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最終的に、呼ばれて向かった先はいつものあの神社だった。
山の陰にひっそりと存在する、誰にも管理されていない廃神社。色褪せた鳥居の前には、すでにクラスメイトの面々が集まっていた。
日暮れ前の、黄昏時。
雨はほぼ止みかけていて、薄紫の雲間からはオレンジの光が差している。
僕が鳥居の方へ近づいていくと、榊くんがこちらに気づいて手を振った。
「やっと来たか、刀坂! こっちだ、こっち」
第一発見者は別の生徒のようだったが、榊くんが先頭に立って僕を誘導する。
いつもは誰もいない境内にこれだけの人数が集まっているのは新鮮で、まるで別の場所に来たかのようだった。
「この奥なんだけどな、場所が場所だから、まだ誰も入ってなくて……」
そう言って示された場所は、奥に見える社殿の、さらにその奥だった。
本殿と拝殿とが一体になった、古めかしい建物。いつの時代に建てられたのかもわからない木造のそれは老朽化が進み、格子戸のガラスは割れ放題になっている。
その格子戸の向こう——わずかな隙間から見える内部を、榊くんは指差している。
僕は恐る恐るそこへ顔を近づけて、格子の隙間から中を覗き見た。
最初は、中が暗すぎて何も見えなかった。
すぐに別のクラスメイトがスマホのライトで奥を照らしてくれる。
すると、ぼんやりと照らされたその場所に、長い尻尾が見えた。見覚えのある色だった。
僕は息をするのも忘れて、その光景に見入っていた。
ライトを動かしていくと、やがてお尻と、背中までが見えた。全身が薄く黄ばんだ白い毛で覆われていて、見るからに年を取った獣の姿がそこに横たわっている。
「どうだ? 見えるか刀坂。白いボサボサの猫って、こいつだろ?」
榊くんの声を耳にしながら、僕は心臓の早鐘を聞いていた。どくん、どくんと、全身の血が早送りされているような気がしてくる。
「……カミサマ」
ここにいた。
社殿の奥に。
どこを探してもいないと思っていたのに。本当は、こんなにも近くにいたのだ。
社殿の中で、力なく四肢を投げ出しているその体は、まるで生きているようには見えなかった。
僕はわずかに躊躇ってから、格子戸に手をかける。そうして横方向へ押し開けると、ガタガタと何度もつっかえながらそれは開いていった。
こういった場所は、本来なら入ってはいけないものだろう。特に本殿は御神体が安置されていて、神様の居場所だと聞いたことがある。神職でも何でもない一般人の僕が入ることなど許されないはずだ。
けれど、僕はたとえ祟られたって構わなかった。
だって、カミサマがここにいるのだ。
この十年間、僕はカミサマとずっと一緒だった。毎日当たり前のようにここで会っていた。きっと、他の誰よりも長い時間、こいつと過ごしてきたと思う。
それなのに、最後の時だけは会えないだなんて、そんなのってないだろ。
「ねえ。起きてよ、カミサマ」
今にも床が抜けてしまいそうな板の上を這って、僕はカミサマの方へ体を寄せた。
後ろで見ているクラスメイトたちは誰も中へ入っては来ない。
「今日は煮干しは持ってないけどさ、僕のことはわかるだろ?」
近づいてみればみるほど、カミサマの体からは生気が感じられなかった。
もとからボサボサだった全身の白い毛は、いつも以上に固くなって、まるで作り物のような無機質さがある。