「ねえ刀坂くん。一緒にオカルト研究同好会に入らない?」
夏休みを目前に控えた、放課後の教室。
梅雨もすっかり明け、暑苦しいセミの声が響く中で、鏡宮はそれに負けないくらいの元気さで声をかけてきた。
「オカルト……? って、ああ。玉木の所属してるところだっけ」
鏡宮からの唐突な提案に、僕はどう返事をしたものか迷っていた。
ここ最近、僕らは二人で部活動見学に勤しんでいた。鏡宮がどこかのクラブに所属したいというので、一緒に見て回っていたのだ。
「玉木さんもぜひどうぞって言ってくれてるの。私たちが入れば、人数の関係で同好会から部活に昇格できるかもしれないんだって!」
どうやらかなり乗り気らしい。にしても、僕も同じ部活に入ることが前提になっているのはどうしたものか。
今まで僕は、極力人と関わることを避けて生きてきた。学校のクラスメイトたちと仲良くすることにも気が進まなかった。
どうせ友達を作ったところで、十年前のあのお姉さんのように、いつか消えてしまうかもしれないと思っていたからだ。
だから部活に入ることなんて今まで考えたこともなかった。体験入部だって、鏡宮に誘われなかったら今後も絶対に経験することはなかっただろう。
そんな僕が、まさかのオカルト研究同好会から歓迎されている。
良くも悪くも、夢でも見ているかのようだった。
「鏡宮って、オカルト好きだっけ? なんでわざわざそこを選ぶの? 玉木に勧誘されたから?」
疑問に思って、僕は尋ねた。
確かに鏡宮は、神様の存在を信じるくらいにはオカルトに対して柔軟な姿勢だったが、だからといって、普段から超常現象なんかの類に特別興味を寄せているようには見えなかった。
「ふふふ。実はね、玉木さんからすっごく良い情報を教えてもらったんだよ。こういう情報は、オカルトに詳しい人とかじゃないとなかなか手に入れられないと思うの」
「良い情報?」
彼女は内緒話でもするときのように「耳を貸して」と僕に言った。
言われた通りに片耳を差し出せば、彼女はそこへ唇を寄せて、片手を添えて囁く。
「神社の神様ってね、死なないんだって」
「えっ」
思わぬ言葉を囁かれて、僕は一瞬だけ思考が止まった。
神様は死なない。
なんだそれは。
「玉木さんが言ってたの。神社の神様はね、たとえ姿形が変わっても、この世界のどこかにいるんだって。神社が廃れて、その場所からいなくなっても、どこかで私たちのことを見守ってくれているの」
神様は死なない。
なら、あのカミサマも。
姿形は変わったとしても、今もどこかで生きているというのか。
「それ、本当に玉木が言ったの? でも彼女は……」
あの神社の神様が消えてしまうということを、僕に教えたのは他でもない玉木だった。
けれど思い返してみれば、彼女は神様のことを『死ぬ』とは言っていなかったような気もする。
『いなくなる』とか『消える』とか、『体が朽ち果てる』なんて言い方はしていたけれど。思えば確かに、はっきり『死ぬ』とは言っていなかった。
「こういう情報って、同好会に入ればきっとたくさん知ることができると思うの。みんなで情報交換をして、私たちもたくさん勉強すれば、もしかしたら……あの白猫ちゃんにもまた、どこかで会えるかもしれないよ?」
鏡宮はいつものようにこちらに顔を近づけて、至近距離から僕の顔を覗き込む。その表情は慈しみを滲ませ、これ以上にないほど穏やかな微笑を浮かべていた。
カミサマが、この世界のどこかにいる。
僕たちが探しにいけば、また会うことができるというのだろうか。
——真面目に捜せば意外と見つかるものですよ。あなたはそもそも捜そうとすらしなかった。自分から動こうとしない人が、欲しいものを手に入れられるわけはありません。
前に玉木が言っていた。
自分の欲しいものを手に入れるためには、自分から動かなければならないのだと。
最初から何もかも諦めて、何もせずにじっと待つだけでは何も変わらない。
やる前から諦めるのはもったいない。
僕たちが本気で探せば、この世界のどこかにいる神様を見つけられるかもしれない。