは去っていった。そして会長がやってくる。その後、会長はコントロール室に行こうとして、赤MARIMOに命令します。『MARIMO、引き出しからコントロール室の鍵とって。あれ、机の上にあるじゃん』そう言ってコントロール室に行きます。しかし会長が持っているのは豊臣さんの鍵。同じピンク色なので間違えるのはおかしくありません。なのでコントロール室のドアが開かなかった。一方、命令された赤MARIMOは引き出しから本物のコントロール室の鍵を取り出し、エプロンのポケットに入れます。会長の命令を忠実に守って」
「おお~!」
「つまり今、コントロール室の鍵は赤MARIMOのエプロンの中!ってことでしょ、車輪ちゃん」
「うん!そゆこと!ナイスちから!」
「…で、今、赤MARIMOはどこにいるんだ?」
車会長がポツリとつぶやく。
長い沈黙。
川山がスマホを取り出し、画面を見せる。
「今、ほぼ全校生徒の乗り物がMARIMOに奪われている。しかし、この学校はみな屈強な運動部の生徒ばかりだ。まだ怪我人は出ていないらしい。乗り物に乗っているのはこの部屋にいるやつらだけだ。会長と捜し物部以外。一刻も早くコントロール室に入り緊急停止レバーを下げなければならない。おれらができることは暴走している赤MARIMOを捜し、暴走している青MARIMOをくぐり抜け、赤MARIMOのエプロンから鍵を奪うことだ。ここに全てのMARIMOの位置がわかる地図アプリがある。とりあえず赤MARIMOのところに向かうぞ。運がいいことに赤MARIMOがいるのはとなりにコントロール室がある第五体育館だ。行くぞ」
「よし、私ら歩き組はコントロール室の前で待機しよう。鍵を奪ったらすぐ開けられるように準備をしておく」
「わかりました会長。お気をつけて」
「よしいくぞ!」
だぁーと川山たちがいなくなる。会長とおれらだけが残る。
「花子ちゃん会長?副会長は?」
「今日は休みだ。まったく。なぜこの緊急事態に金魚博物館に行くんだ…。そうだ!君ら二人、乗り物検定一級持ってるか?」
おれら二人とも首をぶんぶん横に振る。
「だよな…非常事態だからマジカルチェンジバイクを使おうと思ったが…使えないよな…」
「それなら、ちからが!勉強してるでしょ。準一級も持ってるし」
「え、なんで知ってるの?」
「鞄に缶バッチついてるし。マジカルチェンジバイクの本読んでたし」
「いやまあそうだけど…無理無理おれには。仮に乗ったとしても吐いちゃうもん。そして逮捕だもん」
「わかった。じゃあとりあえず突っ走っていくぞ」
車会長がクラウチングスタートの姿勢をとった。


コントロール室つくまで乗り物たちが暴れてて危なかったー…。車会長って短距離走の日本チャンピオンだったらしい…二人とも速い…
「はぁはぁ…」
隣の第五体育館ではゴン!ドガァァン・・・!と大きな音をたてて建物が揺れている。
「なに?けっこうやばそう?ちょっと待て!ああ!」
車会長がスマホを握りしめる。川山との電話が切れてしまったらしい。
「くっ…なかなかの非常事態だ。どうする…?やばいぞ…」
さすがに車会長も冷静ではなくなっていた。
「ちから、ほんとに乗れないの?」
「馬坂、この非常事態だ。逮捕はさすがにないだろう。お願いだ馬坂乗ってくれないか」
「…」
おれはうつむく。
一応おれはマジカルチェンジバイクに乗れる技術はあるけど…乗れるわけない。絶対に吐く。…絶対に乗らないぞ。
バゴォォン…!
また建物が揺れる。おれはブルっと身震いした。
怖い…そう。おれはただ怖いだけなんだ。逮捕も、吐くのも、乗り物に襲われるのも。それは自覚している。車輪ちゃんみたいに目を輝かせながら怖いものなしで突っ走りたい。だけど…怖いんだ…。マジカルチェンジバイクの好奇心よりも恐怖が勝ってしまうんだ…。
「ちから…大丈夫。怖いかもだけど、困ってる人を助けなかった後悔のほうが怖いよ。知ってるもん私。兄ちゃんに教わったもん。大丈夫、ちから。私にいい作戦があるよ」
ごにょごにょ…
「え?…でもそれって…車輪ちゃんがめっちゃ危ないんじゃ…」
「いいや、私はジャングラン世界チャンピオンだよ!大丈夫。じゃ、ちからも頑張ってね」
そういって第五体育館に走りだす車輪ちゃん。ねじり鉢巻きがひらりと風に舞う。もう追いつけないほど遠くに行ってしまった。
……むう…わかったよ!
「…のります!」
車会長に向かって叫ぶ。



大広間に行き、ガラスを車会長に開けてもらう。
「これが操縦席…かっこいい!」
乗ってみるとわかる。これはすごすぎる!
「よし、いいぞ。準備万端だ」
ふうう…大丈夫だおれ。吐いてもいい。吐いてもいいから。そう、大丈夫。行かないと車輪ちゃん一人が危険な目にあってしまう。
ふう…………………
……………………行こう。
「じゃあ…発進!」
BOOOON‼
一瞬にして大広間から外に飛び出た。すごい風圧…。
黄金のボディが失踪と駆け抜ける。は、速すぎる…。しっかりとハンドルを握る。
「うわあああ!」
大広間を出た瞬間いろんな乗り物に襲われる。グウンと曲がりギリギリで避けながら進む。
…えっと…ここをこうして…このレバーをこう!
ガチャン!ガチャン!ジャキキキ!ガシャン!
バイクの金色のパーツたちが変形していく。金色の羽が伸びてきて、前に突き出た突起からカチャッ!と金のプロペラが出て回り出す。飛行機モード!
よし、逃れた…あれ、空にも乗り物いるじゃん!なら、急降下!もう一回。このレバーだ!
ガガガコン!ガチャ!二つのプロペラが前に折れ曲がりつながってドリルのようになる。ギュイイイン!ドリルモード!地面を掘って目的地のところへ。
すごい!すごすぎる!この乗り物!酔うけども…
「おえええ…、やっとついた…」
やってきたのは噴水のところ。
おれは噴水の横の蓋を外しウォータースライダーの始まりのボタンを押す。
「よっし、やったるか」
ごごごガコン!
水の中にあるウォータースライダーの入り口が開いた。



