教室に戻った皓斗は侑希にスマホメッセージを送信した。

『テスト前のこと、ごめん。俺、志望校と将来の夢に向けて頑張るってちゃんと決めたから、顔を見て話したい。できたら今日』

 クラスメイトと一定の距離を置き続けている侑希は、昼休み中はスマートフォンで音楽を聴いている。だからすぐに気付いてくれるはずだ。
 けれど既読は付かない。もしかして体調を崩して学校を休んでいるんじゃないか、と心配になった。

 侑希には友人関係の頃から校内での交流を断られているが、決意を新たにした今日はせめて顔だけでも見たい。
 心配も重なってじっとしていられない皓斗は、一年生の階に降りてみた。
 遠くからそっと見るくらいなら許されるだろう。

「望月先輩だ。どうしたんですか?」
「わ、静かに」

 侑希のいる教室をさっと横切って様子を見るだけのつもりでいたのに、 面識のない一年生に声をかけられた。
 すぐに声を潜めるように言うも、他の一年生たちもにも囲まれてしまう。

「ちょ、たから集まってくんなって。……あっ」

 目立つのはまずいんだ、とそう付け加えようとしたところで、ちょうど侑希が廊下を歩いていて、鉢合わせをしてしまった。

 皓斗に気づいた侑希の表情が、一瞬で固まる。
 
 ――やばっ。

 そう思うのと同時に、侑希の名前を呼びながら、その華奢な肩に腕を回す男子生徒がいた。
 そして驚くことに、侑希はその生徒に顔を向けて、柔らかく微笑んだ。

 今度は皓斗の表情と体が固まる。先の鋭い刃物で胸を刺されでもしたかのように、身じろぎひとつできない。

 だって、皓斗じゃない男が侑希に触れ、笑顔を間近で受けている。

 それだけじゃない。いつも着ているはずのパーカーを……皓斗が贈ったパーカーを、侑希は着ていない。

 侑希はなんの躊躇いもなく、皓斗の守りも必要とせず、相手に接触を許しているのだ。

「――あれ? 二年の望月先輩だ。どうしたんですか?」

 侑希の肩のを抱いている男子生徒がにこやかに声をかけてくるが、侑希の顔はもう笑ってはいなかった。

 皓斗がここに居ることを良く思っていないに違いない。

 けれど皓斗だって。
 自分以外の男に肩を抱かれて微笑んだ侑希を見て、穏やかでいられない。

「なんもね、間違い」

 それだけを言って、いや、言えなくて、肩をに腕を回されたままの侑希に背を向ける。

 教室に戻る階段で、スマートフォンから通話の着信音が鳴った。

見ると、『東館の社会第二準備室に』とだけ打たれたメッセージのポップアップが表示されていた。