「聞いてもいい? 開がやった犯罪」

 焼き鳥を頬張りながら、宗太郎が据えた目で尋ねる。

「ああ、もう時効だしね。俺がYouTubeで配信をしているのはインターンの時に話しただろ? なかなか伸び悩んでね。他の動画配信者の真似をして試行錯誤してみたんだけど、上手くいかないことが多くて。それで……他人のゲーム実況動画をまるパクりしたり、許可の取れていない音楽や動画をそのまま配信したり。つまり、違法アップロードをしてた。あとは、そうだな……在宅アルバイトで、発注者から頼まれて、それこそ他人の個人情報を売買する協力をしたり。それは騙されてやってたんだけど、途中から、犯罪と分かってて続けてた。割が良かったんだよ。この先YouTube一本で生きていこうと思ってた俺にとっては、稼ぐことも大事だったからさ。馬鹿だなって笑っていいぞ」

 違法アップロード。
 個人情報売買。 

 どちらも自分たちの日常に潜む犯罪だ。人を殺したとか、暴行を加えたとか、そういう類の犯罪ではない。ただ、誰もがやってしまってもおかしくないような悪。開は誰かの悪意の罠にハマって犯罪をしてしまったのかもしれない。違法アップロードはともかく、個人情報売買に関しては——善樹も、彼のように騙されて仕事をしてしまってもおかしくないと思った。

「なるほどね。あの時の課題の答え合わせができてすっきりしたよ」 

 宗太郎は、開の犯罪の内容について特につっこみはしなかった。善樹もそうだ。あの課題では犯罪者を指摘するのが目的で、その人
がどんな犯罪をしたのか——そこまでぴったり答えを当てることが目的ではなかった。だからこそ、今こうして開が教えてくれた彼の犯罪のことも、今の善樹たちにとっては固執すべき問題ではない。
 美都は、何か思うところがあるのか、瞳を伏せていた。長いまつ毛が湿っているように感じてどきりとする。彼女の艶やかな黒髪が、妙に綺麗だと感じてしまった。

「善樹はどうなんだ? 何で、インターンに参加したのか」

 最後に宗太郎が善樹の方を向いた。
 みんな、それぞれにインターンに参加をした理由があった。決して純粋ではない理由だ。善樹にも何か裏の理由があるはず——その目がそう疑っていた。
 善樹はどうしようかとひとしきり迷ったあと、ビールを二口ほど飲んで、話し出す。

「僕も、みんなに嘘をついてた。僕はもともと、RESTARTで長期インターン生として働いていたんだ。夏のインターンに参加したのは、岩崎部長に言われたからだ。『RESTARTの一員として、インターンに参加して、他の学生と一緒に課題について考えてきなさい』って。これも業務の一環だから、とことん勉強してくるようにと。課題についてはもちろんなにも聞かされてなかった。みんなと同じ気持ちでインターンに臨んだのは本当なんだ」

「まじか」 

 これには開が一番驚いているようだった。
 友里も宗太郎も、「知らなかった」というふうに目を丸く見開いた。

「騙すつもりはなかったんだけど、どうしても普通の参加者として振る舞わなくちゃいけなくてね。今更だけど、ごめん」

「いや、それはしょうがないというか。でもそれなら、RESTART側は一条くんがインターン中に風磨くんのことを時々話題に出していたこと、どう思っていたんだろう」

 友里の疑問が、善樹の中にもすとんと落ちてくる。
 そうだ。善樹はインターン中、RESTARTの人間にも風磨がいるように振る舞っていることがバレている。そもそもインターンに参加する際に「風磨も参加していいか」と実際に社内の人間に尋ねたのも善樹だ。それに対して、RESTARTの社員は「一条くんの申し出なら特別に許可する」と答えていた。まるで、風磨が亡くなったことを知らない様子だった。でも実際風磨は亡くなっている。それに彼ら
は、風磨が以前RESTARTで働いていたことを知っているはずだから、そんな風磨をインターンに参加させるのはおかしい気もした。

「私、思うんだけど。RESTARTが風磨くんを轢き逃げした犯人なんだとしたら、善樹くんが風磨くんが生きていると思い込んでおかしな発言をしていたのを、RESTART側は見抜いてたんじゃないかな。それで、あえて善樹くんが風磨くんを夏のインターンに誘ったことも、許可した。要するに、善樹くんを試したんだと思う。理由は分からないけれど、善樹くんに、あのインターンで自由に泳がせておこう(・・・・・・・・・・)っていう算段だったんじゃない?」

「自由に泳がせる……」