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その後も度々、僕と鏡宮の目撃情報は校内を飛び交っていた。
周囲からここまで注目を浴びるのは僕にとっては初めてのことで、まるで別世界の住人にでもなったかのような気分だった。
鏡宮とはもちろん恋仲などではないし、デートをしているわけでもないのだけれど、周りから見ればデートと変わらないようなことをしているわけで。
誰もが羨むような相手と毎日を一緒に過ごせていることを改めて認識する度、僕はつい、抗いようのない胸の高鳴りを覚えてしまう。
(勘違いするなよ、僕)
鏡宮とはただの友達なのだ。
間違ってもそれ以上の関係ではない。
けれど。
僕にとって『友達』というのは、とても大きくて、かけがえのない存在だった。
十年前にあのお姉さんが消えてしまってから、僕は友達を作ることを諦めていた。
彼女が帰ってこない限り、僕はこの先一生、友達と一緒に過ごすことなどないと思っていた。そうに違いないと思っていたのに。
「刀坂くーん! 一緒に帰ろ!」
鏡宮はいつも、当たり前のように僕と友達でいてくれる。一緒に下校して、二人であの神社へと向かう。
いつしかそれが日常の風景となり、季節はいよいよ梅雨を迎えようとしていた。
六月に入って制服も夏用へと変わり、僕らは空色のワイシャツを着て授業に臨む。
月の初めにあった席替えでは、鏡宮と隣同士になった。
「おんれいしろ神社かな? それとも、ごりょうはく神社かな?」
ホームルームが始まる直前、彼女は僕の隣の席で、ノートに書かれた『御霊白神社』の文字とにらめっこしていた。
以前、僕が図書館で仕入れてきた唯一の情報。古い地図に記載されていた、あの廃神社の名称だ。
御霊白神社。読み仮名は振られていなかったので、正式な読み方はわからない。
玉木なら知っているのだろうか、とたまに考えるものの、あまり彼女を頼りたくはないという感情が先行する。
「今日は午後から雨が降るんだって。そろそろ本格的に梅雨入りかなぁ」
ノートから顔を上げた鏡宮は、僕にそう言ってから、教室の窓の方へと目をやった。
外に見える空はどんよりとしていて、今にも雨が降りそうだった。
あの神社は、雨避けになる場所がほとんどない。かろうじて拝殿の正面にある狭い空間だけが、手前に突き出た屋根に守られている。
今までのように僕一人だけなら何とも思わなかったけれど、あんな場所に女の子を一緒に連れていくとなると、さすがに鏡宮に申し訳なくて気が引けてしまう。
「僕、雨は嫌いだな」
思わず、そんなことを口にしていた。
ただ自然と口から漏れただけで、特に話題を振ったとかそういうつもりではなかったのだけれど、鏡宮は律儀にそれを拾って、
「うーん。私もそんなに好きじゃないかなぁ。でも、『梅雨の晴れ間』はすっごく好き! 雨上がりの空って綺麗だし、梅雨の時期に晴れるとなんだか得した気分になるし」
さすがはポジティブ女子。僕の陰鬱な独り言を、こうして明るい話題に変えてしまう。
そんな彼女に笑顔を向けられると、僕も釣られて苦笑してしまう。
やがて担任教師が部屋に入ってきて、号令を合図に僕たちは立ち上がった。
いつのまにか、僕はこのクラスの一員として自然と溶け込めているような気がしている。
鏡宮がこうして隣にいてくれるだけで、僕の心は救われている。
十年前にあのお姉さんに抱いていた安らぎに似たものを、僕は鏡宮に対しても感じ始めていた。