ある日仕事から帰ってきたら、妹の桜子が家出してきていた。
どうして家出とわかるかと言えば、ドロップ缶を持っているからだ。
普段はあまり食べないくせに、桜子は子供の頃から、時々家出をする子で、家出をするときは必ずドロップ缶を持ち歩く。
仕事から帰ってきた私と目が合うと、桜子は見せびらかすようにドロップ缶を揺らす。
「なに? 家出してきたの?」
「あたり」
マンションの前の植え込みに腰を下ろしていた桜子は、ニシャリと笑って立ち上がる。その動きに合わせて、ドロップ缶をガシャガシャ鳴る。
「ここ、防犯設備がよすぎだよ」
「増井君とケンカでもしたの?」
エントランスのロックを解除しながら聞く。
増井君は桜子の恋人で、一緒におにぎり屋さんをやっている。
「そんなんじゃないよ。明日はお店が休みだから、久しぶりに家出しようと思って」
私がエントランスドアを押さえていると、桜子はするりと体を滑り込ませる。
そして私を上目遣いに見上げて、得意げな顔で言う。
「ケンカしているのは、杏ちゃん方でしょ?」
「え?」
短い廊下を並んで歩いて、私はエレベーターの昇降ボタンを押す。
「あやめちゃんと、絶好中だって聞いたよ」
「絶交って、子供じゃないんだから……」
そう言いながら、エレベーターに乗り込んで、三階のボタンを押す。
ゆっくり登っていくエレベーターのかごの中で、私は三日前のあやめちゃんとの電話の内容を思い出す。
どうして家出とわかるかと言えば、ドロップ缶を持っているからだ。
普段はあまり食べないくせに、桜子は子供の頃から、時々家出をする子で、家出をするときは必ずドロップ缶を持ち歩く。
仕事から帰ってきた私と目が合うと、桜子は見せびらかすようにドロップ缶を揺らす。
「なに? 家出してきたの?」
「あたり」
マンションの前の植え込みに腰を下ろしていた桜子は、ニシャリと笑って立ち上がる。その動きに合わせて、ドロップ缶をガシャガシャ鳴る。
「ここ、防犯設備がよすぎだよ」
「増井君とケンカでもしたの?」
エントランスのロックを解除しながら聞く。
増井君は桜子の恋人で、一緒におにぎり屋さんをやっている。
「そんなんじゃないよ。明日はお店が休みだから、久しぶりに家出しようと思って」
私がエントランスドアを押さえていると、桜子はするりと体を滑り込ませる。
そして私を上目遣いに見上げて、得意げな顔で言う。
「ケンカしているのは、杏ちゃん方でしょ?」
「え?」
短い廊下を並んで歩いて、私はエレベーターの昇降ボタンを押す。
「あやめちゃんと、絶好中だって聞いたよ」
「絶交って、子供じゃないんだから……」
そう言いながら、エレベーターに乗り込んで、三階のボタンを押す。
ゆっくり登っていくエレベーターのかごの中で、私は三日前のあやめちゃんとの電話の内容を思い出す。