毎日好きだと伝える。
その宣言通り、皓斗は本当に毎日「好きだよ」と侑希に伝えた。
会った日は別れ際に、会えなかった日は通話の最後に。
そのたびに侑希が顔を真っ赤にしたり、皓斗を批難するのがお決まりのパターンで、でもそれが本当に可愛くて愛おしくて、また何度でも好きだと言いたくなるのだ。
『風邪ひいたみたいだからしばらく会えない』
侑希からそんなメッセージが来たのは夏休みの真ん中、送り盆の日。
侑希の両親は侑希の母方の実家に帰省していたから、家でひとりのはずだ。思い出した皓斗は『すぐに行く』とメッセージを返し、次の返事を待たずに用意を始めた。
侑希は病気と治療の影響で免疫系が弱いと聞いている。小さな風邪が命取りになることもあり、夏休み前にはそれで入院が早まった。あのときみたいに、なにもできないまま後悔したくない。
皓斗は母親に相談して看病に必要なものを袋に詰め込むと、服装もいとわずに家を出た。
侑希の家のチャイムを押せば、少し時間はかかったが玄関ドアが開いた。
「皓斗、来ていいって言ってない……ケホ。俺、なにもできないし、風邪をうつすだけになるから、帰りなよ……コホッ」
侑希は喉が辛そうで顔も赤い。これは絶対に放っておけない。
「俺、馬鹿だから風邪はうつらないよ。少し様子を見たら帰るから入れて?」
侑希が顔だけ出していた玄関ドアを押すと簡単に全開になって、すかさず足を踏み入れる。
「~~もう。本当にすぐ帰ってよ?」
よほど辛いのだろう。侑希はすぐに諦め、皓斗の肩に額を預けた。
「あっつ! これ、三十八度以上あるだろ!」
すぐさま侑希をおぶって部屋へと連れて行く。いつもなら大反抗するだろうに、そんな気力もないらしく、皓斗にされるがままだ。
ベッドに座らせて水分を渡してやると、素直に口に含んだ。
取りに行く気力もなかったようで、解熱剤も飲んでいない。皓斗は侑希に言われたとおりの場所を探し、かかりつけの病院処方の解熱剤を飲ませてやった。
「よし、じゃあ寝よ」
だいたいできることが終わって、ベッドに寝転んだ侑希に掛け布団をかける。
額に触れてみるとやはりとても熱くて、用意した氷枕がすぐに常温になりそうだった。
心配で、ないはずの耳と尻尾がへにょりと垂れる。
侑希には幻のそれらが見えるのか、赤い顔をしながらも少し目尻を下げた。
「……ありがと。急いできてくれたんだ。皓斗、今日はいつもと違う」
「ん? ……あっ、やべ、ほぼ寝起きのまま来ちゃった」
皓斗が自分の姿を見ると、部屋着の薄手のTシャツとパンツに、髪のすそのハネもそのまんま。
「ふふ。そういう皓斗も悪くない。素の皓斗みたいで好き」
『好き』
不意な言葉に、熱のない皓斗の顔も熱くなる。
侑希のはそういう意味じゃないのはわかっている。わかっているけれど……。
「……俺も侑希が好き」
熱量を込めて言ってしまった。
「……馬鹿なの? そっちの意味じゃないよ」
掛け布団に包くるまり、顔の上半分だけを出した侑希にジトリと睨まれる。
「うん。わかってる。でも好き。めちゃくちゃ好き。好きだよ、侑希」
馬鹿のひとつ覚えだ。でも何度でも言いたくなるのだ。だって、侑希を思うだけで、連続花火のようにつぎつぎと気持ちが上がってくるから。
「好き。好き。好きだ。侑希、好き……」
侑希に熱があって抵抗する気力がないのをいいことに、皓斗は侑希の形のいい頭に手を伸ばし、撫でながらずっと囁いていた。
侑希は「バーカ」と呟いていたが、呪文のようにでも聞こえたのか、ウトウトとし始め、やがて眠りに落ちていく。
まだ少し幼さが残る侑希の寝顔は、あどけなくも見えて可愛い。
非常時なのに、半開きの薄桃色の唇は、出会った日の侑希を思い起こさせる。
それでつい、人差し指で唇に触れてしまったのは、絶対にナイショだ。
その後、皓斗は母親に教えられたとおり、侑希の目が覚めるたびに水を飲ませ、汗をかいたら着替えを渡し、ずっとそばに付いていた。
逆に迷惑になるかな、と心配しつつも、目を覚ましたときに皓斗を見る侑希の顔はどこか安心している様子に見えたし、「帰れ」とは最初以外一度も言われなかったから、嫌ではなかったのだろう。
皓斗は侑希のそばにいられるだけで嬉しかったし……けれど、侑希が寝返りをうったときに見えた白くか細いうなじに、そっと触れてしまったのも、これまた絶対にナイショだ。