朝起きて、真っ先に頭に浮かんだことは瑛奈と和湖の顔だ。入れ替わって四日目にして、もうこちらの人間関係の中で生きようとしていることに気づいて驚く。これまでは入れ替わり先の生活に馴染むのに時間がかかった。でも今回はいつもと違っていた。美雨という人間を通して、僕は僕らしく生きているような気がする。
昨日は土曜日だったので、学校には行っていない。
どうやら僕の世界と美雨の世界では曜日がずれているということに、昨日気がついた。「あれ?」と疑問に思ったけれど、たいした問題ではない。すぐに受け入れて、私服を着た。
それから昨日、瑛奈と和湖に誘われて、街へ出かけた。初めて女の子同士で遊んだので、かなり疲れた。ドラマの話をしたのは、みんなでカフェでお昼ご飯を食べている時だ。まさか入れ替わって数日で友達と遊びに行くとは思っていなかったので、僕は多少面食らいつつも、楽しい時間を過ごした。
一つ不思議だったのは、昨日自分の世界に帰ってから話題のドラマについて自分のスマホで検索しても、何もヒットしなかったことだ。もしかしたら動画配信サービスで配信されているドラマなのかもしれない。それか、タイトルを少し間違って記憶してしまっていたか。だがそんな疑問も、夜眠りにつくことにはもう忘れていた。
朝、美雨と入れ替わり、いつものようにノートを開くと、そこには美雨からのメッセージがずらりと並んでいた。昨日よりも長い文章を、ゆっくりと目で追っていく。
そこに書かれていることを読んで、僕は正直驚いた。
彼女に、小説を書いていることを知られてしまったこと。
そして学校で、伊藤くんに馬鹿にされたことに対し、彼女が怒ったこと。
彼女自身の口調で喋ってしまったことを謝ってくれているが、それについてはそこまで気にならない。こんなことは入れ替わりでしょっちゅう起こることだ。どうってことない。
それより……。
「伊藤くんに、言い返してくれたんだ」
頭の中に浮かんだ映像は、中学時代に想いを寄せていた学級委員長の彼女のことだ。彼女も、吃音で揶揄われる僕を、いつも庇ってくれたんだっけ。
想像の中で、美雨とその子が重なる。
会ったこともないのに、どうして美雨は僕のことを庇って、伊藤くんに怒ってくれたんだろう。きっと勇気がいったはずだ。彼女がとても強い人だということがよく分かる。僕は、胸がジンと熱くなって、心の中で彼女に感謝した。
それから、伊藤くんから僕の過去にまつわる話を聞いてしまったという点だが——これに関しては、正直僕も分からない。
このまま入れ替わりが続けば、第三者から聞く過去の話はカウントされないということが立証される。待ってみるしかない。
「小説家の夢、バレちゃったか」
もともと隠していたわけではないが、親にもクラスメイトにも知られていない夢だ。夢、と語れるほど、まだ切実に未来を思い描けていないかもしれない。ただ昔から空想が好きで、ノートに自分が考えたストーリーを書いていた。小説家になりたいと思ったのは、ここ最近のこと。
まだ見ぬ彼女に自分の小説を読まれたことは小っ恥ずかしく、とてもじゃないが、感想なんて聞けそうにない。ただ、彼女が「才能がある」と言ってくれたことは、少なからず励みになった。
それから、僕が昨日書いたノートのページを見ると、ドラマの話のところに、『木曜日の九時からだよ!』とコメントが入っていた。そうなのか。昨日は検索で上手く見つけられなかったが、また覚えていれば木曜日に確認してみよう。
昨日は土曜日だったので、学校には行っていない。
どうやら僕の世界と美雨の世界では曜日がずれているということに、昨日気がついた。「あれ?」と疑問に思ったけれど、たいした問題ではない。すぐに受け入れて、私服を着た。
それから昨日、瑛奈と和湖に誘われて、街へ出かけた。初めて女の子同士で遊んだので、かなり疲れた。ドラマの話をしたのは、みんなでカフェでお昼ご飯を食べている時だ。まさか入れ替わって数日で友達と遊びに行くとは思っていなかったので、僕は多少面食らいつつも、楽しい時間を過ごした。
一つ不思議だったのは、昨日自分の世界に帰ってから話題のドラマについて自分のスマホで検索しても、何もヒットしなかったことだ。もしかしたら動画配信サービスで配信されているドラマなのかもしれない。それか、タイトルを少し間違って記憶してしまっていたか。だがそんな疑問も、夜眠りにつくことにはもう忘れていた。
朝、美雨と入れ替わり、いつものようにノートを開くと、そこには美雨からのメッセージがずらりと並んでいた。昨日よりも長い文章を、ゆっくりと目で追っていく。
そこに書かれていることを読んで、僕は正直驚いた。
彼女に、小説を書いていることを知られてしまったこと。
そして学校で、伊藤くんに馬鹿にされたことに対し、彼女が怒ったこと。
彼女自身の口調で喋ってしまったことを謝ってくれているが、それについてはそこまで気にならない。こんなことは入れ替わりでしょっちゅう起こることだ。どうってことない。
それより……。
「伊藤くんに、言い返してくれたんだ」
頭の中に浮かんだ映像は、中学時代に想いを寄せていた学級委員長の彼女のことだ。彼女も、吃音で揶揄われる僕を、いつも庇ってくれたんだっけ。
想像の中で、美雨とその子が重なる。
会ったこともないのに、どうして美雨は僕のことを庇って、伊藤くんに怒ってくれたんだろう。きっと勇気がいったはずだ。彼女がとても強い人だということがよく分かる。僕は、胸がジンと熱くなって、心の中で彼女に感謝した。
それから、伊藤くんから僕の過去にまつわる話を聞いてしまったという点だが——これに関しては、正直僕も分からない。
このまま入れ替わりが続けば、第三者から聞く過去の話はカウントされないということが立証される。待ってみるしかない。
「小説家の夢、バレちゃったか」
もともと隠していたわけではないが、親にもクラスメイトにも知られていない夢だ。夢、と語れるほど、まだ切実に未来を思い描けていないかもしれない。ただ昔から空想が好きで、ノートに自分が考えたストーリーを書いていた。小説家になりたいと思ったのは、ここ最近のこと。
まだ見ぬ彼女に自分の小説を読まれたことは小っ恥ずかしく、とてもじゃないが、感想なんて聞けそうにない。ただ、彼女が「才能がある」と言ってくれたことは、少なからず励みになった。
それから、僕が昨日書いたノートのページを見ると、ドラマの話のところに、『木曜日の九時からだよ!』とコメントが入っていた。そうなのか。昨日は検索で上手く見つけられなかったが、また覚えていれば木曜日に確認してみよう。