「眞由、なんか落ちた」


転がった物を拾い上げた若菜が、しげしげとその飴を眺める。


「どうしたの?これ」

「ん?ああそれは、ノート貸したお礼にってクラスメイトがくれたの」


はい、とティッシュを差し出す奥野。けれど若菜はそれを受け取らず、「ふーん……」とまだ飴を眺めている。


「……あげようか?」


そんなに欲しいのならばと奥野がおずおずと声をかけると、若菜がようやく飴から視線を外して奥野の方を向いた。
口の端のマヨネーズを指で拭ってぺろっと舐める仕草に、奥野はドキッとしてしまう。


「うん、欲しい」


そんなにその飴が好きだったのかと思いながら、奥野は「じゃあ、どうぞ……」と手で示す。
せっかく取り出したティッシュは使われぬまま、奥野のブレザーのポケットに戻った。


「その飴、そんなに好きなの?知らなかった」


何の変哲もないフルーツ味の飴だと思ったのだが、一応今後のために頭の中の若菜好きな物リストに入れておくかと考えながら問いかけたら


「いや、別に」


思わず首を傾げたくなるような回答が返ってきた。