「奥野ー、お呼びだぞー」


クラスメイトの呼ぶ声に、奥野 眞由(おくの まゆ)は顔を上げる。「向こう」とクラスメイトが指差す先を見れば、ドアの近くにやたらと長身の男が立っているのが見えた。


「ごめん、ちょっと行ってくる。ノート、終わったら机に置いておいて」

「了解、いってら」


授業中に写しきれなかったというノートをクラスメイトに見せていた奥野は、一言断ってから席を立つ。
すれ違う時に、呼び出しをしてくれたクラスメイトに「ありがとう」とお礼を告げて待ち人の元に向かえば、なぜかちょっぴり拗ねたような顔で迎えられた。


「さっきの、友達?」

「さっきの?」

「前の席に座ってる人」

「ああ。友達……というか、まあクラスメイト?」


席が一つ前だから、よくノートや宿題を見せてくれと頼まれるが、言ってしまえばその程度の関係だ。