「いや、でも……ここでは先輩だし、流石に校内で先輩に敬語使わないのは……」


悪目立ちしそうだ。ただでさえ若菜は長身で顔がいいので、ただ校内を歩いているだけでも目立つのに、そんな人物に後輩が敬語を使わないなんて、周りの目が怖くて奥野には無理だ。
例え二人が幼馴染みだったとしても、それをいちいち説明して回るのも面倒くさい。
そんな奥野の気も知らず、若菜は不満そうな顔をしている。


「それにほら、二人の時は、こうしていつも通りにしてるでしょ」


だからこれでなんとか……と思ったが、若菜の表情は変わらない。


「でも、さっき教室行った時は敬語だった」

「それは……教室だったから。クラスメイトもいっぱいいたし」


わかっている。若菜がそんな言い分で納得しないことはよくわかっている。
でも、幼馴染みとはいえ後輩であるという奥野の立場も、わかって欲しいところではある。


「まあ、とりあえずその話は置いておいてさ、お弁当どう?今日の玉子焼きはチーズ芯にして巻いてみたんだけど」


強引に話を変えた奥野に、若菜はしばし不満げな視線を向けていたけれど、やがて諦めたようにお弁当箱に視線を落とすと、玉子焼きを箸で掴んで口に運んだ。