「あれ、もう終わったの?」

「ああ、うん。大した用事じゃなかったみたい」


というか、用事なんてなかったと言ってもいい。


「奥野って、若菜先輩と仲いいよな。しょっちゅう一緒にいるし、先輩もよく会いに来てるし」

「まあ……家が近所だから、昔から知ってるし」


年の近い息子がいるということで、親同士も仲がいい。そのため、幼い頃からよくお互いの家を行き来して遊んでいたし、お互いに親が共働きなこともあって、一緒に食事をとることも多い。
奥野にとって若菜は、一つ年上の先輩であると同時に、物心ついたころから一緒にいる幼馴染みでもあった。


「いいなー、奥野は。若菜先輩みたいな顔のいい人が近くにいたらさ、黙ってても女子が寄ってくるだろ」

「……先輩に寄ってくる女子は、僕には関係ないと思うけど」

「一緒にいれば、奥野だって女子と知り合う機会増えるじゃんかよ!」

「そうかもしれないけど、そもそも先輩目当てに近付いてくる女子は、僕に興味なんてないよ」


奥野が苦笑気味に返すと、クラスメイトは「まあ一理あるか」と頷いた。