「正直僕も、あのインターンで思うところはたくさんあって。あれからはもう、自分の正義感を他人に押しつけるのはやめようって思った。その方が人間関係はうまくいく。僕が知らない間に傷つけていた人たちにも謝りたいと思った。長良さん——僕はきみに、一番に謝りたかった。バイト先の一件で、傷つけてしまって本当に申し訳ない」
善樹が美都に向かって深々と頭を下げる。まさかこの場で一年前の出来事の謝罪を受けるとは思っておらず、美都は多少面食らった。だが、インターンの発表の場で善樹を糾弾したのは事実だ。彼に謝らせるようなかたちになり、美都自身、申し訳ないと思う。
「ううん、こちらこそ、発表の場でひどいこと言ってごめんなさい。傷つけちゃったよね……。あの時話した気持ちは本音なんだけど、今はもう、善樹くんのことを恨んでるとかじゃないの。それよりももっと、聞いてほしいことがあって」
そうだ。アルバイト先を辞めざるを得なくなった時、美都は最初に善樹のことを憎らしいと思った。けれど今は、その矛先は別の者へと向かっている——。
「聞いてほしいこと? なんだろう」
善樹が純粋な疑問を美都にぶつけてきた。その目が先を話すようにと訴えている。美都はじっくりと言葉を選びながら話し始めた。
「……善樹くんはさ、RESTARTに四月から長期インターン生として働いてるんだよね。きっかけは何だったのかな」
「きっかけか。確か、弟の風磨に影響されたんだっけ。風磨はさ、高卒で働いてるんだけど、いろんな職場を転々としていてね。やつが
一年生の秋頃から働き始めたのが、RESTARTだったんだ。年明けには、風磨はRESTARTを辞めたんだけど。それで、僕もRESTARTのことを調べていくうちに、そこで働きたいって思うようになって——履歴書を、書いたんだ」
「そう……風磨くんが。夏のインターンでも風磨くんの話をしてたね」
「あ、うん。双子でずっと一心同体で生きてきたから。どうしても風磨のことを考えてしまうというか」
「そっか」
美都は、カップの中で揺れるコーヒーの水面をじっと見つめていた。自分の目が、懐疑に満ちていることが分かり背筋が震える。
「夏のインターンはさ、岩崎部長も言っていた通り、業務命令だったんだ。RESTARTの一員として、一条くんも参加してきなさいって、言われて。実際興味はあったからよかったんだけど。Dグループで長良さんと会えたのも、宗太郎と一緒だったのも結果的には良かったと思ってる。おかげで目が覚めたというか。自分自身、もっと考えるべきことがあるんじゃないかって分かったから。あの六人でディスカッションしたことは、僕にとって必要な時間だったよ」
善樹は過ぎ去った時間を懐かしむような視線で、美都を見つめて言った。混み合う店内に、さらにお客さんがやってきて、入り口で何組か待たされているのが美都の視界に入ってきた。それでも、まだ彼とは話し足りない。心臓の音が、ずっとうるさく音を立てている。
「あのさ、善樹くん」
コーヒーが、残り二分目まで減っていた。美都はおかわりを頼もうか迷う。早いところ席を空けるべきだということは分かっているものの、善樹と腹を割った話は、まだ終わっていない。
「どうしたの」
もったいぶって次の一言を放てない美都に、善樹が聞いた。美都はようやく決心がついて、ごくりと唾を飲み込んだ。
「Dグループが六人って、誰のこと? 私たち、ずっと五人のグループだったよね」
善樹が美都に向かって深々と頭を下げる。まさかこの場で一年前の出来事の謝罪を受けるとは思っておらず、美都は多少面食らった。だが、インターンの発表の場で善樹を糾弾したのは事実だ。彼に謝らせるようなかたちになり、美都自身、申し訳ないと思う。
「ううん、こちらこそ、発表の場でひどいこと言ってごめんなさい。傷つけちゃったよね……。あの時話した気持ちは本音なんだけど、今はもう、善樹くんのことを恨んでるとかじゃないの。それよりももっと、聞いてほしいことがあって」
そうだ。アルバイト先を辞めざるを得なくなった時、美都は最初に善樹のことを憎らしいと思った。けれど今は、その矛先は別の者へと向かっている——。
「聞いてほしいこと? なんだろう」
善樹が純粋な疑問を美都にぶつけてきた。その目が先を話すようにと訴えている。美都はじっくりと言葉を選びながら話し始めた。
「……善樹くんはさ、RESTARTに四月から長期インターン生として働いてるんだよね。きっかけは何だったのかな」
「きっかけか。確か、弟の風磨に影響されたんだっけ。風磨はさ、高卒で働いてるんだけど、いろんな職場を転々としていてね。やつが
一年生の秋頃から働き始めたのが、RESTARTだったんだ。年明けには、風磨はRESTARTを辞めたんだけど。それで、僕もRESTARTのことを調べていくうちに、そこで働きたいって思うようになって——履歴書を、書いたんだ」
「そう……風磨くんが。夏のインターンでも風磨くんの話をしてたね」
「あ、うん。双子でずっと一心同体で生きてきたから。どうしても風磨のことを考えてしまうというか」
「そっか」
美都は、カップの中で揺れるコーヒーの水面をじっと見つめていた。自分の目が、懐疑に満ちていることが分かり背筋が震える。
「夏のインターンはさ、岩崎部長も言っていた通り、業務命令だったんだ。RESTARTの一員として、一条くんも参加してきなさいって、言われて。実際興味はあったからよかったんだけど。Dグループで長良さんと会えたのも、宗太郎と一緒だったのも結果的には良かったと思ってる。おかげで目が覚めたというか。自分自身、もっと考えるべきことがあるんじゃないかって分かったから。あの六人でディスカッションしたことは、僕にとって必要な時間だったよ」
善樹は過ぎ去った時間を懐かしむような視線で、美都を見つめて言った。混み合う店内に、さらにお客さんがやってきて、入り口で何組か待たされているのが美都の視界に入ってきた。それでも、まだ彼とは話し足りない。心臓の音が、ずっとうるさく音を立てている。
「あのさ、善樹くん」
コーヒーが、残り二分目まで減っていた。美都はおかわりを頼もうか迷う。早いところ席を空けるべきだということは分かっているものの、善樹と腹を割った話は、まだ終わっていない。
「どうしたの」
もったいぶって次の一言を放てない美都に、善樹が聞いた。美都はようやく決心がついて、ごくりと唾を飲み込んだ。
「Dグループが六人って、誰のこと? 私たち、ずっと五人のグループだったよね」