◯
昨日に続いて、今日も学校を飛び出すことになった。
けれど昨日と違うのは、この雨の中、傘を差すのも忘れてがむしゃらに走っていること。
そして、隣に鏡宮がいないこと。
彼女が、いなくなってしまう。
十年前のあのお姉さんみたいに、僕の前から消えてしまう。
(嫌だ……)
一番恐れていたことだった。
友達を失うこと。
大事な人がいなくなってしまうこと。
それが怖かったから、僕は今まで友達を作るのを諦めていたのに。
(鏡宮、どうして)
なぜ、彼女が消えなければならないのだろう。
昨日あの神社で一緒にいた時は、いつもみたいに笑っていたのに。
——あの人はずっと、『消えてしまいたい』と言っていたの。
前に三輪山さんが言っていた。
神隠しが起こるのは、神様がその人の心に寄り添って連れていってしまうからなのだと。
なら、鏡宮も。
彼女もこの世から消えてしまいたいと願ったのだろうか。
だとしたらそれは、やはり昨日のことがあったからか?
例の切りつけ事件のことを掘り返されて、濡れ衣を着せられたから。何者かに悪意を向けられて、前の学校でのことを繰り返しそうになったから。
(でも、鏡宮は……)
彼女は、僕が隣にいれば平気だと言っていた。少なくとも昨日はそう言っていたのだ。
けれど、あれはウソで、ただの強がりだったのだろうか。
本当は、何もかもを捨てて、この世から消え去ってしまいたいと考えていたのだろうか。
雨はどんどん強くなり、どこかで雷の唸る音が聞こえる。空を覆う雲は真っ黒で、辺りはまるで真夜中のような暗さだった。
水を吸った制服が重くて、思わず脱ぎ捨ててしまいたくなる。全身が鉛のように重くて、足がもつれそうになる。
息が切れる。体の中心は熱いのに、全身から寒気がした。ぼんやりとした頭の中で、さっきの教室での光景がぐるぐると回っている。
——誰だよ『かがみや』って。
クラスメイトたちの声が脳裏で蘇る。
あれほど鏡宮に夢中だった男子たちが、彼女の存在を完全に忘れてしまっていた。
——刀坂。どうしたんだよ。何かヘンな夢でも見たのか?
あの榊くんですら、彼女のことを覚えていなかった。
昨夜は告白までしたくせに——と、そこまで考えたとき、僕はハッとして、制服のポケットからスマホを取り出す。
ここに彼女からのメッセージが残っていないだろうか。
昨夜は僕が早めに寝てしまって、彼女の言葉を最後まで読むことができなかった。
あの文面に何か、彼女の気持ちが綴られていなかっただろうか。
しかし、アプリを開いて確認してみると、そこには鏡宮のアカウントはどこにもなかった。まるで彼女が最初から存在しなかったかのように、僕とやり取りしたメッセージも全て消え失せてしまっている。
昨夜の自分が恨めしい。
なぜこんなときに限って、僕は彼女の話を聞いてあげられなかったのだろう。
あのとき、彼女は僕に何を伝えようとしていたのだろう?
わからないことだらけのまま、やがて僕の足は、あの廃神社へ辿り着こうとしていた。