「米なら炊ける」

「……そう。じゃあ、お米はお願い」


苦笑しながらそう答えた奥野に、若菜は「家に父さんの出張土産あるから」と。
ああなるほど、それで若菜の家に招待されたわけかと奥野が納得していたら、続けて。


「あと家、今日親帰ってくるの遅いから」


そう言ってちらっと後ろを振り返り、きょとんとする奥野に悪戯っ子のような笑みを見せる。


「眞由の期待に、応えないといけないでしょ?」


その台詞に、瞬時に全てを理解した奥野は、再び顔に熱が集まるのを感じた。


「ちょっ……、景くん!!」


真っ赤になって叫ぶ奥野に、若菜は可笑しそうに笑う。

ああもう全く、憎たらしいのに、どうしようもなく愛おしい。繋いだままの手から、ドキドキと高鳴る心臓から、好きが溢れて止まらなくなる。
けれど、奥野がその気持ちを言葉に出来るようになるまでには、まだ少し時間がかかる。

長年秘め続けた想いをぶつけるのは、まだ少し、もう少し、先の話――。