「え、あっ、でもあの……」


わかなあー……と哀れっぽい声を上げる先輩を気にしてちらりと振り返ると、「いいのあれは、放っておいて」と若菜は不機嫌そうに言い捨てる。ついでに「あいつとはしばらく口きかない」とも。
いつになく強引にぐいぐい手を引っ張られるので、奥野も諦めてそれに従う。

そうして奥野が若菜に引っ張られて連れて行かれた先は、いつも一緒にお昼を食べている中庭だった。

他には誰もいない放課後の中庭、一番近いところにあるベンチに向かった若菜は、まずは自分がすとんと腰を下ろし、次いで掴んでいた奥野の手を引いて座るように促す。
促されるまま、奥野もおずおずと腰を下ろすと、若菜は微妙に空いていた隙間を埋めるようにぐっと奥野の方に体を寄せた。ぴたっと片側がくっついた瞬間、奥野の心臓がドキッと跳ねる。


「えっと……わか、……景くん?」


“若菜先輩”と呼びそうになって睨まれたので、奥野は慌てて言い直す。
若菜は、ベンチに腰を下ろしてもなお放そうとしなかった握った手に、ほんの少し力を込めた。