ホットのミルクティーにするかアイスのミルクティーにするか、周りに人がいないのをいいことに、奥野は自動販売機の前で頭を悩ませる。

ブレザーは教室に置いて来ていて、ワイシャツの袖を少し捲っている今の姿は、完全にアイスを選ぶ人なのだが、日が落ちてきている今、段々と朝晩は冷え込むようになっていることを考えれば、帰る前にホットで体を温めるべきかとも思う。
どちらにするべきか、自動販売機をじっと見つめて悩んでいると


「あ、眞由くん!眞由くん!」


呼ぶ声が聞こえて、奥野はそちらを向く。
校内で自分を“眞由”と下の名前で呼ぶのは若菜くらいだが、若菜はこんな明るい大声を出さないし、そもそも“くん”なんてつけない。
一体誰だと見てみれば、大きく手を振りながらこちらに向かってくるのは、先日会った若菜の友人の内の一人だった。


「あ、えっと、こんにちは先輩」


予想外の人物に声をかけられたことで、奥野は一瞬戸惑った。