「それで、急に休み取ったんだ。大変だね」
 私の話を聞いて、相川さんはいたわりの言葉をかけてくれる。
「なんていうか、親って元気でいるのが当然て気がして」
 私の言葉に、相川も頷く。
「妹さんにも、そのこと話したの?」
 海老の天ぷらを具材にした『三重おにぎり』を食べる私に、相川さんが聞く。
 桜子の店のお弁当をお昼にしているから、出勤前に寄ってきたとわかっているのだ。
 ちなみに、海老の天ぷらのおにぎり、いわゆる『天むす』が三重代表なのかといえば、もともとは三重県の津市にあるお店が発祥だったからだという。
 学校の成績は恐ろしく悪かったくせに、桜子は妙なことをよく知っている。
 そして美味しいおにぎりを結ぶ。
「朝お店に寄って、実家に帰ることだけ伝えてきた」
 それ以上のことは、ハッキリしてから伝えるつもりだ。
 どうせ、伝えたところで桜子に期待できることはなにもないのだから。
 そんなことを話しながら、私はおにぎりを食べた。
 天汁が染み込んだおむすびは、口の中でほろりと解けていく。お米は天ぷらの油でコーティングされていて、同じご飯で握っているのに、さっきとの『和歌山おむすび』とは全然違う味がする。
 桜子は学校の勉強が苦手だったのに、学校で教えてくれないことはたくさん知っている。
 美味しいおにぎりの握り方や、土地土地の名産品、人に愛される方法。そういった社会に出ると、学校の勉強ができる人でも困るような問題をすらすら解いていくからすごい。
 褒めると調子にのるから、本人の前では絶対に言わないけど。