「お母さんの誕生日に、姉妹三人で出し合ってバッグを贈らない?」
 三日前、電話をかけてきた姉は、歯切れのいい口調でそう言った。こういう口調で質問してくる時、それは彼女の中では決定事項なのだ。
「いいわね」
 反論してもケンカになるだけだから同意すると、姉がいいと思ったバッグは四万五千円くらいだと話した。
「艶のある牛皮使っていて、お母さんの好きそうなデザインなのよ」
「いいなじゃない」
 私が同意すると、姉は「杏は二万円で、私が一万五千円で、桜子が一万円。それでいいわよね」と、勝手に負担金額の配分を決めていく。
「ちょっと待ってよ。なんで私が一番高いのよ」
 抗議の声を上げるけど、姉は知らん顔だ。
「アンタは独身だし、お姉ちゃんでしょ? 桜子より高いお給料を貰っているんだからいいじゃない。私は、旦那さんの稼ぎで養ってもらっている専業主婦なのよ。それに買い物にいく手間があるのは、は私なんだから」
 姉は、隙のない口調でそう説明した。
 出た。理不尽っ!
 三姉妹の真ん中の私だけ、都合に合わせて『お姉ちゃんなんだから』とか『妹のくせに』と、価値観を押しつけられる。
 そのことを抗議しても、どうせ姉には勝てないのは、この年齢にもなれば悔しいけど学習済みだ。
 私が渋々承諾すると、姉は『桜子にも言っておいてね』と、言い残して電話を切った。
 電話のこちら側に置き去りにされた気分の私の心には、もやもやとした不満が残った。