赤くなった顔を隠すように俯けば、「眞由」と柔らかく名前を呼ばれた。
反射的に顔を上げると、近付いてくる綺麗な顔。奥野は、自然と目を閉じた。

けれど、いつまで経っても何も起きなくて、奥野はそうっと目を開ける。
間近にあった綺麗な顔は、悪戯っ子のような笑みを浮かべていた。


「期待した?」

「っ、景くん!!」


恥ずかしさに、かっと奥野の顔に熱が集まる。


「目閉じた眞由、可愛かった。でもここ学校だから」

「し、知ってるよそんなこと!い、今のは景くんが紛らわしかったから」

「紛らわしかったから、期待した?」


また悪戯っ子みたいな顔をして、若菜がふふっと笑う。
その笑顔が憎たらしいし、恥ずかしさで顔が燃えそうに熱いけれど、奥野はどうしようもなく満たされるのを感じていた。
これが、幸せというものなのだろうか。