桜子は子供の頃から定期的に家出をする。
 まだ幼稚園くらいの頃は、小さなポシェットにドロップ缶といくつかのおもちゃを詰めて家出をしていた。
 その頃は同居していた祖母も健在で、夕方、祖母と母が夕飯の支度、私と姉が学校の宿題とそれぞれが忙しくしている間にこそっと家出をして、日が沈んで食事をしようという頃になって皆が桜子の家出に気付くのだ。
 それで慌てて家族総出で桜子を探すと、あの子は家の近所でいつも泣いていた。
 自分で勝手に家出して、淋しくなって泣く。
 そんな変な子だった。
 そしてさんざん家族に心配をかけて、泣きながら家に帰ってくると、桜子は心配かけたお詫びの印として、私に黄色いレモン味のドロップをくれるのだった。
 黄色いドロップは、私ではなく姉の好きな味だ。でも桜子は必ず私に黄色いドロップを差し出す。
 桜子と家出と黄色いドロップは、私の思い出の中でワンセットになっている。