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 十月後半の体育祭では恋人同士がする「はちまき交換」をした。
 侑希は初め、「なにそれ。やんないよ、そんなの」とツーンとしたけれど、結局はお昼休憩のときに交換してくれて、力がみなぎった皓斗は午後の学年リレーで区間賞に輝いた。

 二学期末テストでは、成績が上がった侑希とは反対に、皓斗は少し成績を落とした。
 侑希のことで頭がいっぱいで、授業をおろそかにしていた自覚はある。担任から注意を受けたが「望月なら挽回できるだろ」と言われて、「はい」と答えながら進路について薄く考えた。

 ────そして、冬休みの十二月二十四日。

「クリスマス! 絶対に一緒に行きたいところがある」なんて言っていた皓斗は、人気のアミューズメントパークの攻略本を片手に、十月末からそう言って侑希を誘い、入場チケットの抽選に死に物狂いになっていた。
 入手できたときの喜びようときたら、「”いつも余裕の望月皓斗”は遥か彼方に消え去ったな」と、野田と涼介に呆れられたほどだ。

「なあ、これだけ人がいたら、大丈夫だと思いませんか?」

 アミューズメントパークの入場ゲートを通過してすぐ、皓斗犬はご主人様にお伺いを立てた。

「皓斗、主語がない」

 それなのにご主人様はつれない。
 手を繋ぎたいと言っていることはわかっているだろうに、侑希は外でのスキンシップにはかなり慎重だ。もとから外でベタベタするカップルは好きじゃない、と冷めたところもあるのに加え、誰か知り合いが見ていたら噂されてしまう、と気にしている。

 今日はクリスマスで、ここは国内でも人気の「シーランド」。チケット争奪戦に勝利したファミリーやカップルで溢れ、誰も彼も自分たちの楽しみに没頭している。だから大丈夫なはずなのに、と皓斗は思うが、大好きな侑希に無理強いはしたくない。

「~~ホラーハウスでの恋人繋ぎと観覧車天辺のキスだけはお願いします!」

 せめてそれだけは、という思いで皓斗が言うと、侑希は「なに、それ」とクスッと笑う。
 願いを聞き入れてくれたのだと解釈して、侑希の「クスッ」に気持ちが舞い上がった。

 そうして一日笑って、はしゃいで。
 ホラーハウスは思ったより怖くて皓斗がビビり、恋人繋ぎどころか侑希にしがみついてしまう醜態を晒したけれど、クリスマスカラーに彩られた観覧車の頂上では、約束通りキスをした。

 そっと触れ合って、鼻を擦り合わせて離れる。
 皓斗は正直キスに慣れているのに、侑希相手だと初めての体験のようなこそばゆく、それでいて切ないような気持ちになる。
 目を合わせるのも照れくさくて、ふっと外に目線をやると、結局ガラス窓に侑希の顔が映って、また照れくさくなった。

「あ、あのさ、ここでキスしたカップルはずっと一緒にいられるって噂」

 かっこよく伝えようと思っていた台詞が、少し辿々しくなってしまう。

「なに、それ。信じてんの? 皓斗、単純」

 そう言ってきながらも、まだそう回数を重ねてもいないキスを外でするのも初めてで、皓斗だけでなく侑希も顔が真っ赤だ。
 真冬の夜なのに、ふたりともマフラーやコートのファスナーをゆるめて、のぼせた身体を冷ました。