「もしかして、オカルトっぽい話をしてます?」
少女はクラブサンドが載った皿を僕の前に置きながら聞いた。
「え。オカルト……?」
いきなり予想外の質問を投げかけられて、僕は思わず少女の顔を見上げた。
赤縁眼鏡のレンズ越しに、切れ長の瞳がこちらを見下ろしていた。相変わらずにこりともしないその顔は、どこか冷ややかな印象がある。
「神様がどうとか、人が消えたとか話してましたよね。オカルト系の話じゃないんですか?」
「あ、いや、その……」
再び質問を投げかけられて、僕は返事に詰まった。
あのお姉さんのことについて、何の関係もない赤の他人から詮索されるのは避けたい。
さてどう答えたものかと悩む僕の隣から、
「うーん。オカルト……なのかなぁ? 確かに、人が急に消えちゃったっていうのは超常現象っぽい感じかもしれないね?」
と、鏡宮が普通に答えようとしたので、「ちょっと、鏡宮」と慌てて制止する。
「人が急に消えた? それって、神隠しってことですか?」
少女の眼鏡の奥に見える瞳が、すっと細められる。
神隠し。
彼女の口から発せられたそのワードに、僕はどきりとした。
十年前、あのお姉さんはある日突然姿を消した。
その現象に名前があるかどうかなんて今まで考えたこともなかったけれど、これはいわゆる『神隠し』と呼ばれるものなのだろうか。
「よかったらその話、詳しく聞かせてもらえませんか? 私、そういう類の知識はある方なので」
まさかの申し出に、僕は面食らった。
そういう類の知識って何だよ——と不審がる僕には構わず、隣の鏡宮は嬉しそうに声を弾ませる。
「ねえ、話してみようよ刀坂くん。何か有力な情報を教えてもらえるかも!」
楽観的な彼女を見て、僕はますます頭を抱える。
何やら知識があると豪語するこの眼鏡少女は、つまるところオカルト系の話が好きなだけではないのか?
「おい和泉。早く持ってってくれ」
と、今度は厨房の方から低い声が届く。見ると、料理を作り終えた男性が待ちくたびれたように少女を睨んでいた。
「わかってるって、じっちゃん。いまイイところだったのに」
そう言って、仏頂面から膨れっ面に変化した少女は、面白くなさそうに僕らの席から離れていった。
◯
「わぁー! おいしそう!」
やがて運ばれてきたパンケーキを見るなり、鏡宮は目を輝かせた。
出来立てふわふわのパンケーキの上にはベーコンとポーチドエッグが載せられ、その横には色鮮やかなサラダが添えられている。どうやら『エッグベネディクト』なる名前らしいが、世間に疎い僕は初耳だった。
スマホのカメラでしっかり写真に納めてから、彼女はようやく料理を口に運ぶ。
「うーん! おいしいー!」
心の底から幸せそうな顔をする鏡宮を見て、僕も思わず笑みが漏れる。
猫に釣られてたまたま入った店だったけれど、どうやら料理の味も気に入ってくれたようだ。