「眞由、敬語やめて」

「へ……?」


プチトマトを口に入れる寸前というタイミングだったため、奥野の口から間抜けな声が漏れる。
昼休みの中庭には、ベンチでお昼を食べる生徒達の姿がちらほら。そこに、奥野と若菜の姿もあった。
ベンチに並んで腰かけて、膝の上には色違いのお弁当箱を広げている。


「えっと……なに?急に」


一旦プチトマトを食べるのを諦めた奥野は、困惑気味に問いかける。
それを受けて、膝の上のお弁当箱をじっと見つめていた若菜が顔を上げて奥野を見た。


「急にじゃない、もう何度も言ってる。距離感じるから嫌だ。だから敬語やめて。あと、“若菜先輩”って呼ぶのも」


確かに、入学してすぐ校内で若菜に会った時、礼儀として「若菜先輩」と敬語で話しかけてから、若菜は事あるごとにそれをやめろと言っていた。