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翌日以降の連休中は、鏡宮とは会えなかった。人気者の彼女はどうやらゴールデンウィークの予定がぎっしりと詰まっているらしい。
そして僕はといえば、悲しいことに本当に何の用事もなかった。
例の神社に行ってもカミサマはいない。あのお姉さんが帰ってくる気配もないので、気分転換がてら、地元の図書館に行くことを思い立つ。
——廃神社というのは危険ですよ。
脳裏で、玉木の言葉がこびりついていた。
彼女のスピリチュアルな話を鵜呑みにしたわけではないが、あの神社がどういう場所なのか、というのは純粋に気になっていた。図書館に行けば郷土史の本も置いてあるだろうし、調べれば何かわかるかもしれない。
あの神社にはどんな神様が祀られていて、なぜ今は廃れてしまったのか。
しかしいざ図書館へ着いてみれば、郷土資料というのは思った以上に数が多かった。薄くて古い冊子のようなものから、図鑑のように分厚いものまで多種多様に揃っている。
さすがに残りの連休すべてを使っても読み切れるとは到底思えない。
さてどこから手をつけたものかと唸る僕の元へ、
「あ、ぼっちの刀坂先輩」
と、まさかの声が届く。
驚いて振り向いてみれば、そこにいたのはおさげ髪に赤縁メガネの少女。見慣れた神木高校の制服を着た彼女は、まごうことなき玉木和泉だった。
「た、玉木? なんでここに」
「それはこっちのセリフですけど。私は同好会の活動で来たんですよ。ほら、あそこの机に固まっているのがオカ研のメンバーです」
そう指で指し示された場所を見ると、そこには確かに制服姿の生徒たちが五人ほど集まっていた。
「で、刀坂先輩はなぜここに? 例の神隠しについて調べに来たんですか?」
眼鏡越しに玉木の目が光る。
まるで彼女の策略に嵌ったかのような不快感を覚えて、僕はあえて素っ気ない態度を取った。
「べ、別に何だっていいでしょ」
「まあ、そうですね。先輩がここで何をしようと私には関係のないことですし。私は一応、あなたの通っている神社について調べようと思ってますけどね」
「え? それって……」
さらりと述べられた内容に虚を突かれ、僕は思わず聞き返そうとしたが、彼女はさっさと僕から離れて仲間たちの元へと戻っていった。
彼女もあの神社のことを調べている。
それは、僕の抱えている問題について、彼女なりに解決の糸口を探してくれているのだろか。
(いや、さすがにそれはないか)
きっと、たまたま調べ物が被っただけだろう。
下手な幻想は抱かないようにして、僕はひとり自分の作業へと戻った。
しかし、あの寂れた神社についてピンポイントで調べようとしても、それらしい文献はなかなか探し出せなかった。
かろうじて見つけたのは、古い地図を印刷したページにあった『御霊白神社』という文字。場所的に考えると、おそらくはあの神社の名称だろう。振り仮名は振られていなかったので、読み方はわからないけれど。
名前が判明したぐらいで何がどうなるというわけでもないのだけれど、次に鏡宮に会ったときには、いの一番に教えてあげようと思った。
早く、休みが明けてほしい。
学校の始まりがこんなにも待ち遠しく感じられたのは、僕の人生において初めてのことだった。