「……ん、うまい」

「よかった」


二人が膝の上に広げているお弁当は、どちらも奥野の手作りだ。
親が共働きである影響で、早いうちから料理に目覚めた奥野は、高校に入ってからお弁当作りにも挑戦している。
それを知った若菜から、自分もお弁当が食べたいとせがまれ、以来奥野は毎朝二人分のお弁当を作っているし、時に若菜は朝食も食べに来ることがあるので、お弁当と並行して二人分の朝食を作ることもままある。

作ることは嫌いじゃないし、むしろ楽しくやっているし、好きな人に手料理を振舞えるというちょっとした喜びも満たせて、奥野的にはいいこと尽くしだ。料理を覚えてよかったと思える瞬間を、毎日味わっている。


「今度はカニカマ巻いてみようかなと思ってるんだけど、景くんは何かリクエストある?あっ、玉子焼きの具じゃなくてもいいよ。何か食べたいおかずとかあれば」


中庭には他にも生徒がいるとは言っても、ベンチの間隔は離れているし、みんな思い思いに昼休みを過ごすことに忙しく、二人に目を留める人もいない為、奥野は気兼ねなく若菜を下の名前で呼ぶ。
敬語でも、“若菜先輩”呼びでもないことで、若菜の表情が和らぐ。