「あれは……事故、みたいなもので」

「じゃあおれが手握っても、眞由にとっては事故?」


状況にもよるし、それはまた話が違うだろうと言いたかったが、その前に若菜が


「事故だって言ったら泣く」


きゅっと唇を引き結んでそんなことを言うので、奥野は本当に泣かれる前に慌てて「言ってないでしょ」と返す。

長身で顔が良くて、普段は気だるげな仕草と垂れ目が色気を放っているというのに、ふとした瞬間に見せる子供っぽさが、どうしようもなく愛おしい。ああ、やっぱり好きだな……と実感する。
胸が甘く疼いて、それなのに切なくて、ちょっとだけ苦しい。

キミが好きだと言えたなら、少しは楽になれるのだろうか。それとも、余計に苦しくなるのだろうか。


「おれは、眞由がいればいい。他は、なにもいらない。眞由がいてくれるなら」


期待してしまいそうになる。でも、期待してはいけない。若菜が言いたいことは、ちゃんとわかっている。
わかっているけど……、わかっているからこそ、胸が痛い。