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 見慣れた町の中を、僕は再び駆け抜けていた。
 雨は今朝よりも少し弱まっている。空はわずかに太陽の光を取り戻し、本来の昼の景色に戻りつつある。

 この町のどこかに、カミサマがいる。
 あのボサボサの白猫を探し出して、鏡宮を返してもらわなければならない。

 この十年間、カミサマはずっと僕のそばにいてくれた。僕の心に寄り添って、その寂しさを埋めてくれていた。
 だから、そんな優しい神様なら、こちらの声に耳を傾けてくれるかもしれない。

 ——私は確かめたかったんです。あなたがいま関わっている霊的な存在が、良いモノなのか、悪いモノなのかを。

 走りながら、脳裏で玉木の言葉を思い出す。
 あの病室で、彼女は話してくれた。なぜ僕にここまで協力してくれるのか、そのワケを。

 ——別に信じてくれなくてもいいんですけど。むかし、私には幽霊の友達がいたんです。

 彼女は幼い頃の思い出を話してくれた。まだ小学校に上がる前の、物心がついたばかりの頃の記憶だった。

 ——当時は古いアパートの一室に住んでいたのですが、その部屋には女の子の幽霊がいたんです。私はその子と一緒に遊ぶのが大好きで、いつも二人でおしゃべりをしたり、かくれんぼをしたりしていました。でも両親はそれを気味悪がって、すぐに部屋を引き払ってしまったんです。

 玉木の友達だった、幽霊の女の子。
 それを両親は『悪いモノ』だと決め付けて、玉木から無理やり引き離してしまった。

 ——アパートはその後すぐに取り壊されてしまったので、今は跡形もありません。だからもう確かめようもないのですが、私には、あの女の子が悪いモノだったとはどうしても思えないんです。世のオカルト話や怪談では、幽霊は大抵『悪いモノ』として登場しますし、実際には確かに危険な霊も存在します。でも、中には優しい幽霊だっている。それを証明したくて、私はオカルトを研究するようになったんです。

 この世に生きる人間と同じように、霊的な存在にも『良いモノ』と『悪いモノ』とがある。彼女はそれを証明したかったのだ。

 ——だから私は、あなたの関わっている神様も、できれば良いモノであってほしいと思っています。それを証明することで、私は少しでもあの友達の身の潔白を示せるような気がしているんです。

 玉木がオカルト研究同好会に入っているのも、僕にこうして協力してくれるのも、すべてはその友達のためだったのだ。

 人は誰だって、大切な思い出を胸に秘めている。
 それを原動力にして、日々を生きている。

 なら、いま僕がこうして走っているのは、他ならぬ鏡宮のためなのだ。

 ——あなたはまだ、間に合うと思います。あなたが動くことで、何かが変わるかもしれません。

 僕が行動することによって、何かを変えられるかもしれない。
 鏡宮のことも取り戻せるかもしれない。

 だから僕は、もつれそうになる足を意地でも動かして、クラスメイトたちの待つあの教室を一心不乱に目指していた。