「侑希って肝が座ってるよな」
野田と涼介が帰ったあと、なにもなかったかのように映画を楽しんでいる横顔に話しかける。
「ん~?」
皓斗のベッドを背もたれにしつつ、クッションを抱いて座っている侑希は、テレビ画面から目を離さずに答えた。
「別に、本当のことだしね。それに、皓斗が恥ずかしいと可哀想だから、テラスでの愛の告白は黙っててやったんだろ」
言い終わりにやっと皓斗に顔を向けると、意地悪く笑う。
「あっ、愛……別に、告白でもねーし」
「まあ、いいじゃん。上で聞いてたらだいたい状況はつかめたし。これでよかっただろ?」
あっさり言って、また目線は画面に戻った。
「そうなんだけどさ。あんなうまくかわせるなら、最初から隠す必要ないし、人を避ける必要もない。クラスでも充分うまくやれ……」
違う、こんなことを言いたいんじゃない。
話さなくて済むなら、きっと侑希は話さなかったはずだ。なのに平気な顔をさせて全部言わせて、皓斗は黙って狼狽えているだけだった。そんな自分が情けなくて、話をすり替えている。
いや、それよりも多分。
――これは嫉妬だ。
侑希の胸の内は皓斗だけが知っていたかったのに、あっさりと、侑希自ら彼らに打ち明けたことに、ひどく悶々としているのだ。
子供のような了見の狭さが恥ずかしい。皓斗は唇を硬く結んだ。すると、侑希の人差し指が皓斗の額をはじいた。
「……いてっ」
「そんな顔するなら言うなよ。皓斗は皓斗でさ、行間読みすぎとは思うけど、たまに崩れるよな……同じだよ。俺もなんとなく相手がどう思うのかなーって予想が大体当たる方だけど」
侑希が目を合わせて話してくれる。
「入院してたときさ、すっごい気を遣われたわけ。周りの気持ちがひしひしと同情で伝わんの。別に俺が辛くなくても勝手に気持ちを想像されて、無理しないで! みたいな感じでさ。だから変に外面作って。本当に問題ありません、大したことありません、って常にニコニコしてたんだ。そうやってると平気なふりに慣れてきてね」
本来は明るくて屈託ない侑希がそうならなければいけなかった辛い過去を、皓斗は黙って聞くだけで頷くこともできない。
「けど、それは入院してた特殊な状況でじゃん。高校入って、たくさんの同級生たち相手にずっと化けてられるかな? と思ったら絶対に無理だし、物理的に他人と接触するのが怖いのは事実だし。だから前に言った通りだよ。今はできるだけ一人でいる方が気を遣わなくて楽なんだ。さっきのは俺が言わなきゃ収まらないと判断したから特例。わかった?」
「うん……ごめん……」
「謝ることでもないって。あー、ほら。場面変わったじゃん。巻き戻ししよ……わっ! 皓斗!?」
皓斗は侑希にそっと近づき、指先だけで左肘に触れた。侑希は少しだけ肩を揺らしたが、本当に少しだけで、振り払うことはしない。
「俺、俺は侑希のそばにいてもいい?」
侑希に逃げられないとはいえ指に力を込めて肘を掴むことはできず、かすかに触れたままで小さな声を絞り出した。
そこから三秒くらいの間。
「……皓斗さ、ほんと距離感バグってるって。ちょこんと触れてそばにいていい? なんて、俺が女の子だったら……ていうか、皓斗が女の子なら男に勘違いされるよ? さすが人たらしの望月と名を馳せるだけのことはあるな」
「っ茶化すなよ。俺は真剣に!」
反論すると、侑希の両手が皓斗の頭に伸びた。
くしゃくしゃくしゃくしゃ……と髪をもてあそばれる。
「なに言ってんの。もう一緒にいるじゃん。皓斗だけだよ。こんなに近くにいるの。だから皓斗は特別! ……これでいい?」
かき混ぜられている髪の、下りた前髪ごしに侑希を見ると、頬を赤くして少し泣きそうにも見えた。今の皓斗と同じだ。
「あーあ。皓斗のキモいのがうつったかも。恥ずい。……ほら、映画見ちゃおうよ」
「うん……」
皓斗も火照りと目の潤みが取れず、照れくさい。
――でも、侑希とのこんなお揃いなら、悪くない。