懺悔の言葉ならいくらでも出てくる。
けれど、それらを並べ立てたところで鏡宮は戻って来ない。
十年前のあのときと同じだった。
あのお姉さんのことも、僕は守ることができなかった。
二人とも、僕の心の支えになってくれたのに。なのに僕は、彼女たちに対して何も返すことができなかった。
また、繰り返してしまうのか。
同じ過ちを繰り返す自分が情けなくて、どうにかなってしまいそうだった。
「神隠しに遭ったのは、もしかして鏡宮先輩ですか?」
「うん。…………え?」
鏡宮先輩、と玉木は言った。
つい聞き流しそうになってしまったが、誰もが忘れてしまったはずのその名前を、彼女は口にした。
「今、何て?」
「鏡宮先輩が消えてしまったんじゃないんですか? 刀坂先輩、いつも彼女と一緒でしたよね」
まるで何でもないことのように、さらりと言ってのける玉木。
僕は呆然として、しばらく開いた口が塞がらなかった。
「お、覚えてるの? 鏡宮のこと」
「覚えてるも何も、当たり前でしょう。もともとうちの学年でも有名だって前にも言ったじゃないですか」
「いや、そうだけど。そうじゃなくて」
驚きのあまり、うまく説明ができない。
なぜ、玉木は覚えているのだろう?
榊くんも、他のクラスメイトたちも、みんな鏡宮のことを忘れてしまったのに。
「話が見えないので、一度最初から説明してもらってもいいですか? 神隠しのことも、あの神社のことも。あなたが知る限りのことを全部教えてください。私もあの神社について色々と調べましたので、お互いに答え合わせをしましょう」
それから僕らは、互いの知っていることを時間をかけて話し合った。
十年前のあのお姉さんのことも、鏡宮のことも。そして、カミサマのことも。
「なるほど。自ら消えてしまいたいと願った人を、神様が連れていった。実際に起こったことと照らし合わせれば、その仮説も説得力がありますね」
一通り話し終えてから、改めて玉木が言った。
「でも、どうして僕たちだけが鏡宮のことを覚えているんだろう……。それに三輪山さんも、自分だけはお兄さんのことを覚えているって言ってたし」
「共通点としては、私たちは全員、あの神社に行ったことがありますよね」
山の陰にひっそりと存在するあの廃神社。
僕はもちろん、鏡宮も、三輪山さんも、そのお兄さんも、そして玉木も、全員があの場所を訪れたことがある。
「あの神社にはかつて、猫神様が祀られていたそうです。二十年ほど前までは境内を管理していた団体があったようですが、すでに解散してしまったと聞きました。なので、今は完全に廃社となっていますね」
二十年前といえば、まだ僕も生まれていない頃だ。そんな昔から、あの場所は誰にも管理されることなく放置されているということか。
「前にも言いましたが、廃神社というのは危険なんです。神の力が弱まった神域には悪いモノが集まりやすいですから、その場所で何が起こっても不思議ではありません」
「悪いモノ……。でも、神隠しを起こすのは神様なんじゃないの? 神様もその悪いモノに当てられて、悪い神様になったってこと?」
「詳しいことはまだわかりません。でも、私もそこが一番気になっているんです」
言いながら、彼女の眼鏡の奥に見える瞳がスッと細められる。
「あそこに住み着いていた白猫。私も見たことがあるんです。あの子は、神の化身だったんじゃないでしょうか」
「神の化身?」