「坂梨さん、ありがとうございました。フィードバックは後ほど行いますので、ここではノーコメントで。さっそく次に進みましょう。天海くん、よろしくお願いします」

 今田が着実にその場を回していく。再びタイマーを五分にセットして、開が立ち上がった。

「俺も坂梨さんと同じで、林田くんが犯罪者だと思います」

 これは予想していた通りだった。昨日、宗太郎と開は互いに因縁をつけて喧嘩のような議論をしていたから、開の気持ち的に宗太郎を犯罪者だと言いたいのだろう。

「まあ、理由はさっき坂梨さんが言ってくれたのとほぼ同じだから、パクリと思われても仕方ないんだけど。林田くんは、表面上ではいい人のふりをして生きてきて、それなりに成功してきた側の人間だ。名門校に入って、大学だって一流私立大学で。自分史を見ると難関大学に合格したというところや大手企業へのインターンに参加したところに『◎』が付けられている。彼がどれほど自分の成功に誇りを持っているのかが、よく分かる。その一方で、昨日の議論。昨日は自分も熱くなった部分もあって、反省しているとところもあるけれど、それにしても彼の他人に対するものの見方は捻くれていた。ずっと友達として仲良くしてきた一条くんのこと、裏では偽善者だと思っていたと指摘した。本当は尊敬していなかった。でも、表面上では一条くんのことをすごい人だと思っているように装っていた。……その時点で、もう俺にとっては立派な詐欺師だった。インターンで偶然こういう課題が出て、偶然一条くんと同じ班だったから、心の中ではラッキーだって思ってたんだろうなって分かった。このインターンの課題を利用して、一条くんをとことん追い詰めてやろうっていう魂胆が見え見えだった。……俺は知ってる。林田くんが、一条くんや他のみんなを追い詰めている時の目は、教室で気に入らないやつをいじめるやつのそれだ。見たことがあるんだ。経験したことがある……だから俺は、さっき坂梨さんが言ったのと同じで、林田くんが弱い者を陰でいじめて、それが犯罪になったんじゃないかって思う」

 開は発表の場でもディスカッションの時と同じように、砕けた口調で自分の考えをぶつけていた。いくらか感情的だと感じたものの、宗太郎が犯罪者だと思った理由については昨日までの議論から誰もが推測できることだったので、発表として間違ってはいないだろう。同じ課題で、同じ人を犯罪者だと指摘する発表の場でも、こんなふうに発表の仕方に違いがある。善樹は背筋にゾクゾクとした感触が走ったような気がして、はっとする。

 自分はこの発表の場を、誰よりも楽しんでいる——。
 どうしてか、分からない。誰かを犯罪者だと指摘する発表なんて、最初はくそくらえと思っていた。どんな課題だよ、と困惑して、おかしな課題を出してくるRESTARTに対して怒りすら湧いていた。けれど今は違う。早く発表がしたい。早く、誰かを悪に仕立て上げたい(・・・・・・・・・・・・)——。

 宗太郎が苛立たしげに眉根を寄せて、唇を噛んでいるのがチラリと視界に入ってきた。だが、そんなことも気にならない。次は自分の番だ。今田に言われる前に、善樹は席から立ち上がった。