第五体育館。川山たち。

まずいなこれは…まさか赤MARIMOが…
「ちから、吐いてないかな…?」
そう言いながらやってきた、あいつは…
「や、八車⁉なぜだ!」
八車は、乗り物が迫ってくるがジャンプして避ける。乗り物を跳び箱にしながら、そしてフルスピードで乗り物の車輪の間をスライディングしてすり抜けながら、プールへ到着。
「こりゃあ…やばいな」
プールに浮かぶ赤MARIMOの周りにいる百台もの青MARIMOを見渡して八車が言う。
おれたちは全滅。すみで自分の身を守っている。
「まて!八車!危ないぞ!やめておけ!」
「いいや川山見てな。ジャングランを」
八車はそういって俺の忠告を一切無視し、プールに浮かぶ乗り物たちの頭を踏んでわたっていく。いろいろな角度から攻撃されているのにも関わらず、避けながら一切スピードは落とさない。むしろどんどん速くなりながら赤MARIMOに向かい進んでいく。
「すごいな…でも‥だめだ!赤MARIMOの乗っている乗り物は警備用の乗り物、スーパータンク1500だぞ!」
すごくおおきな戦闘用の戦車が暴れ回っている。危険極まりない。
しかし、八車は走るのをやめない。そのまま乗り物たちの上を義経の八艘飛びのように飛びながら走る。スーパータンク1500が捕獲ミサイルを打ち始めたがそれさえも可憐によけながら進む。
ついに八車はスーパータンク1500の前の乗り物の上に立った。スーパータンク1500がビームを放つ。
ドオオーーーン!
八車の下にあった乗り物が爆破する。八車は大きくジャンプしてビームをかわした。そのままスーパータンク1500の操縦席へ…!
「とっ…どいた!」
八車の手が赤MARIMOのエプロンにのびる。
ドゥ!
「うわああ!」
ばっしゃああーーん!
八車がスーパータンク1500の大きなロボットアームにふっとばされる。水に八車の体が打ち付けられ、沈んでいってしまう。
「ぷはっ!」
しかし、すぐに水面に上がってきた。
「おお!生きてた!…逃げろ!八車!タンクが来てるぞ!」
「いたた…」
そう言ってお腹をおさえながら犬かきで逃げる八車。でもだめだ。のろい。すぐに追いつかれる。…やばい、またスーパータンク1500が…攻撃を…………
「ぅぅぅぅ…わああああああ!」
すると突然、天井から悲鳴が聞こえた。
「何だ⁉」
天井に穴が開き金色に輝いたバイクがすごいスピードで降ってきた。乗っているのは…馬坂だ!
ガチャン!ガガガコン!
金色のバイクが空中で金色の戦車になった!
「よっし!位置もぴったし。やっぱ戦車には戦車だよね」
八車が水に浮きながら、スーパータンク1500にウインクして言う。
ドガァァン‼
ふってきた金の戦車と八車を襲う戦車が衝突した。
煙が上がる。
「…」
煙の中から
「あった!ピンクの鍵!」
という声がした。
そこにはスーパータンク1500の凹んだ残骸に立った八車とぐったりしている馬坂がいた。パチンコを取り出し、鍵を車会長のいる方へ飛ばす。
しばらくすると、MARIMOが乗った乗り物たちが止まった。
「ふううう…止まった…」
八車が汗をぬぐった。



「もう一回書いてきたんだ」
車輪ちゃんがへにょへにょの『がんばろう』の文字を川山先輩に見せる。
あのあとの調査によると怪我人は車輪ちゃんだけみたい。そんなこんなで一件落着!
生徒会長は
「今回の功績を加味して、捜し物部は二人でも認めましょう。でも部活動報告書はしっかり書くこと」
と言ってくれた。
豊臣さんの鍵はやはり第三実験室にあった。
車輪ちゃんは「豊臣さんの鍵」、「コントロール室の鍵」、そして、「梅ストラップ」と、その後見つけた「富士山ペンケース」(川山先輩のもの。普通に道に落ちていた)そして、「おれ」を見つけたことを書いた報告書を川山先輩に渡した。
マジカルチェンジバイクは傷一つなく、元のガラスケースに戻された。
まぁ、あのあとおれが酔ってリバースしたのは車輪ちゃんと生徒会の皆さんだけの秘密で…。
あれから一週間。いろいろと乗り物に壊されたところが復興してきたところ。
しかし、おれらは、またまた川山先輩に注意されている。
「いや、知らねえよ。勝手に飾っとけばいいだろ。それは。それで、この、『私の捜し物、ちからを見つけた。』ってここ書き直せ!もう一つ何か違うもの捜してこい!」
「てへぺろりんちょ」
と無表情で車輪ちゃんが言う。
「んだと!ふざけてんのか」
「今日、花子ちゃん会長と見た映画では完全に絶対に許されるって言ってたのに…」
「どんな映画?」
「十一人のヤクザ・カスタードたち inフランス」
「なんだその映画」
「美味しそうな映画」
最初は不安だったけど、おれは今、学校生活とっても楽しいです!