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新興住宅地の中は、本当に何の変哲もない住宅街だった。
およそ二、三十年前に建てられたであろう一軒家の群れが、それぞれリフォームしたりしなかったりで仲良く軒を連ねている。
僕の通っていた中学校の前を通ると、だだっ広いグラウンドには野球部の練習風景がフェンス越しに見えた。奥の方では陸上部がストレッチしている様子も確認できる。
「刀坂くんも、中学のときはこんな感じだったんだねー」
「いや、僕は帰宅部だったから……部活とかは全然」
「でも体操服はあれを着てたんでしょ? そう考えると、なんだか面白いね!」
面白いか? と疑問を抱きつつも、鏡宮が楽しそうにしているからまあいいか、と思う。
そうこうしているうちに、時刻はいつのまにか正午を回っていた。
結局、カミサマの姿は未だどこにも見えず、例のお姉さんについては手掛かりの掴み方すらわからない。
「私、ちょっとお腹空いてきちゃったかも……」
「近くにコンビニがあるから寄る? それとも、どこかお店に入って食べようか」
そう提案してみたものの、こういう時、普通はどうするのが正解なのだろう?
友達のいない僕には、こういう場面での流れが全く想像できない。
女性をエスコートするのに慣れている男性なら、すでにどこかのお店を予約していたりするものなのだろうか。……なんて考えてみたけれど、さすがにそれはないか、と思い直す。そもそもこんなド田舎では予約できるような店自体がない。
でも、これがもし榊くんだったら。
クラスの人気者である彼なら、こんな時はどうするのだろう——と、あれこれ頭を巡らせている内に、
「あっ。あそこにカフェがあるよ!」
と、鏡宮が何やら良さげな店を見つけていた。
彼女の指差す先に、ブラックボードの看板が出ていた。カラフルなペンで書かれた文字の横には、可愛らしい猫のイラストも添えられている。
「わっ。このお店、猫ちゃんがいるんだって!」
ボードの注意書きに、店内には猫がいる旨が記されている。それに気づいた瞬間、鏡宮の目の色が変わった。
「ねえ刀坂くん。どう? ここに入ってみない!?」
彼女はキラキラと瞳を輝かせながらこちらに尋ねる。
そんな顔をされると、断る選択肢なんてあるはずがない。
「うん。そうしようか」
そう返事をしてから、改めて目の前の店を眺める。
住宅街の一角にある、一見普通の家にも見えるカフェ。おそらくは一階がお店になっていて、二階が居住空間になっているのだろう。
テンションがマックスにまで上がっている鏡宮は、軽い足取りで入口の扉へと近づいていく。
その様子を見ていると、本当に猫が好きなんだな、と思う。
彼女がそっと扉を開けると、上部に取り付けられたアンティーク調のドアベルがカランカランと音を立てた。